戦略人事の実現に向けた具体的アプローチ
◆この記事の要約
人材版伊藤レポート2.0により注目が集まる戦略人事ですが、多くの企業がその実装に苦慮しています。本記事では、企業の現在地に応じた3つのアプローチ(ベストプラクティス・コンティンジェンシー・コンフィグレーション)の選択、経営戦略との整合性、3ピラーモデルの構築、人事データベースハブ構造の導入など、戦略人事を実践するための具体的な方法論を提示します。
- ベストプラクティス導入の落とし穴:他社の成功事例をやみくもに導入すると、評価制度の形骸化や育成モチベーション低下などの問題が生じるリスクがあり、企業の状況に応じた施策の見極めが重要
- 企業成長段階に応じたアプローチ選択:安定性重視企業にはベストプラクティスアプローチ、複雑性が増す企業にはコンティンジェンシーアプローチ、グローバル展開企業にはコンフィグレーションアプローチが適切
- 経営戦略との密接な関連性と3ピラーモデル:戦略人事の実践には、経営・事業戦略との整合性が必須であり、CoE・BP・OPEの役割を明確にした3ピラーモデルの構築と機能させるための人事機能の自立化が必要
- 人事データベースハブ構造の構築:勤怠・給与・評価など機能ごとのシステム分散配置ではなく、人事データベースを中心に各システムが連携するハブ構造により、リアルタイムデータ活用が可能になり、戦略立案の精度が向上
しかしながら、戦略人事は非常に掴みどころのない概念であり、多くの企業がその実践に苦慮している様子が見受けられます。
そこで本記事では、戦略人事の実践に向けた具体的な方法論と、皆様に検討いただきたい事項をまとめました。
戦略人事におけるベストプラクティス導入のリスク
当社のクライアント企業様と様々なセッションを行ってきた中で、各社ともに戦略人事の必要性は十分にご認識されています。しかしながら、多くの企業が戦略人事の実践に悩んでおり、具体的な実装方法については模索している状態です。
戦略を立てる際に、他社の成功事例やベストプラクティスの導入を考えがちですが、当社ではこの方法には高いリスクが伴うと考えています。例えば、A社がアメリカの成果主義評価制度を導入した際には、目標設定の容易化やチャレンジの回避、評価者の対応不足といった問題が生じ、2期連続赤字に至りました。B社では個人実績重視と定年制廃止により、育成モチベーションの低下や若手育成の停滞、協力文化の喪失といった課題が発生しています。C社も同様に、育成停止とモチベーション低下により制度の再見直しを余儀なくされています。
企業の状況に合わないベストプラクティスの導入は、期待した効果が得られないリスクがあります。各社の状況に応じて、本当に必要な施策を見極めることが重要です。
【図1】「ベストプラクティス」は機能するのか?
人事戦略策定の3つのアプローチ
これまでの事例やアカデミックな研究を整理すると人事戦略策定の方法は大きく3つに分類されます。
【図2】人事戦略策定に向けた3つのアプローチ 概略
1. ベストプラクティスアプローチ
この方法は、どの企業や状況に対しても適合するベストプラクティスが存在するという立場に立ち、最善の施策を導入しようとするものです。実装の単純性や、全社で同じ施策を実行することで従業員に安心感を与えるというメリットがあります。しかし、戦略と乖離する可能性があり、競争上劣後するリスクも伴います。
2. コンティンジェンシーアプローチ
ベストプラクティスアプローチに対抗する考え方で、企業の戦略や事業部によって有効な戦略が異なるという立場に立ち、最適な施策を探索する方法です。戦略との適合性を最優先するため、経営効率の向上や他事業部への展開が可能です。しかし、安定感がなく、従業員を振り回してしまう側面があります。
3. コンフィグレーションアプローチ
統合型のアプローチで、ベストプラクティスアプローチとコンティンジェンシーアプローチの良いところを取り入れます。企業として揺るがない幹を通しながら、より繊細な戦略を立てたい場所には個別最適化を行う方法です。このアプローチは非常に効果的ですが、実装の難易度が高く、丁寧な導入が必要です。
これらのアプローチはそれぞれに特徴があり、企業の状況に応じて適切な方法を選択することが重要です。戦略の策定にあたっては、各アプローチのメリットとデメリットをしっかりと理解し、企業のニーズに合った方法を採用することが求められます。
【図3】人事戦略策定に向けた3つのアプローチ メリット・デメリット
企業成長に応じた人事戦略アプローチの選択
企業の成長段階に応じて、適用すべき人事戦略アプローチは変化します。安定性が求められる企業にはベストプラクティスアプローチが適しています。複数の給与体系やハイブリッド型採用が必要になると、個別最適なアプローチを採る必要が出てきます。グローバル化を目指し、グループ全体で一貫した戦略が必要な段階では、コンフィギュレーションアプローチの導入が求められます。
VUCA時代では、企業に変化への対応が求められます。過去に安定性を重視していた企業であっても、事業の多角化やグローバル展開、競争激化に直面することがあります。給与体系の限界や人材流出、事業部からのクレーム増加は、全社一括施策の限界を示す兆候です。さらに、グローバル競争の中では、報酬と育成の矛盾や事業部による独自戦略による制度維持コストの増大が課題となります。
これらの変化に対応するには、データを活用しながら適切なアプローチを選択し、柔軟に戦略を調整することが重要です。
【図4】選択すべきアプローチの変遷 特徴
【図5】選択すべきアプローチの変遷 変化のきっかけ
戦略人事の実践と構え
人事を戦略的に実行するためには、まず経営・事業戦略がしっかりと存在し、その戦略と人事思想が密接に関連していることが重要です。この関係性が確立されることで、人事の各施策が効果的に機能します。特に、3ピラーモデルのような体制が整備され、その体制が円滑に機能するためのシステムが存在することが求められます。
【図6】戦略から考える人事オペレーションシステム
しかし、戦略を有機的に動かし、施策を完遂するためには、HR機能の覚悟と強力なエネルギーが不可欠です。これまで、人事労務業務の担い手として、従業員のお世話をし、問題を未然に防ぐことに注力してきました。しかし、戦略を強力に遂行するためには、変革の担い手としての意識、自立化、さらなるチャレンジ精神が必要です。人事部門は、単なるサポート役を超えて、企業の変革を推進する役割を担うべきです。
態勢・ガバナンス面では、これまでは本社人事と各社、あるいは事業部人事としての立場がありました。しかし、機能配置を考慮すると、企業変革を推進するために3ピラーモデルを採用することが有効です。このモデルにより、企業全体の戦略と施策が統合され、より効果的に実行されることが期待されます。
これらの要素を組み合わせることで、戦略的な人事実行が可能となり、企業の成長と変革を支える力となるでしょう。
【図7】3ピラーモデル
システム面での人事戦略の高度化
人事戦略をシステム面で高度化する過程は、まず効率化から始まります。具体的には、評価データや人員数の分析、ポートフォリオの活用からスタートし、ゆくゆくは1on1の活用や従業員の相性分析など、より発展的な領域に進んでいくことが期待されます。最終的には、これらのデータを基に予測を行うことが目標となるでしょう。
【図8】戦略とともにシステムを成長させる
しかし、戦略を実践し、さらに高度化する際には、人事機能やデータの所在、データのつなぎ方の構造が壁となり、人事機能のバリューアップがうまく進まない状況が発生することがあります。当社がご支援する中で、勤怠、給与、評価などの機能ごとにシステムを配置しているケースをよく見かけます。この方法は導入が比較的容易であるというメリットがありますが、データベースが分断されるため、データを分析に活用する際には、各システムからデータを取り出し、エクセルなどで加工する手間がかかります。このように、リアルタイムなデータ取得が困難になるというデメリットがあります。
そこで当社が提唱したいのは、人事のデータベースを中心に据え、各システム機能がそのデータを使用するという関係です。つまり、人事データベースハブ構造が戦略立案上非常に優れていると考えます。このような構造にするためには、人事データベースを外付けで持つか、実装の難易度や速さを考慮して統合型のパッケージを持つことが優位であると考えられます。
【図9】データベースを中心に据えるシステム構造
本記事でお伝えしたかったこと(まとめ)
1. 「我が社らしさ」と「信念」に基づくPeople Management
VUCAの時代だからこそ、人事で勝つためには「我が社らしさ」や「信念」に基づくPeople Managementが非常に重要です。これにより、企業の独自性を活かした人材管理が可能となります。
2. 現在地を見極めた戦略
理想的な戦略人事を一足飛びに実践するのは非常に困難です。自社の現在地を見極め、現況に沿ったプランを立てることが、実現可能な戦略を構築する鍵となります。これにより、計画が「画にかいた餅」にならず、実行可能なものとなります。
3. 3ピラーモデルの効果的な活用
単に3ピラーモデルのような体制を構築しても、機能させるのは容易ではありません。戦略から人事のミッションを定義し、CoE(センター・オブ・エクセレンス)、BP(ビジネスパートナー)、OPE(オペレーション)の職務を明確にすることが重要です。
4. 人事システムのアップデート
企業や人事部門の進化に合わせて、人事システムも常にアップデートすべきです。そのためには、初期段階からアップデートしやすいシステム構成を念頭に置き、リプレイスを検討することが望ましいです。これにより、変化に柔軟に対応できる体制を整えることができます。
レイヤーズ・コンサルティングではHR領域に特化した部門が、経営目線での企業人事に関わるご相談を承っております。当社が提唱する「Authentic People Management®」は、「人事の目的」「人事の基本思想」「人事のビジョン・戦略」「人事の体制・メカニズム」「実践」の5要素から構成される、自社らしさを追求した本物で独自の人財マネジメントアプローチです。このアプローチを基に、画一的ではなく、自社の事業戦略と整合した差別化された人事戦略をご提案いたします。変化する経営環境において、本当に機能する人事戦略の実現をお考えでしたら、ぜひご相談ください。
【図10】「Authentic」という考え方をPeople Managementにも


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この記事の執筆者
-
矢崎 冬馬HR事業部
コーポレート業務改革ビジネスユニット
シニアマネージャー -
下山 文香HR事業部
シニアコンサルタント -
萩尾 有彩HR事業部
シニアコンサルタント -
齋藤 彩香HR事業部
コンサルタント
職種別ソリューション



