デジタル化の足かせになるBOM
~進化出来ない日本のものづくり~

予期せぬ変化(欧米中露摩擦、半導体不足、炭素税導入 等)に追随し、生き残るためには企業の進化が欠かせません。新たなデジタル技術が続々と世の中に登場し、それらを導入すれば課題が解決できるような風潮・幻想も見受けられます。現実には、新たなデジタル技術を採用しても期待するほど効果が出ず、未だ人海戦術(人間バケツリレー)で結局カバーしている企業が多く存在します。
日本のものづくりを大きく進化させるためのデジタル改革の足かせとは何か、事例を交えてご紹介いたします。

企業を取り巻く環境の変化

【図1】製造業のレイヤー構造化

社会情勢の予期せぬ変化に加え、ビジネス構造の変化(レイヤー構造化による分業化)が近年著しく加速しています。
【図1】で示す通り、これまでは垂直統合型で全てのレイヤーを自社で担う企業が多数を占めていましたが、各レイヤー構造ごとの分業化が進んでいます。
レイヤー構造化の背景には、製品/サービスのソフトウェア化の進展があります。ハードを売るだけでは、お客様に価値を提供できず、逆に、ソフトウェアを更新することで更なる価値をお客様に提供できる時代になったとも言えます。従って、ハードウェアの企業は、積極的にソフトウェアの会社に対してインターフェースを公開し、ソフトウェア会社が新たなサービスを開発するといった構図になっています。また、ネットワーク利用型のサービスの増加によりサービス内容が頻繁に更新できるようになったことも一因です。

レイヤー構造が進んでいくと、企業は、どこのレイヤーで自分たちの会社は勝負するのか、どこに強みを持つべきなのか、を決めていく必要が出てきます。元々はバリューチェーンの再構築の考え方で、レイヤーマスター戦略というものがあります。これは、ある産業におけるバリューチェーンのなかで、“特定の業務や機能”に関する活動に特化し、そこでの競争優位を構築する戦略のことを指します。まさに今こういった戦略の重要性が再び高まっています。

参考:バリューチェーン戦略論からレイヤー戦略論へ 早稲田大学 根来龍之、藤巻佐和子

進化の足かせ(課題)

ものづくり企業は、こうしたビジネス構造の変化に追従するため、変化を前提とした業務・システムへと進化する必要があります。そこで一番の足かせになっているカスタムメイドの古い仕組み、いわゆるレガシーシステムです。

基幹系ソフトウェア利用率の調査によると、会計領域については50%以上の企業でERPが導入されておりますが、販売および生産領域においては30%程度に留まっており、多くの企業ではスクラッチ開発した20~30年前のレガシーシステムを利用しています。カスタムメイドのシステムというのは、現場に密着して使い勝手はいいですが、デメリットとしてシステムおよび業務が進化しにくいということがあります。

スクラッチ開発を選択せざるを得ない最大の原因は「独自に整備してきたBOMの存在」が大きいと考えられます。BOMは、製造業におけるものづくりの背骨と言われていますが、未だに現場の人に頼った運用(人海戦術、バケツリレー)を続けている企業は非常に多いです。解決すべき問題だというのは明らかなのに手を付けていない。見て見ぬふりをしている経営層の方も多いのではないでしょうか。

BOMの課題

主なBOMの課題は以下の4点です。

【図2】BOMにおける主要課題

① 2D図面脱却

CADや3Dデータで設計するのは一般的ですが、それを人が読み取り、2D図面を作成し、下流部門では2D図面を中心とする仕組み・プロセスとなっているケースが非常に多いです。3Dデータを2D図面に落とさず、そのまま後続業務で活用することは、今後必須になってきます。

② BOM連携(同期化)

多くの企業でBOM間の必要な情報の自動連携がうまく出来きておらず、人手で連携している状況です。「紙」での承認・連携や、システムでもE-BOMとM-BOMが別システムになっていて手入力での転記が必要となっているなど、特に設変時など入力ミスやモレが発生し、入力工数が膨大になるという課題が多いです。

③ 情報の一元管理

部門縦割りのシステム開発などを背景として、特定の業務に特化したシステム仕様になっており、下流工程での情報活用や上流へのフィードバックが難しくなっている場合が多いです。このような場合、情報連携を双方向で効率的に行う仕組みを構築する必要があります。

④ ソフトウェア開発

ソフトウェアの製品に占める割合が急速に高まっており、管理工数も増大しています。ソフトや設定の違いによる種類の増加が業務を圧迫している場合、対策として、ハードとソフトのBOMを分離して、設計変更管理の簡素化、コンポーネントの種類の増大を抑制することが考えられます。

 

これらのBOMの課題を解決することで、業務・システムの固定化から解放され、ビジネス環境の変化に対応することが可能となります。また、BOMが整備されることで、ERPプラットフォームやデジタルツインなど様々なデジタルの恩恵を受けられます。

取り組み事例

ある企業では、CADベンダーと協力して、MBE(Model Based Enterprise)つまり「3Dモデルを使用して開発からものづくりまで一気通貫で実施する」取り組みを進めています。
3Dモデルでのものづくりでポイントになるのは、PMI(Product Manufacturing Information:製品製造情報)です。
3DのCADモデルに付与する情報で、例えば、寸法公差、形状、穴位置精度、注記、注釈 等、様々な情報が、現場では必要となります。これまでは2D図面でそれらの情報を管理していましたが、2D図面をやめて、3Dデータですべて管理しようと取り組んでいます。
そうすることで、開発プロセスは勿論のこと、製造、検査、現場管理のプロセスも含めて、一気通貫で3Dのデジタルデータによるものづくりを実現できます。
一般的に、3Dモデルが進まない理由として、3Dモデルでは寸法認識しにくく、注記情報がないので、確認や検証が非常に手間がかかるということが挙げられます。
そこで、この企業では3DAモデル(3D Annotated Model)を推進し、3Dモデルに、構造特性(寸法・注記、数量 等)や製造情報(表面仕上げ、加工面 等)を加えたモデルを導入しています。これにより、現場で2D図面ではなく、3Dデータを活用してもらうとともに、現場にCADがなくても、3DPDFなどを使い、現場で確認することも可能になります。

まとめ

最後に、以上で説明した内容を簡単にまとめます。

① ビジネス構造の変化により、レイヤー型のビジネスモデルが求められる中、“特定の業務や機能”に関する活動に特化し、そこでの競争優位を構築するレイヤーマスター戦略の重要性が高まっている。このような変化に追随し、進化しなければ企業は生き残れない時代になっている。
② 進化の足かせになっているのはスクラッチ開発されたレガシーシステムと独自に整備されたBOMである。デジタル技術の恩恵を享受するためにもBOM問題の解決は避けて通れない。
③ 既に様々な企業で取り組みは始まっており、例えば、3Dモデルに特性・製造情報を付加することでMBE(Model Based Enterprise:開発からものづくりまで一気通貫業務の確立)を実現しつつある企業が存在する。

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