知的資本戦略・マネジメントを再構築する
~モノ中心主義の知のガラパゴス日本からの脱却~

日本経済は、失われた30年とも言われる長い低迷を続けています。経済複雑性指標(ECI:Economic Complexity Index)は、20年間世界No.1であるのに、一人当たりGDPは28位であり、6位の米国の6割弱となっています。
その要因として、知的資本を中心としたインタンジブルズが競争力の源泉として、より重要な経営資源となった今日においても、日本企業はモノ中心であり知的資本の戦略やマネジメントを重視していないことが挙げられています。
今回は、日本企業の競争力を復活させるための知的資本戦略・マネジメントのポイントをご紹介します。

日本は複雑性のジレンマに陥っている

経済複雑性指標(ECI:Economic Complexity Index)は、マサチューセッツ工科大学メディアラボのセザー・ヒダルゴ准教授が提唱している指標です。国内総生産(GDP)のように生み出したモノの量ではなく、モノを生み出すための能力の指標であり、生み出したモノの知識集積度が高ければ、ECIは高くなります。
このECIでは、日本は20年間世界一を続けており、知識集積度が高い複雑なモノを作る能力は世界No.1であることを示しております。また、ECIは、一人当たりGDPと相関関係にあると言われ、28位の日本経済は今後復活し発展する潜在能力を大いに秘めていると言えます。

【図1】ECIの世界ランキングでは、日本は20年間世界一

では、何故日本経済は長期的な低迷を続けているのでしょうか。日本は、まさに複雑性のジレンマに陥っているのです。

複雑なモノ、即ち知識集積度が高いモノを作る時に知識の「すり合わせ」が必要です。日本は伝統的な価値観や文化からこの「すり合わせ」を得意とし、これにより経済的な優位性(差別化による優位性)を生み出してきたと言えます。
しかし、この「知」の複雑性の増大は、同時に「知」の独自化(ガラパゴス化)を招き、イノベーションの創出やより大きな経済的利益を享受できず、長期間低迷を続けていると言えるのではないでしょうか。

日本経済は、「知」のガラパゴス

ガラパゴス化の代表例が皆さんご存じのガラケー(ガラパゴス携帯電話)です。2000年代前半に日本には幾つもの携帯電話を製造するメーカーがありましたが、それらの製品は日本国内の独自仕様でした。これに対し、GoogleがアンドロイドOSを作ってこれをオープン化したことにより、アンドロイド携帯が世界を席巻し、日本のメーカーの多くが撤退を余儀なくされました。まさにガラパゴス日本の大きな敗北と言ってもいいでしょう。

もう一つの事例が半導体製造機器です。かつて日本は半導体露光装置の分野で、7割以上の世界シェアを誇っていましたが、オランダのASMLの戦略によって大きくシェアを失うことになったのです。
日本のメーカーが独自仕様と内製化に拘ったのに対し、ASMLは半導体露光装置のモジュール化と基幹部品の外注化を推し進め、装置間を標準化したインターフェースで接続できるようにすることによって、ユーザー要望に応える戦略でシェアを奪い、今では7割以上の世界シェアを誇っています。

このように日本のガラパゴス化を招いたのは、独自の「知」にこだわり過ぎたこと、知的資本の戦略やマネジメントの基本を分かっていなかったことです。

知的資本におけるオープン&クローズ戦略

知的資本においては、オープン&クローズ戦略が重要と言われています。

オープン戦略とは、「知」を公開することによって、デファクトスタンダード化を狙う戦略です。日清食品の安藤百福氏がインスタントラーメンの技術をオープンにしたのは、正にインスタントラーメンという新たな市場を大きく拡大していくためでした。また、他社の「知」を利用することもオープン戦略の一つです。オープン戦略では、「知」が広がることにより市場拡大は期待できますが、価格競争に陥り易いというリスクもあります。

クローズ戦略とは、「知」を秘匿し、独自性を高め競争優位を狙う戦略です。クローズ戦略では、独自性からくる高利益を期待できますが、市場拡大に難点があります。

オープン&クローズ戦略は、この2つの戦略の良いとこ取りをする戦略といえます。

【図2】オープン&クローズ戦略

オープン&クローズ戦略の成功例としては、インテルも有名です。インテルは、マザーボードの仕様を規格化し公開しました。これにより、多くのメーカーがマザーボード市場に参入し、価格低下と普及に貢献しました。一方、MPUの仕様は秘匿化し、独占的な利益を享受したのです。
このように市場におけるオープン&クローズ戦略においては、どの「知」が自社の競争優位を決める「コアな知」かを特定し、コアな知はクローズ化し、それ以外の知をオープン化します。

社内におけるオープン&クローズ戦略

オープン&クローズ戦略は、市場に対してだけでなく企業内に対する戦略としても活用できます。ここでは代表的な例をご紹介します。

部品のオープン&クローズ

日本企業は、同じ製品群の中に機種やモデルなどがある場合、それぞれにおいて独自部品を設計することがよく見受けられます。これでは、コスト競争力のある製品設計はできません。即ち、設計においては、下図におけるⅣの部品をⅠ、Ⅱ、Ⅲの部品へとオープン化していく必要があります。こうすることによって、設計・試験工数の削減と部品価格の低下が期待できます。

【図3】部品の市場軸×機種軸マトリクス

プロセスのオープン&クローズ

日本企業は、プロセスにおいても独自性が強いケースが多く見受けられます。様々な事業を行っている会社で、例えば、開発プロセスが事業毎に異なっていることも良く見受けられます。当社の事例でも、下記のように開発プロセスが事業毎に異なっている例がありました。

【図4】事業毎に開発プロセスが異なっている例

プロセスについては、グループとして統一化していくことが必要です。前述のように、多角化している企業では事業毎にプロセス定義が異なっていることが多いため、プロセス定義やプロセスにおける用語・内容などの違いを明確化して、統一化していくことが重要です。

ERPの標準機能での導入

ERPの導入も日本企業で失敗しているケースも多くみられます。日本の経営の特徴として強い現場力が挙げられていますが、これが逆に各現場の独自性を強調し、標準化を遅らせていることも否めません。
競争優位でないところは、ノンコアとして独自性を捨てるべきだと言う声は昔からありますが、中々これを達成できる会社がありません。
ERP導入で失敗が多いのが、機能・プロセスからの検討による失敗です。機能・プロセスからの検討は、どうしても部分最適な現状業務の再現を目指してしまうからです。
ERP導入の成功ポイントは、こうした機能・プロセス面からの検討ではなく、知的資本即ち情報・データの面から検討することです。即ち、自社にとって、本当に必要な情報・データは何かを明確にして、その情報・データをシンプルなプロセスでERPに蓄積できるように取り組むことによって、ERPの標準機能が使いこなせるようになるのです。

【図5】Fit to DataでのERP導入

知的資本戦略は、DXの本質である

人間が他の生き物と大きく違う点は、「人間は頭で考えたことを、物理的秩序として物質化できる」ことと言われています。人間の身の回りにある殆どのものが、人間の頭から生み出されたものです。野菜や果物もその例外ではありません。確かに元々は自然から生み出されたものですが、これを人間が食べたいように工夫を積み重ねて今日の野菜や果物が出来ています。そうした意味では、野菜や果物も人間が考えたものと言えます。

従って、殆ど全てものは人間が生み出した「知」が物理的秩序として存在しているものです。そしてこの「知」をデジタル化によって物理的な制約から解放し、デジタル化のメリットにより知的資本の価値を高め、より強力に経営に活かすことが、デジタルトランスフォーメーション(DX)の本質と言えます。

例えば、味の素では、「味の素グループのデジタル変革(DX)」の中で、「DX は、デジタルテクノロジーを活用して企業価値向上サイクルを見える化し、高度化、高速化する取組みであるということができます。これが当社グループのDX による企業価値向上サイクルの設計です。」として、知的資本を中心としたインタンジブルズの企業価値向上サイクルの重要性を謳っています。皆様のDX推進の参考にしては如何でしょうか。

以上のように、日本企業復活の最重要テーマが知的資本を再構築していくことです。是非皆様と一緒に日本企業の知的資本の戦略やマネジメントを再構築し、日本がECIで世界No.1だけでなく、GDPにおいても復活することに貢献していきたいと思っております。

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この記事の執筆者

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