社長、それは間違っています!
~NOと言える会社になる~

皆さんの会社では、「社長、それは間違っています」と言えるでしょうか。現実には、こう言える会社が少ないのではないでしょうか。
昨今では、いろんな会社が不祥事を起こしています。検査データの改ざんや不正の隠蔽など、いろいろな事案が世間を賑わせています。こうした事案の多くは、第三者調査委員会のレポートが出されますが、そこに共通するのは「NOと言える文化がない」とする指摘です。
 
今回は、会社において「NOと言える文化」を如何に創るかをご紹介します。

人は誰でも失敗や間違いをする

私どもは色々な会社のコンサルティングをしていますが、会社の上層部が間違った決定をしていることも見受けられます。そうした場合は、私どもは外部の専門家としてデータやファクトなどを提示し、間違いを納得してもらいますが、中々社内メンバーだけで説得することは難しいようです。
また、会社の上層部へ行けば行くほど、自分の失敗や間違いを認めたくない心理が働くとも言われています。
 
人はなぜ失敗や間違いを起こすのでしょうか。

そもそも、人は失敗や間違いをする生き物なのです。人が失敗や間違いをする原因は色々ありますが、ここでは3つご紹介します。

  • 認知の限界
  • 認知バイアスの存在
  • 経路依存性の罠

【原因1】認知の限界

1つ目は認知の限界です。
人は、意思決定に必要な情報を全て認知しているわけではないということです。

しかし、会社の上に行けば行くほど、この事を忘れてしまいます。つまり、上に行けば行くほど意思決定のために必要な情報は持っていると誤解しています。
しかし、一般に意思決定に必要な情報は現場に存在します。現場から離れた上層部が、そうした情報を日常的に全て把握する事は非常に難しいと言わざるを得ません。
 
では、人は上に行けば行くほど情報を持っている、と誤解するのは何故でしょうか。これは日本の会社組織の悪しき慣習によることが挙げられます。上に行けば行くほど、「どうでもいい情報を独り占めにし、部下へ開示せず、部下の認知ギャップを大きくすることで、自分の決定が正しい状況を作り出す」、こうした姑息な手段に慣れた人々が多いからです。
「事件は、会議室で起きているんじゃない!現場で起きているんだ!」は正に核心をついた言葉です。

【原因2】認知バイアスの存在

2つ目は認知バイアスの存在です。
人は、無意識の内に自分の都合の良い情報だけを見るということです。

人には、大勢の中でも自分の名前が呼ばれることを認識することがあります(カクテルパーティ効果)。つまり、自分に関係のある情報は敏感に察知し、自分に関係のない情報は察知できなくなるということです。
 
組織の上層部に行けば行くほど、この認知バイアスが大きくなります。部下からの報告に対して、自分の関心のある事を中心に聞くような上司に対しては、部下は関心のある情報しか報告しなくなります。そうすると、増々自分の周りの情報が自分の都合の良い情報だらけになっていきます。所謂「裸の王様」になっているということです。

【原因3】経路依存性の罠

3つ目は成功体験から来る経路依存性の罠です。
経路依存性とは、人も組織も過去からの制約を受け、変化しづらいということです。

組織の上層部に行けば行くほど、成功体験を持っています。そしてその成功体験を必然と考えがちです。成功と言っても、全てが上手くいって成功しているケースは少なく、何らかの失敗がありながら結果として成功していることもあるのです。
 
しかし、人間は成功体験をすると、自分がやってきたことが全て成功したと認識してしまいます。失敗は失敗ですから、次にやっても失敗します。成功体験があると、それをたまたまの失敗と認識し、失敗を繰り返してしまうという結果に陥ります。これが成功体験による経路依存性の罠です。

失敗や間違いを起こさないためには

失敗や間違いを起こさないようにするにはどうすればいいでしょうか。失敗や間違いを起こす前に、訂正や軌道修正する、NOを受け入れるということです。

今回は、こうした意思決定を正す4つのポイントをご紹介します。

  • 意思決定を現場におろす
  • データを活用する
  • 逆張りを考える
  • 失敗を認める

【ポイント①】意思決定を現場におろす

1つ目は意思決定そのものを「現場」におろすことです。

「事件は、会議室で起きているんじゃない!現場で起きているんだ!」ということなら、現場で意思決定すれば良いということです。では、組織の上層部は何をすべきでしょうか。
 
組織の上層部に行けば行くほど、個々の意思決定に関与するのではなく、会社の方向性やビジョンというものを明確にすることに時間を注ぐべきです。そして、その会社の方向性やビジョンや価値観から、「現場が正しいと思うことを自ら決定していく」、そういったメカニズムを企業の文化として醸成・浸透することが重要です。しかし、現実的には、こうしたことができている会社も少ないと言わざるを得ません。

【ポイント②】データを活用する

2つ目は「データ」をできるだけ活用することです。

データの活用にあたっては、確定バイアスの存在に注意してください。確定バイアスは、自分の仮説や結論に都合のいい情報ばかり集める傾向です。いくらデータを使っても自分の都合の良いデータを見ていたのでは、正しい決定ができません。
 
意思決定には、論理的な正しさもありますが、統計的な相関関係から判断する必要もあります。相関関係の結果が自分の考えと違うからといって、それを否定してはいけません。まずは、冷静にそのデータを注視し、自分には無かった新たな仮説を考えるべきです。
しかし、自らの理論や価値観にない仮説を考えることは非常に難しいことですから、「衆知を集めて決する」と言われるように、人の意見や考えに素直に耳を傾けることが肝要です。
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【ポイント③】逆張りを考える

3つ目は、「逆張り」を考えてみることです。
失敗が、自分の先入観や常識から起きるとすれば、その反対のこと、即ち「逆張り」の意思決定をしてみるのも一つです。

自分の常識からは当然のように切り捨てた「逆張り」を、冷静に再考し、その中に学ぶことがないかをしっかり見極めて比較検討することが重要です。
 
同じ組織の中では、コミュニケーションをスムーズに行うため、同じメンタルモデルがメンバーに共有されていきます。これは逆に組織自体が同じ先入観や常識に囚われるということです。特に、日本企業の上層部は長年同じ釜の飯をくったメンバーが多く、その傾向が強いと言われています。
日本企業のガバナンスの問題は、年功序列を前提としたお友達の中から経営者が選ばれることであり、これが「コーポレートガバナンス・コードが独立社外取締役を重視する」理由です。従って、経営層の同じような先入観や常識にとらわれない「逆張り」のアイデアを、社外取締役と喧々諤々と議論するのも一つではないでしょうか。

【ポイント④】失敗を認める

4つ目は素直に「失敗を認める」ことです。
前述のように人は失敗や間違いを犯します。しかし、人は失敗や間違いを犯したことを認識すると不快感やストレスを感じ、失敗を認めなくなると言われています。

この傾向は、組織の上層部に行けば行くほど強くなると言われています。これを解消するためには、失敗を認める文化をつくる必要があります。失敗しても叱責しない文化です。失敗を当然の事と考え、失敗は個人の問題ではなく、組織やシステムの問題として捉えて対処する文化です。こうした文化を醸成・浸透できれば、トップであったとしても、素直に失敗や間違いを認めることができるのではないでしょうか。
 
今回は、会社において「社長、それは間違っています」と「NOと言える文化」を如何に創るかをご紹介しました。これは、殆どの日本企業の抱える根深い問題であり、一朝一夕には解決しない問題です。是非皆様の会社の文化を変えていくことに貢献していきたいと思っています。

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この記事の執筆者

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