CFO・Xへの道

企業価値を向上させる既存システム再構築のポイント
~システム構築プロジェクトでCFO組織が果たすべき役割~

2018年に経済産業省から「2025年の崖」問題が提起され、多くの企業が基幹システム及び会計システムの更改に着手しました。しかし、「2025年の崖」で指摘された課題のうち、ITベンダーの人材不足や大手ERPパッケージのサポート終了ばかりが注目され、企業価値向上のために最も重要なポイントとなる既存システムの複雑化・ブラックボックス化等についての考慮が欠落しているケースが多く見受けられます。
 
今回は、足かせとなっている既存システムを再構築し、企業価値向上につなげるポイントとしてCFO組織の関与の重要性について、CFO組織の役割とともにご説明します。
 
【CFO組織とは】
CFOを核に熱き思いと冷徹な計算で企業価値創造をドライブする集団
広くは、経営戦略、経営管理、財務会計、ファイナンス戦略、税務戦略、内部統制、リスクマネジメント、監査、サステナビリティ、IR等の領域を担当

複雑化・ブラックボックス化した既存システム

2018年に公表された経済産業省のDXレポート~ITシステム「2025年の崖」の克服とDXの本格的な展開~では、現在の日本企業が抱えるシステムに関する課題を克服できなければ、DXを実現できないのみでなく、2025年以降に大きな経済損失が生じる可能性が指摘されました。その中で最初に指摘されている課題が、既存システムの複雑化・ブラックボックス化です。

【既存システムの問題点】
1.事業部ごとの最適化を優先し、全社最適に向けたデータ利活用が困難
2.有識者の退職等によりノウハウが消失、ブラックボックス化
(1)ノウハウが属人化し、ドキュメント化・形式知化されていない
(2)業務に合わせたスクラッチ開発・カスタマイズ開発の多用によるブラックボックス化

【図1】既存システムの現状と課題

これらの課題を解消し、データを利活用できない場合、市場の変化に対応したビジネスモデルの柔軟・迅速な変更ができず、デジタル競争の敗者となって企業価値を大きく棄損することになります。
つまり、データ利活用のための全社横断データベースを構築し、業務自体の見直しも含めたシステム機能を検討して既存システムを刷新する必要があるという事です。しかし現在進行中の基幹システム再構築プロジェクトでは、既存システムの機能をそのまま新しいシステムに載せ替えるだけのケースが多く存在します。陳腐化した既存システムを置き換えただけのシステムを今後も使い続けるのであればデジタル競争に対応できないことが懸念されます。

企業価値を向上させるための既存システムの再構築

「2025年の崖」で指摘されているように、既存システムを再構築する際のポイントは、全社横断でのデータ活用と、ノウハウの形式知化です。
企業価値向上の視点では、既存システム再構築において全社横断でのデータ活用が特に重要と考えられます。つまり、子会社も含めた明細データを収集・蓄積する経営管理統合データベースと、そのデータを自由に分析できるグループ経営情報基盤の構築です。

【図2】グループ経営情報基盤のシステム全体イメージ

このグループ経営情報基盤によって社内の各組織・各階層で有益な情報が提供されることで、より迅速で適切な判断とアクションが可能となり、企業価値の向上に貢献します。

このようなグループ経営情報基盤を構築するためには、販売・購買・会計等の基幹システムにおいて、分析に必要なデータを取得して連携するように要件定義する必要があります。分析視点が欠如した基幹システム(販売・購買・会計等)のデータは、グループ経営情報基盤が求める粒度・精度・タイミング等の要件を満たせないためです。そのため、データ分析要件は販売・購買・会計等の業務システムより先に検討しておくことが必要になります。

CFO組織の武器であるグループ経営情報基盤

グループ経営情報基盤を構築するにあたっての分析要件の検討には、経理財務部門等のCFO組織のメンバーが主体的にかかわることが重要なポイントとなります。グループ経営情報基盤を利活用して企業価値を向上するための情報を全社の各部門・各階層へ提供するのはCFO組織の重要な役割で、その役割を果たすための重要な武器となるためです。

CFO組織の役割は、大きく戦略策定やビジネスアドバイザーとしての「戦略家」、機能の専門家集団としての「専門家」、機能のオペレーションを担う「実務家」の3つに区分されます。

【図3】CFO組織としての御三家モデル(戦略家、専門家、実務家)

最近、経理財務部門で設立・育成が求められているFP&A(Financial Planning & Analysis:ファイナンシャルプランニング&アナリシス)は主に「戦略家」に相当します。CFOの配下にありながら、事業部門の中で事業部長の意思決定に貢献するFP&Aは、CFOが企業価値創造をドライブする上で非常に重要な機能であり、「CFO配下のFP&Aが事業の意思決定に関与することが利益率を高める可能性がある」とも言われています。
そして、そのFP&Aが企業の意思決定に資する情報を提供するための武器がグループ経営情報基盤です。

新システムにおける取引開始~会計仕訳計上までの一連の業務プロセスの見直し

既存システムの再構築にあたってのもう一つの重要なポイントは、販売・購買等の取引開始~会計仕訳計上までの一連の業務プロセスを見直しすることです。
既存システムは、たとえERPパッケージを利用していたとしても、販売、購買、会計でそれぞれ個別にプロセスを検討し、個々の業務効率化や顧客要望への対応のために多数の独自機能を追加して構築していることが多々あります。このような独自追加機能が「2025年の崖」で指摘されたシステムのブラックボックス化を招いています。

新システムを構築するにあたっては、広く知られている通りERPパッケージの標準機能を使用して業務をシステムに合わせることがポイントとなります。要件定義では「顧客要望に対応できない」といった現場の意見が出ることがありますが、顧客との取引額・頻度の程度や、顧客との交渉の可能性も含めて検討・判断をするべきです。
また、販売・購買のプロセス検討において、現場メンバーだけでなく、CFO組織のメンバーも検討に加わることが重要です。取引は最終的に会計仕訳となりますが、その最後の会計領域を担当するCFO組織が取引の開始から全体を俯瞰して理解・確認することで、非効率な業務や、不正・不整合の原因となり得る業務を発見し、見直しを推進することが可能になります。

このようなCFO組織の活動は、3つの役割のうちの「専門家」が担うビジネスプラットフォームの構築に該当します。ビジネスプラットフォームとは、事業の統廃合、再構築、新事業開発をスピーディかつ柔軟に実施するためにコーポレートが用意すべき事業運営の基盤(インフラ)で、主に「専門家」が企画・構築します。

【図4】経理財務領域のグループビジネスプラットフォーム

既存システム再構築の現場では、経理財務部門が積極的に関わるケースはあまり見受けられませんが、本来のCFO組織の役割の一つであると認識し、主体的・積極的に関わっていくことが重要です。

システム導入過程におけるBPO活用

既存システムの再構築プロジェクトではこれまでご説明したようにCFO組織の積極的な関与が重要なポイントとなります。既に開発工程が進み、要件定義が終了してしまっていたとしても、ユーザーテストや稼働後の業務検討・マニュアル作成等のこれから着手する工程にCFO組織が積極的に関与していくことが大切です。
しかし、経理財務部門等のCFO組織は慢性的に人員不足の傾向があり、システム再構築プロジェクトに積極的にかかわることが困難なケースが多くあります。そのような場合は、新システムの導入検討に必要な工数確保と、導入後の新プロセスでの円滑な業務運用に向けてBPOを活用するなど、CFO組織がシステム再構築プロジェクトに関わる為の工夫も必要になります。

【図5】ERP導入過程におけるBPO活用

今回は、足かせとなっている既存システムを再構築し、企業価値向上につなげるポイントとしてCFO組織の関与の重要性について、CFO組織の役割とともにご説明しました。
弊社では、既存システム再構築やCFO組織の関わりについてご支援の実績が多くあります。詳細については、是非お問い合わせください。皆様と一緒に既存システム再構築を成功させ、企業価値を向上させたいと思っております。

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