進化し続けるための企業の取り組み
~ものづくりのデジタル化~
例えば、"industry4.0”、”ものづくりDX”、”スマートファクトリー”など、その時々でバズワード的に取り上げられます。但し、本質は変わらず、テクノロジーの進化をうまく取り入れながらお客様のために自らが進化していくことに他なりませんが、取り組みの実態はレガシーシステムの問題や部門間の壁の問題など様々な障壁があり、うまく進化できず足踏みしている企業が少なくありません。問題の先送りを続け、変革を実現できない企業はやがてその存在価値を失うことになりかねず、今こそマネジメントの決断と強いリーダーシップが求められます。今回はデジタル化(=進化)を妨げる要因とともに、進化し続けるための企業の取り組みについてご紹介します。
渋滞予測
そもそも日本のものづくりに求められることはどんなことでしょうか。マスカスタマイゼーションが世界の潮流となる中で、日本の製造業の強みである“変種変量生産”をさらに磨いていくということは1つの大きな流れです。但し、変種変量生産においては、ボトルネックがあちこちでどんどん変わっていってしまうという課題があります。
変種変量生産の「流れ」をreal timeでしっかり把握し、更に渋滞箇所を予測し、事前に工程間連携(助け合い)を実現することが出来れば、トータルリードタイムの削減に大きく寄与します。さらに、自社工場に限らず、5G等の技術を最大限活用して、主要サプライヤーまで含めた「広域サプライチェーン」の情報をしっかり捉えることが出来れば、お客様に対する「納期順守率」は飛躍的に高まります。変化が生じた場合においても、お客様にいつ商品を届けることが出来るのか正確に答える(即答)ことができるようになります。
ある企業ではシステムによる自社工場内での渋滞予測をすでに実現しており、現在はグループ企業へ展開中です。最終的なゴールとなる主要サプライヤーまで含めた「広域サプライチェーン」の渋滞予測の実現はまだ少し先になりますが、全社の取り組みとして推進中です。渋滞予測を実現するための要件は大きく分けて以下の3つとなります。
①精度の高い生産計画
シミュレーションを繰り返しながら、変種変量でも最適な組合せの生産計画を立案することができる
②流れ・進捗のReal Time把握
進捗だけでなく、様々な付随情報(ロス、設備稼働など)をサプライチェーン全体でリアルタイムに把握することができる
③ボトルネック特定と渋滞予測
部材不足/不具合状況等から、数十分後にどこで渋滞が起きるかを予測することができる(渋滞が発生する前に対策を打つことで、ライン停止の回避や停止時間を低減する)
サプライヤ連携
渋滞を予測するまでは至ってはいませんが、サプライヤを積極的に巻き込みながらサプライチェーン改革を進めている企業も存在します。
この企業では、サプライヤ側の進捗状況が見えないことからお客様に対する納期回答がうまく出来ず、常に対応が後手後手になってしまうという問題を抱えていました。サプライヤから部品の納入が遅れた時、遅れたという事実しかわからず、サプライヤの工場の中でどんな進捗状況になっているのか全く分からない状態でした。サプライヤの生産能力も把握できていなかったため、そもそもサプライヤにとって無理な計画を強いているのかすら把握することが出来ませんでした。
まずこの企業が着手したのは、サプライヤ側の現場の動きを理解するための生産管理情報の共有(サプライヤの加工計画、加工進捗、BOM情報等)でした。勿論、始めからすべてのサプライヤを対象にしたのではなく、主要部品および主要サプライヤをターゲットとし、徐々に対象を拡大していきました。
この取り組みの最大のねらいは「変化対応力の強化」です。市場の変化(注文量の変化)に対して、各サプライヤにどの程度の影響があるのかということを把握した上で、サプライチェーン全体として最適な判断をしたいということです。
例えば、ある鍛造メーカーでは特定の鋼材の仕入に非常に長いリードタイムを要していることがこの取り組みを始めたことで分かりました。サプライヤのオペレーションを理解するだけでなく、ポイントとなる原単位も理解することが重要です。システムだけでなく、業務プロセスの見直しも並行してサプライヤとともに進めています。
この企業が目指したのは、BOM情報などの基本情報に加え、加工計画・加工進捗・オーダー情報等について、会社を超えて1つのデータベースで共有し、サプライチェーン全体で生産のスケジューリングすることでした。主要サプライヤと協力し、まさに今も改革を進めています。
MBE(Model Based Enterprise)
「3Dモデルを使用した開発からものづくりまで一気通貫実施」
ものづくり企業における最近のデジタル化の取り組みでよく耳にするのはBOM改革です。BOMはものづくりの背骨とも呼ばれ、非常に多くの業務・システムと密接につながっております。SCM改革やECM改革を推進する場合、BOMの見直しが前提となるケースが多いです。最後にご紹介するMBE(Model Based Enterprise)の取り組みもBOM改革を前提としたECMデジタル改革となります。
この企業では、CADベンダーと協力して、MBE(Model Based Enterprise)つまり「3Dモデルを使用して開発からものづくりまで一気通貫で実施する」取り組みを進めています。3Dモデルでのものづくりでポイントになるのは、PMI(Product Manufacturing Information:製品製造情報)です。3DのCADモデルに付与する情報で、例えば、寸法公差、形状、穴位置精度、注記、注釈 など、様々な情報が、現場では必要となります。これまでは2D図面でそれらの情報を管理していましたが、2D図面をやめて、3Dデータですべて管理しようと取り組んでいます。
そうすることで、開発プロセスは勿論のこと、製造、検査、現場管理のプロセスも含めて、一気通貫で3Dのデジタルデータによるものづくりを実現できます。
一般的に、3Dモデルが進まない理由として、3Dモデルでは寸法認識しにくく、注記情報がないので、確認や検証に非常に手間がかかるということが挙げられます。
そこで、この企業では3DAモデル(3D Annotated Model)を推進し、3Dモデルに、構造特性(寸法・注記、数量等)や製造情報(表面仕上げ、加工面等)を加えたモデルを導入しています。これにより、現場で2D図面ではなく、3Dデータを活用してもらうとともに、現場にCADがなくても、3DPDFなどを使い、現場で確認することも可能になります。まだまだ課題はありますが、全社の最優先課題として一歩一歩前に進めています。
まとめ
最後に、以上で説明した内容を簡単にまとめます。
① 日本のものづくりに求められることは日本の製造業の強みである“変種変量生産”をさらに磨いていくということ。変種変量生産の「流れ」をreal timeでしっかり把握し、更に渋滞箇所を予測し、事前に工程間連携(助け合い)を実現することが出来れば、トータルリードタイムの削減に大きく寄与できる。
② サプライヤを積極的に巻き込みながらサプライチェーン改革を進めている企業も存在する。取り組みのねらいは「変化対応力の強化」であり、市場の変化(注文量の変化)に対して、各サプライヤにどの程度の影響があるのかを把握した上で、サプライチェーン全体として最適な判断が出来る仕組みを目指している。
③ 最近のデジタル化の取り組みでよく耳にするのはBOM改革。BOMはものづくりの背骨とも呼ばれ、非常に多くの業務・システムと密接につながっているため、SCM改革やECM改革を推進する場合、BOMの見直しが前提となるケースが多い。例えば、MBE(Model Based Enterprise)の取り組みもBOM改革を前提としたECMデジタル改革であり、実現しつつある企業が存在する。
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この記事の執筆者
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東 多聞SCM事業部
マネージングディレクター -
角山 悠紀ERPイノベーション事業部
シニアコンサルタント
職種別ソリューション