2019.12.3

【Vol.4】LAYERS’ Business Insight「どうビジネスモデル変革を成し遂げるのか ~オープンイノベーションを成功に導く人財育成と組織~」

#デジタル戦略 #ビジネスモデル変革 #新規事業開発 #働き方改革 #人事・人財戦略

 日本発の独立系コンサルティングファームであるレイヤーズ・コンサルティングが、企業が直面する経営課題に対し、第三者として客観的に分析するとともに、これまでの知見と今後の潮流を踏まえて深く考察する本連載。今回のテーマは「ビジネスモデル変革」です。

 元NTT代表取締役副社長・CTOとして、NTTグループの技術戦略を統括したキャリアをお持ちで、弊社事業開発・デジタルマーケティング賢人倶楽部(※)会長の宇治則孝氏に、ご自身の豊かな経験を元にデジタルを活用したビジネスモデル変革のポイントや、そのプロセスで直面するさまざまな障壁を打ち破るメソッドについて語っていただきました。

※レイヤーズ・コンサルティングでは、最新の経営を研究開発し、これを社会に還元するための活動として「賢人倶楽部」を主催しています。https://www.layers.co.jp/kenjin-club/
●聞き手 | 中防保(レイヤーズ・コンサルティング代表取締役COO)

新しいアイデアを生み出すための働き方改革

レイヤーズ・コンサルティング 中防 保(以下、中防)
 宇治会長はNTTデータ、NTT持ち株会社の経営者の立場からその時代、その時代に応じた制度を設計し、新たなビジネスモデルを創出されてきました。それらのご経験からビジネスモデル変革のポイントはどこにあるとお考えでしょうか。

日本電信電話株式会社 元副社長 CTO 宇治 則孝氏(以下、宇治氏)
 ポイントは三つあります。一つはICTの技術変革で生み出した技術をどう使いこなし、どう活用するのか。インフラ技術の進歩が後押しする中、ネットワークのスピードが速まり、クラウド、デバイス、セキュリティーの技術は発展を遂げています。当然のことですが、今話題となっている「デジタルトランスフォーメーション」を含め、ICTの進歩をどう掴まえるかが新たなビジネスモデル創出のポイントになります。
 二つ目は外部の知恵の活用です。自社のポテンシャルを引き出すことも大切ですが、“脱自前主義”で、どれだけ外部とパートナーシップを築けるかが重要な要素になります。
 三つ目は働き方改革。自由な働き方が新たなビジネスモデルを生みます。だから、新しいアイデアを生むために、働き方改革に取り組む企業も出てきました。働き方改革を成功に導くためには基盤整備、制度変更、風土改革などの仕組みづくりが肝となります。

宇治 則孝(うじ のりたか)氏
日本電信電話(株) 元副社長 CTO
事業開発・デジタルマーケティング賢人倶楽部 会長
1973年、日本電信電話公社(現NTT)入社。NTTデータの新世代情報サービス事業本部長、経営企画部長、法人分野の事業本部長等を経て、05年代表取締役常務に就任。07年NTT(持株会社)の代表取締役副社長就任。12年同社顧問。企業情報化協会(IT協会)名誉会長、日本テレワーク協会名誉会長、第一三共、横河電機社外取締役、国際大学GLOCOM客員教授、京都大学ITアドバイザー等を兼ねる。著書に『クラウドが変える世界-企業経営と社会システムの新潮流』(日本経済新聞出版社)等。

中防 企業風土を変えるトリガーが働き方改革になります。

宇治氏 働き方改革を推し進めることによって、風土改革につながるケースもあるでしょうが、まずは風土改革に着手することが大事ではないでしょうか。そして、働き方改革というのは「多様な人財、多様な働き方」とも言い換えられます。多様な働き方とは、私が長年推進してきた在宅勤務やサテライトオフィスなどの柔軟な働き方改革であるテレワークもそうですし、朝方勤務やフレックスタイム、兼業副業などの取り組みも含まれるでしょう。多様な人財とは男性と女性、プロパーと中途採用者、日本人と外国人などあらゆる枠組みにとらわれないという意味です。ダイバーシティーが新たなビジネスを創造するキーワードとなります。

会社の枠を超えたつながりがイノベーションを生む

中防 二つ目のポイントに挙げていただいた外部の知恵の活用にフォーカスすると、特定の業種や自社の常識は他業種や異なる企業の非常識であることは珍しくありません。新たな切り口が新たなビジネスモデルを築く糸口にもなります。そこにクラウドなどの新たなテクノロジーを融合させて業種や企業の枠組みを超えたビジネスモデル変革が今の潮流です。

宇治氏 そうですね。大企業は大企業で努力はしていますが、ベンチャー企業などのスモールカンパニーの知恵を活用することも大きな流れです。私のバックグラウンドはNTTデータとNTT持ち株会社ですが、20年働いたNTTデータ時代は当時、NTTグループ内で通信以外の新たな領域でビジネスモデルを確立する役割を担っていました。分社独立を契機に仕掛けた後に、飛躍のきっかけのひとつとなったのがパートナー戦略です。企業文化も業態も異なる異業種の企業と人材交流もしましたし、お客さまの情報システム企業を買収し、連携するなど、異なる文化や新たな人財が社内に入ってきて刺激になりました。  NTT持ち株会社時代はCTOという立場でした。当時、「サービス創造グループを目指して」というのが社の方針でした。新サービスを模索するにあたって、基本的には研究所の技術を活用するのですが、適した技術がなければ、外部の技術活用も“良し”とする総合的なプロデューサー制度を導入したことで、新たなビジネスモデルの創出に一役買いました。プロデューサー制度によってクラウド事業がスタートしましたし、マーケット開拓という意味では「ICT×医療・健康」、「ICT×環境」、「ICT×農業」などICTの利活用モデルが誕生しました。R&Dを担う研究所の学術的なテクノロジーを商業ベースに展開すると共に、よりマーケティングセンスを持ってビジネスモデルに仕立て上げるために、プロデューサー制度を展開しました。

中防 研究所だけでクローズドにするのではなく、事業会社や社外の知恵を取り込んでオープンに進めるためのキーパーソンがプロデューサーですね。広義にとらえれば、NTTグループのオープンイノベーションのファーストステップとなったのではないでしょうか。

中防 保(なかぼう・たもつ)
株式会社 レイヤーズ・コンサルティング
代表取締役COO 公認会計士
太田昭和監査法人(現:EY新日本有限責任監査法人)を経て、1983年株式会社レイヤーズ・コンサルティングを設立。代表取締役COOとして現在に至る。製造・流通・サービス業等の上場企業を中心に、成長戦略策定、新規事業開発、新ビジネスモデル構築、マーケティング及び営業強化、業務・組織変革、財務会計・管理会計、ITマネジメント等のコンサルティングを多数行う。特に最近では、最新のデジタルテクノロジーを活用したビジネスモデル改革や超効率化経営といったデジタルトランスフォーメーションに関するコンサルティングに従事。

“粘土層”の心の壁を壊せ

中防 “自前主義”からの脱皮にはオープンイノベーションが欠かせませんが、どのようなメソッドがあるのでしょうか。

宇治氏 二つあります。少し変な言い方になりますが、誰でも参加可能なオープンなオープンイノベーションと、限られたアライアンスを組んだ企業と進めるクローズドなオープンイノベーションに分けられます。オープンなオープンイノベーションとは、例えばNTTドコモが推し進める5Gの新サービス創出に向けたオープンパートナープログラムでは、3,000社を超える企業に集まっていただき、コンソーシアムを組成しています。クローズドなオープンイノベーションはNTTデータのパートナー戦略やNTT持ち株のプロデューサー制度のように、限られた枠組みで知恵を出し合い、その中で成果を共有するクローズドな連携になります。テーマに応じて、この二つの連携を使い分けることがイノベーションを生むキーになりそうです。

中防 クローズドなイノベーションの連携で難しい点は業務提携では少し弱く、一方で利害が噛み合わなければ“ワンチーム”になりにくい側面があります。

宇治氏 「同じ船に乗る」とはよく言ったものですが、同じ方向に進むためには互いの利害を乗り越える必要があります。ただ、各々の立場を優先し、会社を背負ってしまうとうまくいきません。“ワンチーム”というスタンスに軸足を置くことで、結果的に自社にプラスをもたらすことを会社側が認識しないと、効果的なパートナーシップを構築できないと思います。

中防 “ワンチーム”になるための秘訣として、テクノロジーやビジネスモデルの中身以外でプロデューサー機能として果たすべき領域の役割があるように感じます。

宇治氏 やはりプロデューサーの起点はユーザー目線でしょう。その軸があれば、まとまりやすくなります。プロデューサーとはユーザーのために何がベストかを追求するリーダーとも言えます。技術は一つの大事な要素ではありますが、技術ドリブンではよくありません。そして、どの企業も簡単には変わりませんので、オープンイノベーションを展開しやすい風土改革も重要となります。

中防 デジタルトランスフォーメーションの最大の壁は心の壁だと感じています。人の心の壁をどう壊せばいいのでしょうか。

宇治氏 そのカギを握っているのが中高年層でしょう。それなりの成功体験をして、それなりの社会生活を送ってきた人が抵抗勢力になってしまうケースが多々あります。成功体験がチャレンジの邪魔をするような人のことを私は“粘土層”と呼んでいます。先日、面白い話を耳にしました。変革のためのPDCAを別の意味で使う人がいると。それが同じ頭文字の「Please don’t change anything」。「何も変えないでほしい」という意識を持つ人はどの組織にも必ずいます。中途で経営層を採用したり、ポジションを変えてみたり、あるいは人事評価の基軸を変えてみたり、レイヤーズのようなコンサルティング会社を活用するのも、“壁”を壊す一つの手法でしょう。

いつまでも本流とは限らない

中防 最後に、ビジネスモデル変革について、追加のコメントはありますか?

宇治氏 何よりも重要なことは“いつまでも本流が本流とは限らない”という本質です。いまの本流は10年後の本流ではありません。それはつくづく思います。分社化当時、NTTは黒電話が本流で、NTTデータは本流ではありませんでしたが、いまはグループの中核になりつつあります。本当に大きな変化を遂げてきました。経営環境が大きく変化していく中でも成功するためには変革を受け入れる仕掛けがとても重要なのだと実感しています。

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