ECM改革の新たなキーワード!
設計・生産を劇的に効率化するMBE(Model Based Enterprise)とは?
MBEとは何か?
MBEとは、Model Based Enterpriseの略です。3Dモデルを活用し、デジタルの力で開発~生産までの工程を効率化する手法の一つです。
類似する言葉としてMBD(Model Based Development)がありますが、設計開発領域(ECM)における3Dモデルの活用が主題のMBDに対して、MBEはその下流に当たる製造・検査(SCM)などのものづくりの工程でも活用することを目的としています。
MBEにより、設計の意図や製造に必要な情報が3Dモデルに登録され、3Dモデルを開発からものづくりまで、実機を使わずにデジタル上で業務を完結できます。これにより、開発L/Tの短縮だけでなく、3Dモデルを軸とした部門を跨いだ情報の一元管理や、データ活用による試作レスの実現が見込まれるため、製造業界で大きく注目されています。
【図1】MBEとは何か?
デジタルツインとは何が違うのか?
3Dモデルを活用するよく似たソリューションとして、MBEではなくデジタルツインを掲げている企業もありますが、この違いをご存知でしょうか。
デジタルツインは言葉の通り、リアル(実物製品・設備・工場=製造された実物)を起点にデジタル上に瓜二つとなる双子(仮想データ)を生成し、リアルとデジタルの情報を連動させながら、デジタル上で分析やシミュレーションを行っていく仕組みです。
デジタルツインの活用例として、生産拠点で動いている製造設備をデジタル空間へ構築することで、建物や設備、人の位置・行動等のデータを収集し、業務効率化余地や障害発生を抑制するために仮説をシミュレートすることが挙げられます。
対してMBEはこれから“生産していく製品”の“実物ができる前(設計)の段階”から、当該製品の3Dモデルを活用したシミュレーションを実施し、抜本的な効率化・自動化を図ることが目的となります。どちらもデジタルデータを活用したシミュレーションになりますが、MBEは実物ができる前の製品を対象とするという点がデジタルツインとの違いになります。
【図2】デジタルツインとは?
MBEのベースとなるのは3DモデルとPMI
前述のように、MBEは、3Dモデルが全ての出発点となり、実現するためのキー情報になります。
しかし、3Dモデルを後工程で活用するためには、これまでと同様に設計に必要な情報のみをモデルに付与するだけでなく、後工程に必要な情報、つまりPMIを3Dモデルに持たせることが必要です。
PMIとは、Product Manufacturing Information の略で、製品製造情報のことを指します。具体的には、寸法・公差・注釈・表面仕上げ・材料などがこれにあたります。
MBEでは、幅広い開発・生産業務で3Dモデルを活用することを想定しているため、活用シーン・部門ごとに必要な情報が異なります。しかし、必要な情報全てをPMIとして3Dモデルに盛り込むとデータ総量が膨大になり、システムの処理速度が運用に堪えないレベルまで低下するとともに、これを登録する設計工数も増大化していきます。
このため、どの工程で何の情報が必要なのか、その情報を上流のどのタイミングで誰が入力するのか、見極めることが重要です。
MBE実現の障壁とその解決の方向性 ~QIFを事例に~
MBEの実現には3DモデルとPMIが肝となる一方、大きな課題となるのが情報連携です。CADで生成した3Dモデルをサプライヤーや生産/検査設備などに連携する場合、一度中間ファイルに変換する必要がありますが、この際、必要なデータが一部消失し、自動化できない、または再度手入力が必要となるケースがあります。
この課題解決のヒントとなりうる概念として、QIF(Quality Information Framework)があります。QIFは、主に測定機器業界で用いられる品質データのオープンスタンダードプロトコルで、2020年にISO規格として認定されています。この規格を採用すると、検査自動化に必要なデータ一貫性が担保されます。この規格には測定機器メーカー各社が参画しており、3DモデルからQIFを生成すれば、基本的にどのメーカーの検査機器でも自動で製品の測定をすることができます。
MBE全体として、QIFのような規格が導入されれば、3Dモデルを活用した抜本的な効率化が進む一方、まだまだこの中間ファイルの統一化には多くのハードルがあります。MBE検討時にはこのハードルを見極めながら、導入を進めていくことが求められます。
【図3】MBE実現の障壁
まとめ
ここまで、「MBE」の基本から実現させるためのポイントについて、解説してまいりました。「MBE」の実現は開発リードタイム短縮にも寄与し、ひいては市場ニーズへの迅速な対応を可能にします。一方、その実現には上述のような解決しなければいけない障壁が多く存在し、相応の時間と労力が必要となります。
エンジニアリングチェーンのあり方を抜本的に見直す動きが活発化する中、改革の動きに後れをとることは機会損失に繋がります。本記事が改革への着手や推進の足がかりになりますと幸いです。
関連サービス
#サプライチェーンマネジメントオンライン相談問い合わせる メルマガ登録
最新情報をお届け! メルマガ登録
この記事の執筆者
-
景山 侑亮SCM事業部
ECMビジネスユニット長
マネージングディレクター -
長谷川 悟SCM事業部
マネージャー -
赤堀 和樹SCM事業部
マネージャー
職種別ソリューション