ユーザー主導のERP導入

【第7回】業務要件定義フェーズの秘訣は何か(中編)

◆この記事の要約

基幹システム刷新の業務要件定義フェーズで、全体構想策定の「目指す姿」を新業務プロセスへ落とし込む方法を解説します。そこで本記事では、新業務定義(業務改革施策立案/新業務プロセス設計)を中心に、ERPをFit to Standardで成功させる実務ポイントを整理します。

  • 業務要件定義フェーズの全体像:現状詳細分析→新業務定義→システム化方針策定→製品・ベンダー選定(手戻り・開発費用増大を防ぐ)。
  • 新業務定義①:現状課題の体系化、目標設定(決算日程の短縮・コンプライアンス強化等)、主要マスタ統一を含む業務改革施策を全体最適で一覧化。
  • Fit to Standardの勘所:ERP標準機能を理解したうえで施策を検討し、基幹システムで実現すべきこと/基幹システム以外で実現すべきことを見極める。
  • 新業務定義②:As-Is/To-Beの業務フローで変革点を明確化し、システム間連携のデータ内容・粒度・タイミングまで具体化(BPMS活用・変更管理で品質を高める)。
基幹システム刷新における業務要件定義フェーズでは、全体構想策定フェーズで検討した目指す姿を具体的な業務プロセスに落とし込んでいきます。業務要件定義では、業務全体を棚卸し、全体観の中でどこを変革すればいいのか、変革後の業務プロセスはどうなるのか、その変革のために基幹システムにはどのような要件が備わっているべきかを明確化しなければいけません。

この時重要なことは、全体俯瞰の中から抜本的な業務改革を行うことです。業務改革において各部門を巻き込むことに躊躇し、自部門だけで改革を進めていたのでは、業務改革の効果はあまり期待できません。
 
そこで今回は、「クラウド時代!ユーザー主導のERP導入とは」として、基幹システム刷新における業務要件定義フェーズの秘訣(中編)をご紹介します。

業務要件定義フェーズとは

業務要件定義フェーズの位置付け
業務要件定義フェーズは、今後目指す新しい業務を具体化し、それを実現するためのシステム化方針を明確化するとともに、導入対象となるERPと導入ベンダーを選定する重要なフェーズです。

【図1】業務要件定義フェーズの位置付け

この業務要件定義で、主管部門であるユーザー部門(販売部門、生産部門、調達部門、経理財務部門など)の目指す姿やプロセスが具体化されます。また、今後導入されるERPも決定されます。
したがって、業務要件定義が曖昧だと、次のシステム要件定義で手戻りや開発費用の増大などを招くため、しっかりとしたプロジェクト体制で取り組むことが重要です。

業務要件定義フェーズの進め方
業務要件定義フェーズとしては、現状の業務とシステムを詳細に分析し、課題を整理する現状詳細分析(業務とシステム)、今後の目指す業務を具体化する新業務定義(業務改革施策の具体化)、それを実現する業務要件・システム要件を明確化するシステム化方針策定、導入対象となるERPと導入ベンダーを選定する製品・ベンダー選定があります。

【図2】業務要件定義フェーズの内容

その中で今回は、業務要件定義フェーズの中編として、新業務定義を中心に説明いたします。

※上記の進め方は、業務要件定義の後半でERPを選定していますが、昨今では業務要件定義フェーズの前半で候補のERPをいくつか選び、新業務要件の検討と並行して、それらでのFit to Standardの実現性を検証するケースが増えています。こうした並行検証の進め方は別途ご説明します。

新業務定義とは

新業務定義では、全体構想策定フェーズを踏まえ、業務の高度化や効率化を実現する業改革施策を具体化し、新業務プロセスとして設計していきます。

【図3】新業務定義とは

新業務定義 ①業務改革施策立案

業務改革施策立案では、全体構想策定フェーズの取り組むテーマ検討を踏まえて、現状の課題を解決し、経理財務業務の高度化や効率化を実現する施策を具体化していきます。業務改革施策としては、戦略、ルール・制度、組織、プロセス、システムなどの観点から、目指す姿を実現するための施策を検討していきます。一般的に、日本企業では、グループのマスタなどが統一されていないことも多いため、主要マスタの統一なども施策として盛り込みます。

業務改革施策立案の内容

現状課題の体系化
現状分析で抽出した課題を因果関係や前後関係などを考慮して整理し、体系化していきます。
また、課題については、重要度や影響度などを明確化します。

目標設定
ユーザー部門として、今回取り組む業務改革の具体的な目標(例:リードタイム短縮、生産性向上、コンプライアンス強化など)を明確化します。目標設定としては、高度化と効率化の視点からの設定が一般的ですが、高度化視点での目標設定の定量化が難しいため、効率化視点での目標設定になりがちです。
しかし、基幹システム刷新によって、投資に見合った工数削減等が劇的に実現できることはまれであるため、経営層が納得できる観点からの目標設定を行うことが重要です。

業務改革施策の検討
ルール・制度の見直し、組織の見直し、業務プロセスの見直し、システム化範囲の拡大など、全体最適を目指した業務改革施策を具体化します。

【図4】業務改革施策の検討

業務改革施策は、体系的に一覧化します。改革施策のうちシステムによる改革については、どのような新システム機能を活用すべきかの方針を決めます。具体的には、基幹システムで実現すべきこと、基幹システム以外で実現すべきことの方向性を見極めます。

【図5】業務改革施策一覧の作成

実行計画の策定
業務改革施策の優先順位付けを行い、実施時期や実現時期など明確にした計画を策定します。

業務改革施策には、システムに関係ないものも多く含まれます。しかし、システム刷新が目的化すると、これらの施策が後回しになりがちです。システム刷新は、あくまで部門の目指す姿を実現するための方法の一つとして、システムと関係がないものも、しっかり実行できる実行計画を策定することが重要です。
また、実行計画では、改革に取り組むためのリソースも明確にする必要があります。この点が曖昧だと、実行段階で工数不足で実現できないなど、実行計画が絵に描いた餅になるからです。

業務改革施策立案の具体的な手順

業務改革施策立案は、下記の手順で実施します。

【図6】業務改革施策立案における主な手順

業務改革施策立案におけるポイント

Fit to Standard視点での検討
基幹システム刷新をFit to Standardで実現する際は、ERPの標準機能を理解したうえで、業務改革施策の検討を行う必要があります。業務改革施策が標準機能で実現できない場合は、実現方法として別の方法への投資が必要になり、結果として投資対効果が見込めなくなり、手戻りが起こる場合があるからです。
例えば、我々レイヤーズ・コンサルティングのようなERPに詳しいコンサルタントが参加し、その知見の提供を受けながら業務要件を検討することも、効率的かつ効果的な検討を進める一つの方法です。

全体最適視点での検討
基幹システムは会社の中核的システムです。基幹システムに関する部門も多岐に渡ります。
しかし、部門の壁を超えることの躊躇から、自部門内にとどまり、抜本的な検討が疎かになっているケースも少なくありません。業務改革施策立案では、全体最適を目指し、全体俯瞰の視点から、抜本的な施策検討を行うことが重要です。

経営層・現場の巻き込み
業務改革施策は実行できることが必然です。そのためには、経営層の支援と現場の協力を得て、改革の実効性を高めることが重要です。特に、トップダウン型で強引な業務改革施策の場合、実行局面で現場の抵抗により施策が頓挫することも少なくありません。

これを回避するためには、下記の点に留意して検討を行うことが重要です。

  • 現状業務詳細分析を丁寧に行い、実態に即した施策を立案する
  • 改革の目的や期待効果を関係者全員で共有し、方向性を統一する
  • 実務担当者の意見や改善案を積極的に取り入れる
  • 一度に大きな変革を目指すのではなく、段階的に実施可能な計画を立てる
  • 施策の内容や進捗を定期的に報告し、関係者の理解と協力を得る

新業務定義 ②新業務プロセス設計

新業務プロセス設計では、業務改革施策を実現するために効率的かつ標準化された業務プロセスを設計し、業務フローや業務詳細として具体化していきます。

業務プロセス設計の内容

新業務プロセスの具体化
業務改革施策を反映し、効率的かつ標準化された業務プロセスを設計します。
新業務プロセスは、大きな全体的な流れから詳細プロセスに具体化していきます。
また業務改革は、全体最適を目指す施策が多いことから、全体俯瞰とその詳細化が重要です。
個々のプロセスばかりを追いかけると、全体として何のためにやっているのかが曖昧になって、施策が頓挫するケースも少なくありません。

業務フローの可視化と変革点の明確化
業務改革を実現する新しい業務プロセスを、業務フローとして図式化していきます。
旧業務フロー(As-Is)と新業務フロー(To-Be)を図式化することで、ボトルネックや重複作業といった課題や業務改革による変革点を明確化します。As-IsとTo-Beの対比は、変化点を中心に作成されることが一般的です。しかし、変化しない業務を含めて、End-to-Endで業務の流れが問題ないか検証することも必要です。

関係者の合意形成
新旧業務フローを関係者全員で共有し、認識のズレを防止します。

システム要件の明確化
新業務フローを基に、システムに求められる機能や連携要件を明確化します。
特に、基幹システムはシステム間連携が複雑になることが多いため、新業務におけるシステム間のデータ連携(データ内容、粒度、タイミング等)を詳細化し、他システムへの要求事項を具体化します。

新業務プロセス設計の具体的な手順

新業務プロセス設計は、下記の手順で実施します。

【図7】新業務プロセス設計における主な手順

新業務プロセス設計におけるポイント

関係者の積極的な参加と協力
実務担当者や管理者の意見を反映し、現場に即した新業務フローを作成する必要があります。
そのためには、専門用語を避け、誰でも理解できる表現や分かり易いフロー図の作成を心がけることが重要です。また、業務フローの前提となるルール等の変化点も明確化し、新しいルールの内容と実施時期への理解を得ることも重要です。

段階的なレビューとフィードバック
新業務フローは、複数回のレビューを通じて品質を高めることが必要です。
そのためには、関係者への趣旨説明やスケジュール調整を早めに実施し、レビュー参加への理解と協力を得ることが重要です。

業務フロー作成ツールの活用
業務フローは、何度も作り直すため、業務フロー作成ツールを活用することを推奨しています。
業務フロー作成ツールは、一般的にBPMS(Business Process Management System)といいます。
業務フローをExcelで作成しているケースも多いですが、効率性と実効性を考慮してBPMSを利用してはいかがでしょうか。

※BPMSは、企業や組織の業務プロセスを設計・実行・監視・最適化するためのソフトウェアやツールの総称です。

システム要件定義への連携
業務要件定義フェーズの新業務フローを基に、システム要件定義を行います。
したがって、システム要件定義での実施作業を明確化したうえで、その点を考慮した業務フローを作成することが、後工程での手戻りを防ぎます。また、業務フローはプロジェクトの進行に合わせて修正されるため、変更管理を適切に行うことが必要です。

まとめ

今回は、「クラウド時代!ユーザー主導のERP導入とは」として、基幹システム刷新における業務要件定義フェーズの秘訣(中編)をご紹介しました。次回は、業務要件定義フェーズの秘訣(後編)として、システム化方針策定、製品・ベンダー選定をご紹介します。

今後の基幹システム刷新は、情報システム部門やベンダーへ丸投げはできません。ユーザー部門が主導して、ERPを Fit to Standardで導入していくことが成功の秘訣といえます。詳細な Fit to Standard でのERP導入のポイントについては、是非レイヤーズ・コンサルティングにお問い合わせください。

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