サステナビリティ経営に
人的資本経営をがっつり埋め込む

サステナビリティ経営を取り巻く環境として、カーボンニュートラルやESG情報開示をめぐる潮目が急変し、欧米では逆風が強くなっています。これに対し、当社では「我が社のサステナビリティ・ESG」の目的・意義や取り組みを見詰め直すよいタイミングと考えています。そして、時流に流されず企業価値向上を目指し続けるサステナビリティ経営において、人的資本経営を基軸に据えることが重要と考えます。
 
そこで今回は、2025年5月16日に開催した当社セミナーより、持続的な経済・社会価値の創造に寄与する人的資本経営の在り方や実践に向けたアプローチについてお伝えいたします。

人的資本経営の位置付けを再定義

そもそも、企業の存在意義とは何でしょうか。本来、企業が創造すべき価値は経済・社会価値の両方です。これらの価値は相互に影響し合うため、持続的な経営に向けて2つの価値創造の同時達成が重要になります。そして、これらの価値は財務・非財務資本が生み出す価値の連鎖により創造されるものであり、特に非財務資本の中でも「人的資本」はその出発点となります。よって、持続的な経済・社会価値の創造を目指すサステナビリティ経営の基軸の1つに、「人的資本経営」が位置付けられるのではないかと考えております。

そのため、これからの人的資本経営では、経済価値(業績等)のみならず、社会価値(自社にとって重要な社会課題解決)の創造にも寄与することが求められ、その手段としてのマネジメント体系(人財戦略・施策・KPI体系)を整理する必要があります。従来、人的資本経営の推進は人事部門が中心でしたが、そこに経営企画・サステナビリティ推進部門が加わり、議論・情報共有等をすることにより、経済・社会価値の創造に寄与する人的資本経営の実効性を高めていくことが可能になると考えております。

【図1】これから目指すべき人的資本経営

経済・社会価値を高めるマネジメント体系構築の要点

経済・社会価値双方の創造に資するマネジメント体系は、以下3つのステップで構築すべきと考えます。

まずは、自社にとっての経済・社会価値を特定・再認識することです。特に社会価値については、社外環境やメガトレンドに目を向け、その解決には中長期的な時間がかかることを考慮して、課題認識することが重要です。自社にとっての社会価値は各社のパーパスやビジョン、マテリアリティにすでに表れていると思いますが、それを人的資本経営にがっつり埋め込むことがポイントになります。

次に、目指す価値が特定されたら、「ヒト」に関する課題は何か、課題解決に向けて重点的に取り組むことは何かを明らかにし、人財戦略・施策のマネジメント体系に落とし込んでいきます。しかしながら、2つの価値創造を全て「ヒト」で解決できるわけではありません。人事・経営企画・サステナビリティ推進部門が一体となって議論し、マネジメント体系に落とし込んでいくことがポイントになります。

最後は、KPIの設定です。KPIは大きく2つの観点で設定することが有効です。1つ目は、取り組みの達成度・効果を測る観点です。達成度・効果が思わしくない場合には、人財戦略・施策の見直しにつなげます。2つ目は、取り組みの進捗を測る観点です。人財戦略の達成に向けて実施している施策の進捗を測り、適宜施策の促進・強化につなげます。

【図2】マネジメント体系のイメージ(例:自動車メーカー)

人的資本経営に資する内部マネジメント強化の要点

ここまで、経済・社会価値の創造に資するマネジメント体系をご説明しました。“社会価値創造への道筋”も反映する点では人的資本経営のアップデートが必要ですが、人的資本データを活用したマネジメントは今後も変わらず必要になります。そしてデータ活用では、「分析・モニタリング等の内部マネジメントの観点」とその手前の「データ取得の観点」より、人的資本経営の土台・仕組みの構築が必要です。

内部マネジメントの観点では、各KPIに対してマネジメント要件を策定し、マネジメントに落とし込むことが有効です。その策定においては、各KPIに対して5W1Hの視点から導出することが有効で、その出発点にあたるのは「誰が」「何のために」「何をどんなカバレッジ・粒度で」マネジメントするかです。
マネジメントの目的の例には、人財戦略・施策の策定・見直し時の検討材料としての活用や実施施策の進捗把握等が挙げられます。「どの会議体・どの場面で」「いつ」の観点では、例えば、半期ごとにKPIをモニタリングするマネジメントメカニズムを設計します。
また、「どのようにレポーティングするのか」の観点では、例えば以下の切り口があります。

  • 予実比較:計画値と実績値のギャップの発生要因を特定
  • 時系列比較:類似した局面等と水準や勢いを比べて、相違の有無や要因を抽出
  • 社内比較:他事業・組織と比較して、水準の相違や要因を特定
  • 他社比較:開示情報より、他社との相違の要因を比較・深掘り

【図3】マネジメント要件整理の観点

人的資本データ取得の高度化の要点

そして最後に必要なのは、データ取得の土台・仕組みの構築です。人的資本経営の実走においては、人的資本投資の進捗やリターンのフォローが求められ、それには人的資本データの収集が不可欠です。ただし、現在主流の表計算ソフトによる人海戦術では、「データの入力ルールの未整備によりデータ精度が悪い」、「フォーマットが不統一で、データの取りまとめに工数がかかる」等の課題があります。これらの課題を解消するには、「データ精度の向上・標準化」、「ITツール活用による効率化」が必要です。

データ精度の向上・標準化には、データスタンダードの策定が有効です。データスタンダードとは、データに関する標準ルールを定めたものであり、KGI・KPIの定義や計算式、必要なデータとその粒度、生成ルール等を定めていきます。このデータスタンダード策定のベースとなるのが前述したマネジメント要件です。マネジメント要件に基づいて必要データを特定し、そのカバレッジや粒度を明確にし、データスタンダードに反映します。

ITツール活用による効率化についてはいくつかパターンがあります。統合データベースを構築してデータ収集の業務工数を削減するパターンや、BIツールを活用して半自動的にレポート出力までできるようにするパターン等です。データ取得の継続性を担保する観点より、単体のみならずグループ会社を含めたデータ取得基盤の構築は、意義があると考えております。

終わりに

企業本来の存在意義に立ち返り、経済価値と社会価値を同時達成するという観点より、「我が社のサステナビリティ経営・人的資本経営」を見詰め直してはいかがでしょうか?皆様方との意見交換を通じて、2つの価値を高めるサステナビリティ経営・人的資本経営に貢献できますと大変幸いです。ご不明の点やお気になられた点がございましたら、お気軽にお声がけください。

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この記事の執筆者

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