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人的資本マネジメント指標「ISO 30414」活用のすすめ
黒船来襲!SECによる人財資本情報の開示義務化

国際標準「ISO 30414」の発表とSECの開示義務化

企業の人財マネジメント(HRM)の領域では、これまで各国の労働慣行、法規制の違いが大きく、国際的に標準化された運用ルールが長らく未整備だった。
しかし、HRデータ・HRテクノロジーの活用の広がりと、リーマンショック以降、投資家からの非財務資本、特に人的資本の情報開示圧力が年々高まっていた。
そのため、国際標準化推進機構(ISO)は、2018年12月、初の国際標準ガイドライン「ISO 30414」を公表した。「ISO 30414」は、大きく4つのカテゴリー、11の大項目(図表1)で構成されている。また、大企業のみならず、中小企業むけの項目の提示や、内部向けと外部向けの項目の区分も示されている。

さらに、2020年8月には、米国証券取引委員会(SEC)も、投資家の合理的な意思決定に向け、30年ぶりに情報開示ルールを発表した。
新ルールでは、人的資本マネジメント情報の開示を義務化し、「ISO 30414」への準拠を推奨している。
ISO 30414は、SECの新ルールが求める最小限の対応が可能であると同時に、人的資本の定量的な尺度を提供し、具体的な定義、計算式についても述べている。また、投資家の投資判断における重要性が高い定性的情報、例えば、エンゲージメントなどの提供方法が明示されている。
2020年11月からは、米国株式市場の上場企業は、新ルールでの人的資本情報開示義務に適うHRレポートの作成に着手している。

 

 

図表1 : ISO 30414 管理項目

人財戦略の抜本的な改革指針、人財版「伊藤レポート」

我が国においても、機関投資家によるESG投資が大きく浸透し、環境や社会に配慮するESG投資、SDGsがより強固なものとなっている。
このような欧米の動向や、投資家からの要望の高まりを受け、経済産業省も、2020年9月に「持続的な企業価値の向上と人的資本に関する研究会報告書」いわゆる「人材版伊藤レポート」を発表した。
伊藤レポートでは、人財を「財」、資本と捉え、人材戦略の抜本的な改革について、以下の提言をしている。
― 企業と人材の関係性の見直し(図表2)
― 企業の「パーパス」に立ち返り、経営戦略と同期した抜本的な人財戦略の見直し
― あるべき姿と、現状ギャップの定量的な把握
― 多様な人材の活用による動的な人財ポートフォリオの構築 等
伊藤レポートの実現には、これまでのイナーシャ(慣性・惰性)を断ち切る抜本的な人財戦略の改革「グレートリセット」が必要である。
このような抜本改革により、多様な個人一人一人や、チーム・組織が活性化されていなければ、生産性の向上やイノベーションにはつながらない。
平時には、人的資本に関わる問題を本質的に捉え、抜本的に考え直す姿勢が弱かったが、コロナ禍の今日、人的資本の価値を最大限に引き出す方向に創造的かつ柔軟に変われる企業と、そうでない企業では、埋めがたいほどの企業力の差が生じる、とも唱えている。

図表2 : 企業と人財の関係性の見直し

「グレートリセット」とISO 30414の活用

グレートリセットのためには、人財・人事の視点を抜本的に転換する必要がある。

これまでコストと捉えられてきた人財を、資本と捉え、人的資本に対するリターン(人的資本ROI)の視点が必要である。また、正社員のみではなく、幅広い人財の活用、多様な働き方を視野に入れた、トータルワークフォースの視点が不可欠となる。また、従来からの幹部人財のみを対象とした後継者育成をあらため、クリティカル人財についての計画的な人材開発が求められている。

ISO 30414は、グローバルスタンダードに基づいており、このような視点の切り替えに、強力な武器となっている。

ISO 30414を活用した人財マネジメント強化

ISO 30414は、欧米におけるスタンダードである「ジョブ型」を前提としている。そのため、ガイドラインの中身には、明示的にはジョブ型についての記述は登場しない。

日本企業が、ISO 30414を活用する際には、各企業のジョブ型思想に対するスタンスにより、活用アプローチが異なる(図表3)。

ジョブ型の導入を始めている企業の場合は、ISO 30414を活用した人財マネジメント体制への取り組み、HRレポートの発信は、比較的容易である。

例えば、ISO 30414指標可視化診断により、必要となる管理項目が、現状どの程度、データとして把握されているか、識別が可能となる。国内におけるISO 30414の先行取組企業での可視化診断では、経営戦略上の重要指標については、6割~8割のデータが把握可能であるが、ISO 30414の指標全体では、3割しか把握できていなかった。 

 

ネクストステップとして、診断結果に基づき、対応策の方向性の提示、対策の立案を行う。

多くの日本企業の場合は、ITツールや環境の整備にとどまらず、経営戦略と人事戦略の同期や、ジョブ型への人事制度改革など、幅広い業務・制度の見直しが必要な場合が多い。そこで、ISO 30414活用によるマネジメント強化のファーストステップとして、「人財資本マネジメントレベル診断」を活用している。

「ジョブ型思想」への変革を企図し、データドリブン経営を戦略に掲げているメーカーでは、人財資本マネジメントレベル診断により、課題となっている業務プロセスを識別し、次期中期経営計画立案に合わせ、本社人事と事業部人事の役割の再構築に向け、新人財マネジメントポリシー、人財中計の策定支援へとステップを進めている。

 

人財は、非財務資本の6-8割を占め、内部的に重要なマネジメント指標であると同時に、SDGs/ESGへの志向を強める投資家や、潜在的な従業員など、外部に対する情報発信としても、重要性が高まっている。

ISO 30414を有効に活用し、抜本的な人財マネジメントの強化を進められる企業と、環境変化に対応しきれない企業の間では、人財版伊藤レポートが指摘するように、コロナ禍の今日、埋めがたい差が生じると予想される。まずは、第一歩としてのISO 30414の理解と、早期の活用が求められている。

図表3 : ISO 30414を活用した人財マネジメント強化 / 何から始めるか

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