人的資本開示指針、公表
~指針の積極的活用と実践に向けて~

8月30日に、内閣官房の非財務情報可視化研究会が「人的資本可視化指針」を正式に公表しました。人的資本経営の強化を求めるトレンドや、岸田政権における「人への投資」強化の中で、日本企業が人的資本経営を進める上で重要な指針であり、今回の公表が人的資本経営の拡がりを更に後押しすると見込まれます。以下、本指針ならびに人的資本経営に関して、当社が考えるポイントについてご説明致します。

人的資本可視化指針とは

まず、人的資本可視化指針について簡単にご説明いたします。
本指針は、人的資本情報開示のあり方に焦点を当てて、各企業の対応の方向性を包括的に整理した「手引き」と位置付けられるものであり、必ずしも強制力を伴うものではありません。去る6月20日に開示された本指針(案)に対して寄せられたパブリックコメントを、一部反映する形で最終化されました。背景と指針の役割、人的資本の可視化の方法、可視化に向けたステップの3章から構成され(下図参照)、事例やイメージ図、人材版伊藤レポートをはじめとする関連文書類の引用等を交えながら説明しています(詳細は割愛)。
なお、有価証券報告書で開示が求められる人的資本情報は、金融庁の金融審議会ディスクロージャーワーキング・グループが6月に報告しています。人材育成方針や男女間賃金格差等、これら5つの人的資本情報は、本指針では検討対象外となっています。今後、金融庁所管の内閣府令の改正を経て、金融商品取引法上の開示義務を負う情報として開示が求められる見通しです。

【図1】人的資本可視化指針:概要(章立て)

従来指針案と正式版指針の主な変化点

人的資本可視化指針の正式版は6月時点の本指針(案)から大きな変化はないですが、その中で比較的大きな変化点として3点の追記があると、当社では捉えています。
1点目として、指針の役割において「企業が自社の業種やビジネスモデル・戦略に応じて積極的に活用することを推奨」と追記されました。各企業に、固有のナラティブ(双方向で腹落ちするストーリー)を携えてステークホルダーに向き合うことを求めていると言えるでしょう。法定開示対応で止まるべきでないと求められているとも言えます。
2点目は、基盤・体制確立における「バリューチェーンにおける取引先等との連係」の追記があります。具体的には、「バリューチェーン全体において、リスクと価値向上の両面から人的資本に係る取り組みの充実化を図ることが望まれる」とあります、取り組み範囲を各企業からバリューチェーンに広げる考え方は、経済産業省が近々公表予定の「人権尊重のためのガイドライン」を意識したものと推察されます。
3点目に、企業価値向上とのつながりの分析において、「人的資本と財務のつながりの観点から人材戦略の有効性を検証し、情報開示や投資家と深い対話を実施」することを求めています。その前提としては、人的資本や人財戦略が財務・資本コスト等に及ぼす中長期的影響の考察・分析も求めています。一部企業による、人的資本情報と株式の投資指標(バリュエーション)の相関性の分析・開示を念頭に置いたものと考えます。

【図2】人的資本可視化指針:主な追記事項

人的資本経営における3つの重要視点

人的資本可視化指針の正式版公表も踏まえて、当社は人的資本経営を進める上で3つの視点が重要と考えます。
第1に、「内部マネジメントと外部情報開示を両輪とするサイクル」が重要です。「内部マネジメント」で従業員の腹落ちとアクションに繋げ、その成果や進捗を「外部情報開示」に活用する。そして、「外部情報開示」を通じた投資家・顧客・求職者等との建設的な対話を、「内部マネジメント」にフィードバックして活用するサイクルが望まれます。
第2に、法定開示への対応=「規定演技」と各社の強み等を表す任意開示=「自由演技」の両方で、総合的に企業価値を高めることも重要です。「規定演技」は、上場企業として不可欠ながら標準的情報で、ここに止まる限りは差別化困難です。よって、各企業の理念・戦略・歴史や強み・特徴を表現する独自のナラティブや指標等を、「自由演技」としてマネジメント・開示し差別化する必要があります(指針の役割で追加された推奨事項でもあります)。
人的資本経営で重要な3点目は、「HRデータ・システム整備における信頼性の担保」です。人的資本経営における人財マネジメントでは、財務と同様にデータ活用が必要です。そのため、人的資本に関する定量情報、その分析、データや分析結果に基づくアクションの信頼性を担保する上で、HRデータおよびシステムの整備が重要となります。

今回は、原案と正式版の変更点について当社の考えをお伝えしましたが、本指針の社内関係者での咀嚼、各社ごとの活用の方向性を議論される上で、先進欧米諸国の動向や取組実例等を交えながらご支援致します。また、ISO 30414等の標準的な考え方・手法に、豊富な実績に基づく幅広いコンサルティングノウハウ、100社を超える企業様との対話を通じた人的資本経営に対する知見を加えて、最適なソリューションをご提供しています。人的資本経営に関する取り組みや方向性を検討・模索している等、上記内容にご関心をお持ちいただきましたら、是非ご一報下さい。

【図3】人的資本経営における3つの重要視点

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