失敗を恐れる人の特徴
~チキンな日本企業のマインドチェンジ『失敗の戦略』とは~

平成の失われた30年間、金融緩和の低金利のもと経済成長もせず賃金も上がらない、変化のない時間を日本経済だけが過ごしてきました。日本企業は、バブルの後遺症を解消するため、リエンジニアリング、リストラクチャリング、選択と集中、と名を変え、ひたすらコストカット経営を続けています。その結果、リスクをとらず失敗を恐れるチキンなマインドになってしまったのではないでしょうか。
世の中では、世界的なインフレ各国の金融当局の金融引き締め、リーマン級の銀行破綻、歴史的な円安、30年ぶりの物価上昇など、激しい変化が起こっています。

こうした経済環境の激変の中では、失敗を当然のこととして経営戦略に取り込む『失敗の戦略』が必要です。
今回は、日本企業のチキンなマインドをチェンジする『失敗の戦略』のポイントをご紹介します。

人はなぜ失敗を恐れるか

「失敗は成功の母」は、だれでも知っている諺です。しかし、失敗を恐れず、積極的にチャレンジする人は多くありません。人は、なぜ失敗を恐れるのでしょうか。

【図1】人はなぜ失敗を恐れるか

一つには、失敗が非常に大きな心的ストレスをもたらすということです。換言すれば、失敗しない、失敗を認めなければ心理的な平穏を保てるということです。
例えば、ある会社の株を買ったが思惑が外れて株価が下がったとします。その時、素早く損切りする人といつまでも持ち続ける人がいます。後者の方は、損切して損失が現実化することを見たくない心理が働いています。自分の判断の間違い(失敗)を正面から見ないようにしているのです。

また、失敗には非難や批判がつきものです。これから逃れるために失敗は認めづらいものといえます。会社で不祥事が発生した場合、世間からの非難を回避するために、不祥事の隠ぺいに走るケースが代表的です。また、非難を回避するため、失敗を人のせいにすることもあります。
日本は「恥の文化」とも言われています。他者の批判や嘲笑から自分の行動を決する傾向があるため、より失敗を恐れることになっているのかもしれません。

こうした失敗を認めない傾向は、組織的には上にいけば行くほど強くなると言われています。会社の上層部ほど失敗を認めず、言い訳や他責を繰り返しており、その最たるものがCEOと言われています。これは、上に行けば行くほど自分の成功体験からくる経路依存性の罠に陥っているからです。

人は、失敗を恐れるために、曖昧なゴールを設定し、失敗を隠す傾向もあります。曖昧なら言い訳も可能ですし、失敗が明確にならなければ、だれからも批判されないからです。

しかし、これでは進歩がありません。失敗を素直に受入れなければ「成功の母」は微笑んでくれません。いつまでたっても失敗を繰り返す失敗の迷宮に迷い込んでしまいます。

失敗するのは当然である

失敗は、事前に考えていたことと異なる結果になること、予想を超えた結果になることです。
人が考えていたこと、予想していたことの前提は、人が世界をどう見ていたかということです。世界は非常に複雑で不確実で、人が全てを理解することは不可能です。世界の複雑性や不確実性は日々増大しています。ということは、人の考えることや予想することは大したことがない、失敗しても当然なことといえるのではないでしょうか。そう考えれば、失敗はこの世界の複雑性や不確実性を理解する材料、学習の場となります。そう考えることにより、失敗を素直に受け入れる心ができるのです。

【図2】失敗を受け入れる

失敗の戦略とは~高速回転トライ&エラー経営~

失敗することを前提とした場合、どうすればいいでしょうか。簡単に言えば、高速回転でトライ&エラーを繰り返し、失敗を検証し軌道修正する戦略が必要です。
生物の進化も自然淘汰の結果であり、膨大な試行錯誤の結果です。従って、企業としての進化=イノベーションを起こすためにも、高速回転トライ&エラー戦略が不可欠と言えます。

【図3】高速回転トライ&エラー戦略

このときに重要なのが、失敗から学ぶことです。なぜ失敗したのかをデータを集めて科学することです。例えば、棋士が局面を何度も思考し、差し手を変えるのは確率論でどれが最良の手かを見極めるためと言われています。
日清食品では、「(まな板の上の鯉となって切り刻まれる)解剖会議」を開催して、「この新製品が売れなかった原因はどこにあるのか」を徹底的に究明しています。是非皆様も、参考にしては如何でしょうか。

失敗から学ぶ上での罠

失敗から学ぶ場合、「人は都合がいいように考える」という罠にハマります。

【図4】都合がいいように考える罠

人間には、「因果関係からものごとを見る論理的思考」と「相関関係からものごとを見る統計的思考」といった2つの思考があり、どうしても前者を重視してしまうということです。
「世界は複雑で不確実で、人が全てを理解することはできない」と言いましたが、同様に、失敗の因果関係を人が全て論理的に解き明かすことはできません。しかし、人はたまたま起こったことから、意味を見出そうとします。起こらなかった可能性のことにはどうしても目が届かないのです。また、自分の仮説に都合のいい事実だけを見ようとする傾向もあります。
したがって、この罠から抜け出すためには、逆説的ですができる限り多くの失敗を経験する必要があるといえます。

衆知を集めて決する

人が全てを理解できない以上、綿密な計画に時間をかけて考えても無駄です。実施した結果から何が分かるか、次にどうしたら成功確率が高くなるか、をスピーディにみんなで検証・検討することの方が重要です。
その意味で高速回転トライ&エラー戦略は、「衆知を集めて決する」日本的な考え方に適していると言えます。

【図5】衆知を集めて決する

高速回転トライ&エラー戦略は、欧米流のトップダウン型よりも、前線でのボトムアップ型の意思決定を重視します。前線のメンバーが考えた仮説を、実践で失敗を繰り返しながら検証し、その中から戦略的な方向性を見つけ出していくアプローチです。

机上の空論ではなく、現場、現物、現実に基づく三現主義が重要であり、日本のお家芸のカイゼンが活かせるアプローチと言えます。匠の技は、実践知や経験値を基に試行錯誤を繰り返して生み出された賜物ですから、高速回転トライ&エラー戦略を繰り返すメンバーは、まさにビジネスにおける匠と言えます。

失敗を続ける忍耐力

失敗は、前述のように非常に大きな心的ストレスを与えます。これを何度も繰り返すには忍耐力が必要です。「七転び八起き」という諺もありますが、高速回転トライ&エラー戦略を実践していくためには、苦しくても何度転んでも立ち上がる忍耐力を付けることが不可欠です。

【図6】失敗を続ける忍耐力

日本企業には良い前例があります。トヨタ生産方式です。トヨタ生産方式では、人のやる気と工夫によるカイゼンで「進化し続けること」を目指しています。小さいことからコツコツ取り組む日本人だからこそ、こうした忍耐力を付けることが可能なのではないでしょうか。

組織のマインドを変える

このようにできる限り多くの失敗を繰り返す高速回転トライ&エラー戦略を実践するためには、組織のマインドも変える必要があります。

即ち

  • 革新性、創造性を優先する
  • リスクにチャレンジすることを称賛する
  • 失敗を許容する、称賛する、非難しない
  • 失敗は学習の場と捉える
  • 失敗は成功する可能性を増やす機会と捉える

といったように組織のマインドを変える必要があるということです。
こうしたマインドチェンジは、リスクに委縮した日本企業には非常に大変なことです。しかし、「成功の母」に微笑んでもらうためには、必ず実践していかなければいけません。

【図7】組織のマインドを変える

以上のように、今回は、日本企業のチキンなマインドをチェンジする『失敗の戦略』のポイントをご紹介させていただきました。激しい環境変化の中で、新しい時代に向けて戦略や組織をアップデートしなければ、生き残れないと言えます。
レイヤーズ・コンサルティングは、皆様と一緒に失敗を恐れず変革にチャレンジしていきたいと考えています。

参考文献:失敗の科学(マシュー・サイド)

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