ISO 30414を出発点とした人的資本経営の実践

去る2024年1月26日に、レイヤーズ・コンサルティングは、日立建機株式会社様(以下日立建機)にご登壇いただき、同社のISO 30414の認証取得に関するセミナーを開催いたしました。日立建機によるISO 30414の認証取得へのご支援を改めて振り返ってみて、 ISO 30414を活用するだけでなく、“我が社らしく人と組織で勝つ”意志を明確に持つ重要性を、当社は感じております。以下、当日の講演内容を振り返りながら、ISO 30414を出発点に人的資本経営を実践する考え方をお伝えいたします。

ISO 30414を活用した日立建機らしい人的資本経営:日立建機様基調講演

日立建機の豊島CHROより表題の基調講演をいただいたうち、以下では2点について概略をお伝えいたします。

第一に、「認証取得・人的資本レポート開示までで苦労した点」についてのご説明に関して、特に重要と考えるのは“ナラティブ”な人的資本レポート作成のご説明です。このセミナーにおいて、当社は“ナラティブ”を「経営理念・戦略~人財戦略~人事施策~企業価値が一貫しており、ステークホルダーと双方向で腹落ちができる対話(=勝ち筋)」とご説明しています。日立建機は、“日立建機らしい人的資本経営”の考え方をベースに、“組織目標、個人のキャリアビジョンの合致”等の複数のサブコンセプトを示してまとめ上げて、人的資本レポートに記載されました。

日立建機と当社は、同社の中期経営計画や豊島CHROならびにプロジェクトメンバーの考えやおもいをしっかり共有・理解した上で、思想や戦略・施策を第三者目線も交えながら再整理・体系化して、それを人的資本レポートに記載することに尽力いたしました。人財戦略・施策の図表や指標・KPI、レポートのページ数等をいくら揃えても、そこにしっかりした筋が通っていなければ、読み手であるステークホルダーは腹落ちしないと考えたからです。そして、読み手の腹落ちがなければ、社員の方々による実践にも、社外からの本質的な評価にも繋がらず、「とりあえず開示」が補強されたに過ぎません。

第二に、「今後の課題―“本物の”人的資本経営をめざして」に関して、課題として取り上げられた4点のうち2点が人的資本データに関することであり、これはまさに、人的資本経営の「実走」において多くのケースで今後課題となることでもあります。まず、情報収集について、一元的な人的資本データベースをコアに据え、複数システムに散在する同社単体ならびにグループ企業の人的資本データの集約を目指す考え方が示されました。また、収集データの活用については、ISO 30414の外部開示推奨24メトリック(基準)のうち、今回の開示対象、かつ他社に劣後するものの分析・改善が必要とのスタンスが言及されました。当社は、こうした課題感は極めて適切なものであり、それが可能なのはベースとなる考え方=ナラティブがしっかり構築できたからこそと考えます。ナラティブ構築が不十分なまま、「必要かもしれないのでとりあえずデータを集める」のでは、多くの社内工数を浪費するにとどまらず、質は高くても使われない収集データが「沼」と化してしまう、何とも皮肉な状態を生みかねないためです。

我が社の「人と組織で勝つ」人的資本経営の道筋:講演Ⅱ

表題の講演Ⅱにおいて、当社は主に、ISO 30414の存在感増大、ISO 30414を出発点とした“本気の”人的資本経営はまずナラティブ・勝ち筋構築から、 “本気の”人的資本経営には会社の変革意欲・健全な危機感が最も重要、の3点をお伝えいたしました。

まず、ISO 30414の存在感について、今後は他のスタンダードに及ぼす影響が強まる見込みであると考えます。ISOはISSB(IFRS)と既に気候変動対応で連携している他、米国SECや欧州ESRSに対しても影響力を発揮しており、また、日本ではSSBJならびに金融庁がグローバルスタンダードを取り込んでいく方向となっています。こうした状況を踏まえると、認証を取得するか否かを問わず、ISO 30414の考え方やメトリックに早期に対応することが得策と言えるでしょう。

次に、日立建機のISO 30414の認証取得において最も重要だったことは、人的資本経営の「体幹」となるべきナラティブ・勝ち筋を構築したことと、改めて振り返って考えております。ISO 30414は、企業価値向上の観点から網羅的かつ体系的に、人的資本経営に必要な視点や基準を提供しており、人的資本経営の強化の出発点として有効です。当社は今回、ISO 30414とのFit & Gap分析や戦略・施策・KPIの体系化等を通じたご支援により、日立建機の人的資本経営の礎を築けたことを、大変嬉しく思っております。

そして、日立建機のCHROはじめ経営と人事部門の変革意欲・健全な危機感が、同社の“本気の”人的資本経営における最大の要諦と考えます。日立建機は、日立製作所グループからの独立と、米州事業の本格的な独自展開の2つが同時に起きる“第2の創業”を2022年に迎えたことが、ISO 30414認証取得の1つの契機となりました。ここまで大きな事象が重なることは稀有かも知れませんが、自社や社員の特長・強みを改めて表出化・体系化することは、変革の必要性を感じる企業様にも同様に必要ではないかと考えます。

講演Ⅱにおけるポイント

  1. 人的資本経営においてISO 30414の存在感が増大、先んじてISO 30414に対応する意義がますます大きくなる。
     
  2. ISO 30414を出発点として“本気の”人的資本経営へ、まずはナラティブ・勝ち筋の構築から。
     
  3. CHROはじめ経営と人事部門の変革意欲・健全な危機感が“本気の”人的資本経営における最大の要諦。

全社で人的資本経営を実践するためのマネジメント改革:講演Ⅲ

講演Ⅲにおいて当社がお伝えした主な内容は、人的資本データマネジメント改革の必要性と、そこでのデータガバナンス改革とデータマネジメント改革の必要性です。

人的資本データマネジメント改革に関して、人的資本経営を会計の世界になぞらえて考えると、発信(=財務会計)の取り組みに当たるのが人的資本開示と考えられます。同様に、実践(=管理会計)の取り組みは人的資本データマネジメントです。そして、発信と実践の両者が揃わなければ取り組みの意義は薄れてしまうものであり、特に人的資本データマネジメントのメカニズムを改革・構築するには、データガバナンス改革とデータマネジメント改革の双方が必要と考えます。

データガバナンス改革においては、人的資本データを扱うプロセスの高度化、すなわち、①データ精度の向上・標準化、②ITツール活用による効率化の2つが必要と考えます。①の観点では、業務にまつわるデータで実際に活用されているのは3割強との調査結果もあり、データスワンプ(沼化)の深みを避けるには、データスタンダードの策定やデータ品質の考え方の定義が重要です。②では、表計算ソフトによる人海戦術から脱する上で、To Be=最良よりもCan Be=当面の最も効果的なITツール活用を優先すべきと考えます。

また、データマネジメント改革では、事業戦略に基づく人事戦略を担う事業側こそ、主体となって人的資本データを読んで活用することを目指すべきと考えます。それは、(人的資本に限らず)データは読むもの、すなわち、その背後にある事実・環境や感情等を検証し対話する手段であり、事業的目線がなければデータの読解は困難だからです。ここにおいて、人事部門は、全社的な人事戦略・施策の展開やHRBPの配置を通じて、事業側による人的資本経営の実践をグリップする役割が望まれます。

そして、こうしたプロセスは人事・人的資本領域では新しい取り組みですが、当社が長年携わってきた管理会計領域の考え方・手法の応用でもあります。

講演Ⅲにおけるポイント

  1. 人的資本開示は結果系に過ぎず、本質的には人的資本マネジメントを遂行できるようメカニズムを整えることも併せて実行する必要がある。
     
  2. 人的資本経営を実践するためには、データの取り方・使い方、つまり人的資本におけるデータガバナンス・データマネジメントが重要。
     
  3. 人的データを活用できる形で精度高く収集するためにはグループデータスタンダードを作り、グループ内での運用を徹底する必要がある。
    また、ITツールの活用によりデータ収集の工数・リードタイム削減・精度向上が実現され、人的資本情報の逐次モニタリングが可能となる。
     
  4. 事業戦略に基づいた人事戦略を担うのは事業側。
    主体となってデータを読むことでKPIをモニタリング。
    フィードバックすることで人的資本経営方針・事業戦略双方の目的を達成するより効果の高い施策を実行できる。

おわりに

当社は、人的資本経営がますます拡がる中、「我が社らしく人と組織で勝つ」経営を目指す各社様を、今後も強力にご支援して参る所存です。本メルマガにご関心をお寄せいただきましたら、お気軽にご連絡をいただけますと幸いです。なお、日立建機様にご登壇いただいた当社セミナーのアーカイブは、下記URLをご覧ください。
https://www.layers.co.jp/seminar-archive/sa20240126/

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この記事の執筆者

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