東証がPBR1倍割れ対応策開示企業一覧を開示

東証は、2024年1月15日より、「資本コストや株価を意識した経営の実現に向けた対応」に関する開示企業一覧表の公表についてとして、東証の要請に基づき対応策を開示している企業の一覧表の公表を開始いたしました。
 
これは、東証が2023年3月プライム市場及びスタンダード市場の全上場会社を対象に、「資本コストや株価を意識した経営の実現に向けた対応」の要請実施を受けてのことです。
 
今回は、これまでの資本効率向上をめぐる動きを振り返りながら、東証の発表をベースに企業の対応状況とフォローアップについて、その要点をご紹介します。

コーポレートガバナンス改革から10年、日本企業の稼ぐ力の復活は道半ば

2013年6月に日本経済の再興を目指した「日本再興戦略」が発表されてから10年、日本企業の『稼ぐ力を取り戻す』を旗頭に様々な政策や提言を打ち出しました。

特に、経済産業省の一橋大学 伊藤邦雄教授を座長としたプロジェクトや研究会等が設置され、その活動を取りまとめたものとして所謂「伊藤レポート」が公表されました。
「伊藤レポート1.0」では、ROE8%以上を最低限の目標として日本企業に求めました。
「伊藤レポート2.0」では将来期待を高めていく経営として、PBR1.0倍以上を求めました。

しかし、日本企業の経済価値向上はまだ道半ばです。2023年7月時点で、プライム市場+スタンダード市場で達成できているのは3割であり、7割は未達です。株式市場からは「日本企業はそもそも経済価値を達成できていない」との厳しい見方が続いています。

【図1】プライム市場とスタンダード市場のROE・PBR

東証 資本コストなどを意識した経営を上場企業に要請

こうした状況を踏まえ、東証は2023年3月31日資本コストや株価を意識した経営の実現に向けた対応についてを発表し、単に損益計算書上の売上や利益水準を意識するだけでなく、バランスシートをベースとする資本コストや資本収益性を意識した経営を実践することを、プライム市場とスタンダード市場の上場会社に要請するという異例の対応を示しました。

【図2】東証「資本コストや株価を意識した経営の実現に向けた対応について」

こうした東証の要請を受け、各社は2023年3月期有価証券報告書にその対応を開示しています。

東証 企業の対応状況を公表

東証は、市場区分の見直しに関するフォローアップ会議において、2023年8月29日に「資本コストや株価を意識した経営の実現に向けた対応」に関する企業の対応状況とフォローアップとして、企業の対応状況とフォローアップを公表しました。

そして東証は、2024年1月15日より、「資本コストや株価を意識した経営の実現に向けた対応」に関する開示企業一覧表の公表についてとして、要請に基づき開示している企業の一覧表(1,115社)の公表を開始いたしました。
開示企業一覧表は、プライム市場及びスタンダード市場の上場会社を対象として、集計対象時点(2023年12月31日)で直近に提出されたコーポレート・ガバナンスに関する報告書の「コードの各原則に基づく開示」欄、もしくは、「コードの各原則を実施しない理由」欄において、「【資本コストや株価を意識した経営の実現に向けた対応】」というキーワードを記載している場合には「開示済」、「【資本コストや株価を意識した経営の実現に向けた対応(検討中)】」というキーワードを記載している場合には「検討中」として、「開示企業一覧」シートに掲載しています。

ここでは、各社の対応状況と東証の評価などについて要点を簡単にご紹介します。

「資本コストや株価を意識した経営の実現に向けた対応」に関する開示状況

東証の要請では、計画策定・開示の前提として十分な現状分析や検討が求められるため、開示時期に関して具体的な期限を定めていないものの、2023年8月29日発表資料と2024年1月15日発表資料から、プライム市場の31%→49%(379社→815社)、スタンダード市場の14%→19%(120社→300社)が開示しています。
プライム市場3月期決算企業に限ると、59%(673社)が開示しています。

【図3】東証2023年8月29日発表資料

【図4】東証2024年1月15日発表資料

また、東証は以下としています。

開示企業数には一定の進捗が⾒られており、引き続き、検討・開示を⾏う企業数の増加に取組む。あわせて、株主・投資者の視点から、各企業の取組みがブラッシュアップされていくことが重要であり、今後、投資者の視点を踏まえた対応のポイントや、投資者の⾼い⽀持が得られた取組みの事例の公表等を通じて、上場会社における実効的な取組みの検討・実施をさらに促進していく。

PBR×時価総額水準別の開示状況(プライム市場)

PBR×時価総額水準別に開示状況を見ると、PBRが低く時価総額が大きい企業ほど開示が進んでいます。PBR1倍未満かつ時価総額1,000億円以上のプライム市場上場会社では、78%が開示(検討中を含む)しています。
一方で、PBRが高い企業×時価総額が小さい企業では、相対的に開示が進んでいない状況もあります。

【図5】PBR/時価総額水準別開示状況

開示業況を業種別にみると、PBRが低い業種の方が開示が進展していることがわかります。特に、銀⾏業では94%が開示しています。これに対し、平均PBRが⾼い業種では開示が進んでいません。例えば、情報・通信業、サービス業、小売業などでは3割前後となっています。

【図6】業種別開示状況

東証は、特にPBRが低い企業を中心に真摯に受け止められ、対応が進められており、国内外の投資者からも企業の変化について概ねポジティブな評価であるとしています。
一方、対応の進展が見られていない企業における課題として、以下のケースを課題として指摘しています。

  • PBRが1倍を超えていれば、今般の要請は関係ないという誤解が生じている
  • 経営者が対応の意義・必要性を十分に感じていない
  • 対応を進めるためのリソースが整っていない

東証からの再要請

このような現状から、東証はさらに「資本コストや株価を意識した経営の実現に向けた対応」の主なポイントとして3点を要請しています。

1. 資本コストや株価を意識した経営を実践する観点から、

  • まずは自社の資本コストや資本収益性を的確に把握し、
  • その内容や市場評価に関して、取締役会で現状を分析・評価したうえで、
  • 改善に向けた計画を策定・開示し、
  • その後も投資者との対話の中で取組みをアップデートしていく、

といった一連の対応を継続的に実施していくことを要請
(対象はプライム市場・スタンダード市場の全上場会社

 

2. 実施にあたっては、

  • 取締役会が定める経営の基本方針に基づき、経営層が主体となり、資本コストや資本収益性を十分に意識したうえで、
  • 持続的な成長の実現に向けた知財・無形資産創出につながる研究開発投資・人的資本への投資や設備投資、
  • 事業ポートフォリオの見直し等の取組みを推進することで、

経営資源の適切な配分を実現していくことを期待

 

3. 資本収益性の向上に向け、バランスシートが効果的に価値創造に寄与する内容となっているかを分析した結果、自社株買いや増配が有効な手段と考えられる場合もあるが、

  • 自社株買いや増配のみの対応や、一過性の対応を期待するものではなく、
  • 継続して資本コストを上回る資本収益性を達成し、持続的な成長を果たすための抜本的な取組みを期待

以上のように日本企業の稼ぐ力の復活の為、東証及び上場企業の資本効率改善のための取り組みは今後も続いていきます。

今回は、継続的にPBRが1倍を割れている会社に対する東証の要請と対応状況、今後の取り組みについて、ご紹介させていただきました。皆様のROE向上、PBR向上に貢献できればと思っております。

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