プライシングが経営そのもの!

日経新聞2024年1月3日で味の素・藤江太郎社長が、「値付けは経営そのものだ」と述べています。
日本企業は、高度経済成長期の「量を追った経営」から抜け出せず、失われた30年に稼ぐ力を失ったのではないでしょうか。日本企業の稼ぐ力を取り戻し、ROEの中心である利益率を向上させるためには、「量を追った経営」から「質を追った経営」に転換し、プライシングを経営の中心に置かなければいけません。 

今回は、日本企業の稼ぐ力を取り戻すため、量から質を追った経営への転換、知識集約型経済への転換、価格や利益獲得を中心とする経営への転換についてご説明します。

日本企業のROEが低いのは利益率が低いから

アベノミクスが開始してから10年、日本企業の「稼ぐ力を取り戻す」を旗頭に、様々な提言や取り組みが行われてきました。そうした中で、日本企業のROEを8%以上にすることが求められました。
しかし、2023年7月時点でもROE8%を達成できていない企業は、プライム市場とスタンダード市場の半数以上となっています。なぜこのように日本企業のROEは低いのでしょうか。

ROEを売上高利益率と総資産回転率、財務レバレッジに分解し比較すると下記の図のようになり、日本企業の売上高利益率は米国企業の約半分です。これでは、米国企業並みのROEを達成することはできません。

【図1】売上高利益率・総資産回転率・財務レバレッジの日米比較

日本企業の稼ぐ力を取り戻し、企業価値を向上するためには、利益率の向上が最優先課題なのです。

利益率向上のためには、規模を追った競争戦略≒価格競争を捨てる

こうした利益率の低さは、高度経済成長期の規模を追った経営に捕らわれ、安売りが常態化した日本企業のマインドに原因があります。

高度経済成長期の規模を追った経営の罠

高度経済成長期においては、まだモノが十分に行き届いていないことから、「良いモノを安く」を掲げ徹底的に効率化し、機能的に同質化したモノを大量生産してきました。当然、こうした時代には「良いモノを安く」は経営の王道といえます。
しかし、今日のモノが溢れている世界では、人々の関心は「役立つもの」から「意味のあるもの」にシフトしています。そうした中では、旧来の規模を追った競争戦略(他社追従:物真似→同質化→価格競争)は通用せず、逆に企業の競争力を低下させているのです。
このような世界では、規模の追求ではなく自社の独自性を追求し、真の顧客価値につながる製品やサービスを提供していくことが不可欠です。
即ち、「良いモノを安く」ではなく「良いモノには価値がある」といったようにパラダイムをシフトしなくてはいけません。

【図2】「良いモノを安く」から「良いモノには価値がある」へ

パラダイムシフトは、約30年前から求められていた

このようなパラダイムのシフトは、既に30年ほど前から求められていました。それは人口減少に日本経済がいかに対応するかということです。
日本の生産年齢人口(15~64歳)は、1995年8,726 万人をピークに、2020年7,509 万人(14%減)、2070年4,535 万人(48%減)と減少の一途をたどっていきます。

【図3】日本の将来推計人口

高度経済成長期は、人口増加を前提として経済規模の拡大による経営が行われていました。しかし、1995年以降こうした人口減少が進む中では、日本は人の数に頼らない経済、量に頼らない経済への転換が必須ということです。

労働集約型経済から知識集約型経済へ転換する

「高度成長期~バブル期」までは、労働集約的産業が中心であり、国内の安価な労働力をベースに内需と輸出で稼いでいました。明治維新以降の人口増を背景とした人口ボーナスによる経済発展です。
バブル期以降から今日までの「失われた30年」では、人口減にも関わらずそれまでと同様な労働集約的産業を中心として、海外の安価な労働力をベースに内需と輸出で稼ぐことを求めました。しかし、生産年齢人口の減少と海外への富の流出から国力の低迷が起きたのです。
「今後の人口減の社会」においては、労働力そのものより、高度な知的資本の蓄積をベースに輸出(越境経済)で稼ぐ知識集約型産業への転換が必須です。即ち、半導体、ロボット、AI、ソフトウェア、コンテンツ、医薬、医療など高度に知的資本が集積した産業へと転換していかなければいけません。
半導体製造で強い台湾はその好例です。また、GAFAMに代表されるようにデジタルによる輸出は、モノの輸出より大きなスケーラビリティがあります。

【図4】労働集約型経済から知識集約型経済へ

このように日本企業が、労働集約型産業から知識集約型産業に転換できなければ、近い将来に衰退してしまう危機的状況にあるといえます。

常勝キーエンス、高付加価値製品で他社の追随を許さない

こうした知識集約型へ転換し、高い利益率を誇っているのがキーエンスです。
キーエンスでは、現場課題を把握し、先を見通すことで高付加価値製品を創造し、他社が真似できないような高価格で販売しています。また、日本一給料の高い会社になることを掲げ、一人当たり従業員給与が2,279万円(上場企業2位)となっています。

【図5】キーエンスの強さ

日本は、知識集積度が21年間世界1位

キーエンスのような知識集約型のビジネスを行うことは、他の企業では難しいのでしょうか。
ここで心強い指標があります。経済複雑性指標(ECI:Economic Complexity Index)です。経済複雑性指標(ECI:Economic Complexity Index)は、マサチューセッツ工科大学メディアラボのセザー・ヒダルゴ准教授が提唱する指標です。
国内総生産GDPが生み出したモノの量の指標とすれば、経済複雑性指標ECIは複雑なモノを生み出すための能力の指標であり、生み出したモノの知識集積度が高ければ、ECIは高くなります。

このECIが、日本は21年間世界1位なのです。換言すれば、そもそも日本の産業の知識集積度は高いということです。こうした日本が低利益で喘いでいるということは、日本は知識集積度が高いが、そこから利益を獲得すること、儲けることが下手と言わざるを得ません。

【図6】経済複雑性指標ECIは21年間世界1位

プライシングが経営そのものの時代へ

日本のモノは高く売れる

日本食は世界的に好まれています。日本の食べ物は高度な知的資本が集積した賜物であり、そのことが海外で広く受け入れられているのではないでしょうか。
こうした食べ物は、日本では安く提供されていますが、海外ではもっと高く提供されています。つまり、グローバルで見れば、もっと高くてもいいということです。

【図7】日本食の日米比較

価格や利益獲得を考えたビジネスモデルをつくる

日本企業が知識集約型へ転換していく上では、価格や利益獲得を中心に置いた様々なビジネスモデルを考えるべきです。
例えば、ダイナミックプライシングやフリーミアムのような価格を上手く戦略に使ったビジネスモデルなどを科学すべきです。ダイナミックプライシングを採用しているアパホテルでは、時には通常価格の倍の室料を設定しながら、高稼働率を誇っていますので、皆様のビジネスモデル転換の参考にしては如何でしょうか。

【図8】ダイナミックプライシングとフリーミアム

プライシングは経営そのもの

日本経済新聞2023年8月17日「売り手が起こす欧州のインフレ(マサチューセッツ大助教授 イザベラ・ウェーバー氏)」では、

国際通貨基金(IMF)は6月にSNSにこう投稿した。「過去2年間の欧州のインフレに最も寄与したのは、企業が輸入エネルギーコストの上昇率よりも大幅な値上げをして企業の利益が拡大したことだった」(中略)
ECBのラガルド総裁は、一部のセクターは「利益率を圧迫することなくコスト上昇を吸収できた」が「コスト上昇率より大幅な値上げ」をしたセクターもあったと説明した。(中略)
今や企業戦略には「量より価格」が広く浸透している。

と指摘しています。

冒頭の日経新聞2024年1月3日「日本は安すぎ、値上げはもう謝らない 味の素社長の決意」で味の素・藤江太郎社長が、

「値付けは経営そのものだ。コストを下げる努力をしながら補えない部分を転嫁し、価値に見合った価格にすることが大切だ。据え置きによって失われた30年になった。」
「(中略)トップが腹をくくる必要がある」

と述べています。

日本の2023年12月の消費者物価指数は前年同月比2.6%でした。日銀が目指す物価上昇率2%を若干上回っていますが、まだまだ賃金の上昇にはつながっていません。日銀も金融政策を現状維持とし、マイナス金利政策の解除などは見送っています。
そうした中、やせ我慢をして値上げをせず、賃金も上げないというのは、世界の常識に追い付いていません。

日本企業も、企業戦略は量より価格、プライシングは戦略そのもの、と言ったように「しっかり稼ぐ経営」に大きくパラダイムをシフトしていくべきではないでしょうか。

今回は、日本の利益率を向上させ稼ぐ力を取り戻すためのパラダイムシフトをご説明しました。詳細については、是非お問い合わせください。日本企業の稼ぐ力の復活に貢献したいと思っております。

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