会計システム刷新

【第33回】移行・展開フェーズの秘訣は何か

◆この記事の要約

本記事では、会計システム刷新における移行・展開フェーズの要諦を、移行計画策定、移行手順書作成、移行ツール開発、移行リハーサル、本番移行、展開の流れに沿って整理します。特に、経理財務部門が情報システム部門に任せきりにせず、主体的に推進する重要性を解説します。

  • 移行・展開フェーズは、旧システムから新システムへの切り替えや、新業務での運用を開始する最終段階であり、移行計画策定から本番移行、展開まで一体で進めることが重要です。
  • 移行計画策定では、元帳残高データ、仕訳データ、残高明細データ、マスタデータなどの移行対象を定義し、既存システムと新システムの利用範囲や利用時期も踏まえて整理します。
  • 移行手順書作成移行ツール開発では、具体的な作業手順、役割分担、チェックポイント、ロールバック手順を明確化し、データ抽出・変換・登録・検証を正確に行うことが求められます。
  • 移行リハーサル本番移行では、データ整合性、作業時間、関係者の習熟、監視体制を確認し、経理財務部門も実務観点で参画することで、移行リスクの低減につなげます。
会計システム刷新における移行・展開フェーズは、既存システムから新システムへシステムを切り替え、新業務での運用を開始する最終段階のフェーズです。
 
システムテストや業務運用テストで検証された新システムを本番環境に移し、実際にユーザーが利用を開始する重要なフェーズです。特に、会計システムは関連システムが多いため、テスト環境ではテストしきれないケースもあります。主管部門である経理財務部門は、移行・展開を情報システム部門に任せきりにせず、自らイニシアティブをもって推進していくことが重要です。
 
そこで今回は、ERPや会計システムパッケージによる「会計システム刷新のキホンのキ」として、会計システム刷新における移行・展開フェーズの要諦をご紹介します。

移行・展開フェーズとは

移行・展開フェーズは、新システムの導入企業・拠点において、旧システムから新システムへシステムを切り替え、新業務での運用を開始する最終段階のフェーズです。

【図1】移行・展開フェーズの位置付け

移行・展開フェーズとしては、新しい業務(ルール・プロセス・組織)とシステムに移行を、そして方針や計画を策定する移行計画策定、旧システムから新システムへの切り替え手順をまとめた移行手順書作成、旧システムから新システムへのデータ移行等を効率的に進めるための移行ツール開発、新システムへの移行を模擬的に試行する移行リハーサル、新しい業務(ルール・プロセス・組織)とシステムを実際に移行する本番移行、複数拠点で導入する場合の展開があります。

【図2】移行・展開フェーズの内容

移行計画策定とは

移行の対象となるデータを定義したうえで、各データに対して移行方式や移行のタイミング、移行に必要となるツールに係る要件等を整理し、業務移行およびシステム移行の観点から移行計画案を策定します。

会計システムにおける移行データとしては、一般会計サブシステムにおける元帳残高データと仕訳データや、各サブシステム(債権管理、債務管理、固定資産管理、資金管理等)における残高明細データやマスタデータなどがあります。どの範囲まで過去データを移行するかは、過去情報の活用方針(過去年度比較等)に依存します。また、固定資産管理サブシステムなどでは、過去に遡って資産計上し、その後の減価償却等の取引履歴を順次計上するようなケースもあるので、ERPや会計パッケージの導入時、どのように過去データを移行するか確認が必要です。

加えて、債権や債務などにおいては、既存システムの残高を新システムに移行せずに、既存システムの残高の回収・支払が完了するまで既存システムを利用するケースもあります。したがって、既存システムと新システムの利用範囲や利用時期も考慮して、移行計画を策定することが重要です。移行方法等は選定したERPや会計パッケージによって異なるため、移行計画はシステム要件定義フェーズと同タイミングで検討することが一般的です。

移行手順書作成とは

移行対象データ別に移行手順書の作成を行います。
移行手順書とは、システム開発における旧システムから新システムへの移行作業を円滑かつ確実に実施するために、具体的な作業手順や役割分担、注意点を詳細に記載したドキュメントです。移行作業の標準化と再現性を確保し、トラブルを防止するためのガイドラインとなります。

移行手順書の内容

移行手順書は、下記の内容を一般的に記載します。

  • 移行作業の全体フローとスケジュール
  • 各作業ステップの詳細手順(作業内容、実施方法、使用ツールなど)
  • 作業担当者・役割分担
  • 事前準備事項(バックアップ取得、環境確認など)
  • 移行中のチェックポイント・確認項目
  • トラブル発生時の対応手順(ロールバック方法など)
  • 移行完了後の検証・報告方法
  • 関連ドキュメントや連絡先一覧

移行手順書作成のポイント

ロールバック(切り戻し)手順の具体化
システム移行作業中または移行後に問題や障害が発生した場合に、新システムへの切り替えを中止し、旧システムの状態に復旧させる作業をロールバック(切り戻し)といいます。
ロールバックを確実に行うためには、移行前に既存システムのデータや設定の完全なバックアップを取得したり、ロールバックに必要な具体的手順(データ復元、システム再起動など)を事前に移行手順書として整理したりすることが必要です。

インターフェースの変更
上流システムからのインターフェースが複雑な場合や、既存システムから新システムへの移行時にインターフェースデータの粒度やタイミングを大きく変更する場合には、上流システムごとに移行作業手順を具体化しておくことが重要です。

本番移行前のデータ移行
移行データのうち、本番移行前に移行可能なデータ(マスタや過去のトランザクション等)は、本番移行前に移行していきます。したがって、本番移行と別にこれらの移行手順を具体化することも必要です。
特に、既存システムと新システムでマスタ体系が大きく異なる場合、その違いの検証を含めて移行する必要があります。なお、マスタ移行については、システムテストや業務運用テストにおいてもその適正性を検証していきます。

移行ツール開発とは

システム移行では、既存システムから新システムへデータや機能を移すための移行ツールを利用します。
移行ツールは、移行作業を効率的かつ正確に行うためのソフトウェアやスクリプトです。

移行ツールの内容

移行ツールには、下記のようなものがあります。

  • データ抽出ツール
    既存システムから必要なデータを抽出するツール
  • データ変換ツール
    既存システムのデータを新システムのデータフォーマットや仕様に合わせてデータを変換するツール
  • データ登録ツール
    新システムへデータを登録・投入するツール
  • 移行検証ツール
    移行後のデータが正しく移されているか確認するツール
  • ログ管理ツール
    上記の処理状況やエラーを記録するツール

移行ツールは、ERPや会計パッケージの提供企業または導入ベンダーが用意しているものもあるので、導入時に確認が必要です。

移行ツールの開発・テスト

移行ツールの開発
移行ツールの開発は、通常のシステム開発手法と同様の手順が必要です。
移行要件を明確化し、移行ツールの仕様書や設計書を準備したうえで、ソフトウェアやスクリプトなどを開発します。

移行ツールのテスト
開発された移行ツールは、それぞれの要件を満たしているかのテストを実施します。
具体的には、移行ツールごとにテスト計画を立案し、テストデータを準備したうえで、テスト(旧システムからのデータ抽出、データ変換、新システムへのデータ登録等)を実施し、移行結果を検証します。
移行結果に問題がある場合には、仕様を見直し、再度検証を行います。

移行リハーサルとは

移行リハーサルは、本番のシステム移行を模擬的に実施する移行手順を検証する作業です。

移行リハーサルの目的

移行リハーサルは、下記の目的のために行います。

  • 移行手順の検証
    実際の移行作業手順やツールの動作を事前に確認し、問題点を洗い出す
  • 作業時間の把握
    移行にかかる時間を正確に見積もり、業務影響を最小化する計画を立てる
  • 関係者の習熟
    移行作業に関わるメンバーの役割や手順の理解を深め、連携を強化する
  • データ整合性の確認
    移行後のデータが正しく移されているかを検証し、品質を担保する
  • 移行リスクの低減
    本番移行時のトラブルや想定外の事象を未然に防ぐ

移行リハーサルの内容

移行リハーサルの内容には、下記のようなものがあります。

  • 移行ツールの動作確認
  • データ抽出・変換・ロードの一連処理の実施
  • 移行手順書に基づく作業の実践
  • 移行後のデータ検証(整合性チェック、業務観点での確認)
  • 移行作業にかかる時間の計測
  • 問題発生時の対応手順の確認
  • ログの取得と分析

移行リハーサルの具体的な手順

移行リハーサルは、下記の手順で実施します。

【図3】移行リハーサルにおける主な手順

移行リハーサルにおけるポイント

経理財務部門の参画
移行リハーサルは、システム部門が主導しますが、経理財務部門も参加し、実務観点での確認を行ってください。

本番移行との差分の確認
移行リハーサルを行う環境は、通常テスト環境であるため、テスト環境が本番環境と異なる場合、環境差異による問題が発生しないか注意する必要があります。例えば、上流システムからのインターフェースに関して、上流システム側で本番と同様のテスト環境が用意できないなどのケースがあります。
このような場合、移行リハーサルと本番移行時の手順等の違いを明確化して、移行リハーサルを行うことが重要です。

本番に近いデータの準備
移行リハーサルは、基本的に本番時に近い全データで行うようにします。実際の手順や処理時間などを本番移行時と同じくするためです。

移行手順の習熟
移行リハーサルは、1回だけでなく複数回リハーサルを行い、確実性を高めることも重要です。
特に、関連システムが多い場合、システム切り替えの手順やタイミング等に習熟するためにも、確実に本番切り替えができるまで実施することが重要です。

ロールバックの確認
移行リハーサルは、想定されるトラブル発生時の対応手順もリハーサルに含め実施することが重要です。
特に、ロールバックについては、必ずリハーサルし、戻すことができるか確認を行う必要があります。

本番移行とは

本番移行は、既存システムから新システムへ実際に業務データや機能を切り替える最終段階です。

本番移行の内容

本番移行には、下記のようなものがあります。

  • 移行前の最終バックアップ取得
  • 移行ツールやスクリプトによるデータ抽出・変換・ロードの実行
  • 移行中の進捗監視とログ管理
  • 移行後のデータ整合性・動作確認
  • 移行にともなうシステム停止・再起動作業
  • トラブル発生時の対応・復旧作業
  • 移行完了報告と関係者への通知

本番移行の具体的な手順

移行リハーサルは、下記の手順で実施します。

【図4】本番移行における主な手順

本番移行のポイント

本番移行のタイミング
本番移行作業は、業務時間外や影響の少ない時間帯に実施し、業務停止時間を最小限に抑えます。
また本番移行は、通常休日の期間が長い、年末年始、ゴールデンウイーク、お盆時期などに行います。
会計システムの場合、会計期間の途中で切り替えを行うと、既存システムと新システムのデータが、同じ会計期間に存在するため、会計期間終了後に本番移行することが一般的です。

本番移行手順の順守
移行リハーサルで習熟した移行手順に基づき本番移行を行います。
特に、テスト環境が本番環境と異なり環境差異がある場合には、移行リハーサルで実施できない移行手順となるため、関係者間で手順等を十分共有して行ってください。

移行監視体制の確立
移行中・移行後の問題発生に備え、担当者や連絡手段を明確にしておくことも重要です。
特に、本番移行後中止し、ロールバックする判断を行ったり、本番稼働を判定したりしますので、プロジェクトの意思決定者の参画は不可欠です。また、新システム稼働直後は特に監視を強化し、異常を早期発見・対応することが重要です。

展開とは

会計システムをグループ会社に導入する場合には、各社に対してどのように展開して行くかを展開計画として策定し、展開計画に応じて順次会計システムを導入する必要があります。

ここでは、複数会社に会計システムを導入する手順を説明します。

【図5】展開における主な手順

まとめ

今回は、ERPや会計システムパッケージによる「会計システム刷新のキホンのキ」として、会計システム刷新における移行・展開フェーズの要諦をご紹介しました。移行・展開は、新システムを実際に運用するための重要なフェーズです。詳細は、別途是非レイヤーズ・コンサルティングにお問い合わせください。

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