アフター・ホルムズ
~今日から始める経営と現場の経済安全保障取り組み~
◆この記事の要約
本記事を読むとわかること:グローバル事業を展開する企業が直面するレアアース輸出規制やトランプ関税、中東情勢などの不確実な経済安全保障環境に対し、先進企業の事例を踏まえた効果的な取り組みのポイントと成熟度モデルを活用した体制構築・情報管理のアプローチが理解できます。
本記事は、経済安全保障の複雑な環境下で企業が何から着手すべきか悩む現状に対し、実践的かつ戦略的な枠組みと具体的な組織運営の視点を提供し、持続可能な対応力強化を促す洞察を示しています。
- 経済安全保障の課題は多岐にわたり、現状把握と成熟度モデルによる視える化が取り組みの第一歩となる
- 経営トップの関与と部門横断的な組織体制構築が不可欠であり、専門部署設置や委員会形式など多様な形態が存在
- 情報の一元化と現場への課題浸透が大きな課題で、質の高い意思決定支援と啓蒙活動が重要
- 変化の速い国際情勢に対応するため、基盤整備を優先し事業部門と連携した段階的な取り組みが効果的
経済安全保障の取り組みが加速する2026年
年始早々のベネズエラの首都カラカスで軍事作戦を実行したり、2月末からの対イラン戦争とその後の中東情勢やグローバル経済の混乱など、トランプ大統領が国際政治経済にもたらす不確実性は、この先もグローバルな事業環境を左右する要因となり得ます。
また、昨年11月訪日旅行等の人的交流の制限から始まった中国の「経済の武器化」はレアアース輸出規制強化、デュアルユース(軍民両用)品の禁輸と段階的にエスカレートしたままで、日中関係の雪解けの兆しが見えない中で、多くの企業が情報収集と対応を迫られる状況が続いています。
国際情勢の厳しさが年々増す中で、日本でも官民挙げての経済安全保障対応が進められています。今年1月に経済産業省が「経済安全保障ガイドライン」を発出したほか、安全保障関連の重要技術流出防止に向けた外為法改正、重要物資の供給網リスク等を調査分析するシンクタンク設置に向けた動きが見られます。
このような状況下で経済安全保障の取り組みを進める、あるいは着手する日本企業も増えつつあります。他方で、経済安全保障の必要性への認識を深め情報収集を強化しているものの、どの課題から手を付けるべきか、一企業の限られたリソースでどこまで対応するべきかわからないという声も聞かれます。
そこでまず行うべきは、自社の目指すべき姿や現状を把握することになります。
【図1】現状把握のフレームワーク
自社の現在地を知り、目的地を定める
体制の検討・構築や情報収集、法規制や貿易ルールの変更への対応、サプライチェーンの脆弱性の確認と見直し、調達や販路の代替検討など、経済安全保障を踏まえて対応すべきことはさまざまです。何から着手するか、どこまで手掛ける必要があるかを判断するうえで、現状の経済安全保障課題(リスク)への備えの視える化が第一歩となります。
ここで活用できるのが成熟度モデル(CMM)と経済安全保障体制の要素のフレームワークです。属人的な取り組みにとどまるレベル1(初期段階)から継続的な取り組みと運用が確立されたレベル5(最適化・高度化)のどの発展段階にあるか、それを以下の要素別に見ていきます。
方針・ルール:全社で経済安全保障のリスク管理を機能させる方針とルール
プロセス:上記の方針・ルールに沿った実行プロセス
人・組織:プロセス遂行に必要な人・組織の責任・権限
収集:分析・報告に必要な情報の収集
分析:報告する情報の適切な評価・分析
報告:質の高い意思決定を支える報告
フレームワークに照らし合わせることで、企業や事業部門の要素間の凹凸が明確となり、すでに取り組み手当が進んでいるところ、手付かずで早急に対策が必要な箇所が特定可能となります。現状を踏まえてどこまで取り組むかの目指す姿を設定します。ここでのポイントとしては、自社の事業特性と環境を踏まえてメリハリをつけることです。全ての要素を一律に最適化することを志向するのではなく、例えばプロセスや人・組織はレベル4を喫緊の目標とし、収集や評価、報告はレベル3まで上げておけば当面の間は十分対応できると目指す姿を検討します。
【図2】経済安全保障の成熟度フレームワーク
経済安全保障対応に求められる構え
経済安全保障の取り組みが不可欠になる中で、どのような組織体制の構えを構築するかは大きな課題です。2020~2021年から取り組みを進めている三菱電機やデンソーのように、経済安全保障を統括する専門部署を設置している企業、リスク管理や法務・コンプライアンスあるいは安全保障貿易管理部署の下に担当を置いている企業、委員会形式やタスクフォース形式で対応している企業などさまざまです。
重要なのは経営が関与しトップダウンの要素を含むことです。第一に経済安全保障は日々のオペレーションで対応することに限界があり、中長期的な経営戦略で取り組む必要があるからです。次に、課題は一つの部署部門で完結するものではなく、部門横断型での対応が必要になります。例えば技術流出対策一つとっても、従業員・退職者からの流出、サイバーセキュリティや情報セキュリティの脆弱性、知財法務での対応等、複数の部署が関与します。
あるメーカー企業では経営直下に情報収集・分析の専門部署を置き、経営にレポートするとともに事業サイドや各部門に関連情報を流通する仕組みをとっています。日々の業務に関わる情報は事業の現場が強いですが、マクロの情報を俯瞰的に見ることで経営がプロアクティブに対策を講じられるようサポートしています。
グローバル企業を例にとると、独シーメンスや仏シュナイダーエレクトリックは地域の拠点に、経済安全保障や戦略に関わる情報を担う人材を配置しており、常に各地域の動向に目を光らせるようにしています。
【図3】グローバル企業の情報収集体制
経済安全保障組織を機能させるための取り組み
さまざまな企業の経済安全保障に携わる担当者のお話を伺うと、特に2つの悩みを抱えています。1つは情報面で思うように一元化が図れない、各部門が縦割りで情報を抱え込む傾向にあり統合運用が不十分な点です。2つは、1つ目とも関連しますが、経済安全保障の課題感が浸透せず、現場の取り組みに落とし込めていない課題が存在します。あるいは現場が一定の問題には経験的に対応できるだけの能力があり、経済安全保障組織のプレゼンスがまだまだ認められていないこともあります。
先行する企業においては、経済安全保障や地政学リスクの視える化、発生時の影響の具体化を通じた理解醸成や、地道な情報共有と相談対応で接点を強化することによる啓蒙を図っています。この企業では担当部署が一定の蓋然性のあるシナリオを提示し、情報のための情報でなく業績に直結する質の高い意思決定への助言へと転換しています。経営層や各事業部門への勉強会を開催し、頼りになる知恵袋としてのポジションを形成しています。
経営や現場への働きかけはもちろん、経済安全保障組織自体の能力構築も大切です。意欲と適性のある人材を計画的に育成し、判断材料となる情報の取捨選択のスキルを高めていくことが肝要です。また、経済安全保障と聞くと国際政治経済や貿易などマクロの話に目が向きがちですが、経済安全保障組織においては事業部の動きや取り組みを把握している人財もまた不可欠となります。
【図4】先進取り組み企業における課題と取り組み例
経済安全保障に不可欠な基盤
経済安全保障の取り組みを何のために行うか、どこまで行うかという目的を設定し、目指す姿に向かって体制を構築していく必要があります。一方で、情勢の変化は速く、グランドデザインを描いても現場が対応に追われて十分に注力できないのが直面する課題です。
そこで最低限必要な基盤整備をまず進めたうえで、事業部門の現場と進めていくアプローチが一つ考えられます。自社に置かれた事業環境を踏まえた経済安全保障に対する考えを整理し、何を優先して対応するかの基本的なガイドラインを制定しておくことにより、個別のサプライチェーンや技術管理、あるいは企業としての社内外の発信コミュニケーションといった課題において、俯瞰的である程度標準化された対策を講じることが可能となります。
また情報収集、評価と報告と社内での流通に関しては、経営の重要な意思決定を支える観点からも、事業部門を補完して将来起こり得るシナリオと対応策を特定するうえでも、早期に構えを持つことが不可欠です。これはグローバルに何が起きているかを速やかに把握するのはもちろん、それが自社の事業にどのように紐づいてくるか、社内で情報を吸い上げる仕組みも考える必要があります。
レイヤーズ・コンサルティングでは各社の現状を把握したうえで、それぞれに適した経済安全保障の検討と立ち上げを支援しており、インテリジェンスに基づく枠組みの構築と導入をご支援可能です。レイヤーズの経済安全保障と事業戦略の双方に精通した部門がご相談を承っております。ぜひお気軽にご相談ください。
【関連するビジネステーマ解説集】
経済安全保障とインテリジェンス(前編)
経済安全保障とインテリジェンス(後編)


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この記事の執筆者
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内村 大地事業戦略事業部
マネージャー -
黒佐 華子事業戦略事業部
シニアコンサルタント
職種別ソリューション





