取り残される日本
~日本企業にDXは無理なのか?~

日本企業の中期経営計画を見れば、殆どの企業がDX(デジタル・トランスフォーメーション)を掲げています。しかし、その実態はIT化の延長で真のトランスフォーメーションができていない企業も多く見受けられます。
なぜ、日本企業のDX化が中々進まないのでしょうか。それは日本企業が、DXの背後にある「見えない資本主義」への大きな変化に気付いていないからです。
 
今回は、見えない資本主義の特徴とデジタル化の本質をご紹介します。

無形資産が支配する資本主義へ(見えない資本主義へ)

伊藤レポート2.0で日本企業の企業価値が低迷している理由として無形資産への投資が不足していることが指摘されました。また、伊藤レポート3.0でも、「中長期的な投資で重視するものとして、人材投資、IT 投資(DX 対応・デジタル化)、研究開発投資といった無形資産投資を挙げる企業が少ない」ことが指摘されています。
これは、日本企業が無形資産の重要性を気づいていない、又は理解していないことの表れではないでしょうか。

【図1】企業による長期投資に対する企業と投資家の認識ギャップ

しかし、こうした無形資産を重視した「見えない資本主義」への経済の変化は確実に進んでいます。これらはデジタル化によって更に加速度を上げて進んでいます。
こうした経済の特徴を、「無形資産が経済を支配する:資本のない資本主義の正体(Capitalism Without Capital:Rise of Intangible Economy)」(ジョナサン・ハスケル、スティアン・ウェストレイク著)では、スケーラビリティ、サンクネス、スピルオーバー、シナジーとして4つ挙げています。
今回は、それら4つの特徴とDX経営の本質をご説明します。
(ここではシナジー、スピルオーバー、サンクネス、スケーラビリティの順で説明します)

シナジーとは何か

シナジーは、知と知の組み合わせの相乗効果です。イノベーションは、既存の知と知の組み合わせによる「知の新結合」を意味することから、シナジーはイノベーションとも言えます。デジタル化は、このシナジーやイノベーションを加速させるのです。
デジタル化は単なる効率化ではありません。デジタル化は、イノベーションを起こすために「知」をデジタル化し、様々な組み合わせから新しい「知」を生み出す価値創造の技術と言えます。様々な事象をデジタル化してAIで活用しているのは正にその実践であり、ChatGPTの登場によってその威力を実感しているのではないでしょうか。

【図2】シナジーやイノベーションは新結合

しかし、DXの本質が価値創造であることを理解している会社も少ないと言えます。
味の素では、「味の素グループのデジタル変革(DX)」の中で下記のように謳っています。
 

このサイクル(価値創造サイクル※)を効率的に高速度で回すためには、デジタル技術を用いて見えない資産をデータ変換して見える化を行い、集積したデータを有効なアルゴリズムで解析してオペレーションを高度化、高速化することが重要です。すなわち、DX はデジタルテクノロジーを活用して企業価値向上サイクルを見える化し、高度化、高速化する取り組みであるということです。これが当社グループの DX による企業価値向上サイクルの設計です。

 
※筆者補足
「味の素グループのデジタル変革(DX)-アミノサイエンス®で人・社会・地球のWell-being に貢献する企業へ-」

スピルオーバーとは何か

スピルオーバー(流出、漏出)とは、知の波及効果と言われるものです。人間が生み出した知は、人々の間に次第に共有されていきます。有史以前から、石器の模倣と伝播など人間は知の波及効果を享受してきました。これが、デジタル化によって加速度的に進んでいるのです。皆様もデジタル企業が日々生み出したイノベーション(新しい知)がすぐさま波及していくことを日常的に感じているのではないでしょうか。
 
このスピルオーバーは、知の模倣を生み出します。以前は、イノベーションが伝播するのにも時間が掛かりましたが、現在はすぐ真似することができ、そして誰でもその恩恵を享受できるのです。
Uberがライドシェアというビジネスモデルを生み出すと、すぐさま各国で類似サービスを提供する企業が出てきたのはこの典型です。 クラウドサービスなどのソフトウェアサービス群も同じです。グローバルでの「知の恩恵」をそのまま享受することができます。しかし、自らの細かい嗜好や独自性に拘れば、その恩恵は享受することができません。これが日本企業の基幹システムがガラパゴス化・化石化している真因です。
 
デジタル化は、イノベーションを急速に波及させ、模倣によってコモディティ化を加速します。つまり、真似るのも簡単、真似されるのも簡単、つまり新しい知を生み出し続けるスピードこそが企業の競争優位を決定するのです。日本企業が、DXに遅れをとり取り残されているのは、この本質に気づいていないからです。
モノづくり中心の日本企業は、時間を掛けて物事を進める「すり合わせ」を得意としていますが、どうしても時間が掛かるという欠点があります。スピルオーバーを前提とした新しい「すり合わせ」を生み出し、変化のスピードを加速させなければ生き残れないのではないでしょうか。

サンクネスとは何か

サンクネスとは、投資した資本が回収できないことを意味します。無形資産への投資は、人的資本、知的資本、社会・関係資本(顧客資本含む)等がありますが、多くは販売や回収ができません。医薬品の研究開発投資などが代表例です。新薬が生まれなければ、それまで掛けた試験研究費は回収できず無駄となります。このように無形資産への投資は、経営的なリスクが高いものです。
 
日本企業は、設備投資より無形資産投資が少く、サンクネスといったリスクに対するアニマルスピリットが乏しいのかもしれません。

【図3】市場価値に占める無形資産の割合(日米比較)

逆に、サンクネスは、既に費やしたコストに気を取られ、「無駄にしたくない」「もったいない」と言った心理から合理的な判断を誤ってしまうサンクコスト効果(例えば、ギャンブルで負けが込んでいるが故に掛け続けてしまうこと)をもたらすことにも注意してください。

スケーラビリティとは何か

スケーラビリティとは、追加の投資を最小限にしながら規模を大幅に拡大させることです。例えば、以前製造コストや流通コストをかけてCDとして販売されていた音楽が、ほとんどコストが掛からずネットワーク経由で瞬く間に拡散していくといったことです。GAFAM(Google、Amazon、Facebook、Apple、Microsoft)の戦略は、このスケーラビリティを前提としています。

【図4】GAFAの売上高の推移

デジタル化は、企業のスケールアップを爆発的に拡大します。日本だけでは約1億までですが、グローバルでは約80億のポテンシャルを一気に掴む可能性があります。直線的な成長ではなく、指数関数的な爆発的成長を実現することも可能です。
 
このことは、前述のサンクネスと合わせ、ビジネスがハイリスク・ハイリターン化している、換言すれば多くの失敗の中から大きなリターンが生まれることを意味します。従ってDXには、失敗の連続の中からイノベーションが生まれる、失敗を受け入れ積極果敢にチャレンジするという経営が不可欠ということです。
しかし、前述のように日本企業のリスク回避型体質から、こうした積極果敢なチャレンジをする姿勢が弱いと言わざるを得ません。

見えない資本主義を経営に活かす

デジタル化の4つの性質を経営的に認識している企業に前述の味の素が挙げられます。
味の素 執行役専務 Chief Digital Officer(CDO) 香田 隆之 氏が自社ホームページで下記のように説明しています。
 

デジタル技術のもつスケーラビリティー(拡張性)、スピルオーバー(汎用性)、シナジー(結合による付加価値)は、このような連携(他企業団体・行政・アカデミア・医療機関・栄養士などとの連携※)を可能にする大きなファクターと認識し、DXによる企業変革の必要要件として企業全体のリテラシー向上に努めています。当社グループは、「食と健康の課題解決企業」として生まれ変わり、社会のデジタル変容の良きパートナーとなり、「食と健康の課題解決」にリーダーシップを発揮し続けて参ります。

 
※筆者補足
味の素グループのデジタル変革(DX)
 
皆様のDX推進の参考にしては如何でしょうか。

以上のように見えない資本主義は、「シナジー」と「スピルオーバー」といった特徴からイノベーションとスピードアップを促進し、「サンクネス」と「スケーラビリティ」といった特徴からハイリスク・ハイリターンのスケールアップを実現します。
これがDXの本質ではないでしょうか。詳細については是非お問い合わせください。皆様のDX推進の実現に貢献いたします。

この記事に興味をもったらメールで送信して共有! ×