「アウトカム」×「長期」の2つの視点での人的資本開示

人的資本開示について各社検討し開示を進めておりますが、内容を見ると、「アウトカム」視点、「長期」視点の2つの視点が不足しているように思われます。今回は人的資本開示の背景、人的資本投資の実態、開示への対応状況もご説明しつつ、「アウトカム」視点の重要性、「長期」視点の重要性についてご説明いたします。
 
なお、インプット/アウトプット/アウトカムについてはここでは以下のように定義いたします。
・インプットは、アウトプットするために必要なもの、つまりリソース(ヒト/モノ/カネ/情報等)
・アウトプットは、インプットを活用し、活動、プロセスを踏むことで生み出された結果
・アウトカムは、アウトプットによってもたらされる財務資本、非財務資本への影響・成果
IIRCの改訂された統合報告フレームワークも参考にしてください。

人材版伊藤レポート2.0の「変革の方向性」

人材版伊藤レポート2.0(経済産業省主導でおこなわれている「人的資本経営の実現に向けた検討会」の座長・伊藤邦雄氏がとりまとめたレポートであり、2020年9月に出された人材版伊藤レポートの改定版となります。)において、下図にあるように6つの「変革の方向性」が示されています。

【図1】変革の方向性

個人的な意見となりますが、6つの中で一番重要なのは1つ目です。人材マネジメントの目的が、今までの人的資源で「コスト」の位置づけから、人的資本として「投資」の位置づけに変わったところです。

企業にとってコストは「とにかく抑制するもの」です。コストを使え!という企業は多くないでしょう。よって、人材マネジメントの目的が人的資源の管理でオペレーション志向であれば、とにかく抑制!抑制!の位置づけとなります。
逆に企業にとって投資は「未来のために投資せよ」という位置づけになります。よって、人材マネジメントの目的が人的資本の活用・成長でクリエーション志向であれば、どんどん投資せよ!の位置づけとなります。
資本ということはお金がお金を呼ぶ、資本が資本を呼ぶ、人的資本であれば、才能が才能を呼ぶ、という形でどんどん拡大していくことを意味します。

人材マネジメントの目的がコストから投資となり、投資には戦略が伴い、経営判断になってくるということから、上記図の2つ目(アクション:人事→人材戦略)と3つ目(イニシアチブ:人事部→経営陣/取締役会)が関連して変わってきます。残り3つも上記3つに関連して変わってくるものであり、また少しコンセプト的で抽象度の高い内容となっています。繰り返しになりますが、個人的意見としては6つのうち一番重要なのは1つ目です。

人的資本投資の実態

人材版伊藤レポート2.0で人的資本経営の実現に向けた検討内容が各社の事例も含めて公表され、人的資本に関する開示対応がスタートしている状況かと思います。

令和4年3月に内閣官房 新しい資本主義実現本部事務局/経済産業省 経済産業政策局が公表した「非財務情報可視化研究会の検討状況」のP9に「時価総額に占める無形資産の割合」が米国市場と日本市場の対比で掲載されております。

【図2】時価総額に占める無形資産の割合

こちらは時価総額から純有形固定資産の額を差し引いた額を無形資産の額として割合を出しております。米国市場は時価総額における無形資産の割合が非常に高く、その背景にはGAFAMの存在が大きいと推察されます。そうは言っても日本の無形資産割合が非常に低いものとなっております。
無形資産はのれんが多く、またソフトウエアも占めており、ソフトウエアは、「ヒト」がつくる知的資本ですので、知的資本と人的資本の成果となります。日本は装置産業が多く有形固定資産割合が高いですが、今後はトランスフォーメーションが必要であり、知的資本や人的資本への投資が求められます。

また、一般社団法人生命保険協会 生命保険会社の資産運用を通じた「株式市場の活性化」と「持続可能な社会の実現」に向けた取組について(2021年4月)に、下記の調査結果があります。

【図3】機関投資家が重視する情報

日本企業は装置産業のため『設備投資』を重要視しており1位ですが、機関投資家は『人材への投資』が中長期的な投資・財務戦略において重視しているものとして1位になっています。逆に『人材投資』について企業側は5番目で、『設備装置』について機関投資家は5番目。
1位と5位がまるっきり逆になっているところが非常に残念な結果となっています。

このような実態がある中で、日本は人的資本への投資を拡大していく必要があり、人的資本への開示が求められるようになりました。

「アウトカム」視点が漏れている人的資本開示

日本企業の人的資本開示への対応は、検討は進めている状況ではありますが、決定して実行まで進んでいる企業はまだ少ないように思われます。我々も様々な企業と人的資本開示への対応についてコンサルティングをさせていただいておりますが、情報収集をしている状況のお客様もいます。自社として管理すべき人的資本情報を特定して、目標も設定して、管理・モニタリングを実施するところまではまだ到達していないのが実態のようです。

人材版伊藤レポート2.0には実践事例集として旭化成からロートまでの19社の事例が紹介されております。各社素晴らしい取り組みで参考になる内容となります。伊藤忠商事に関しては「労働生産性」を掲げて、いわゆる「アウトカム」に注目した開示に取り組んでおります。
この「アウトカム」に注目した開示が重要なポイントだと思っております。
内閣官房 非財務情報可視化研究会「人的資本可視化指針」にも人的資本の情報には「インプット」「アプトプット」「アウトカム」の3種類があることを示しております。

【図4】人的資本情報のインプット/アウトプット/アウトカム分類

健康増進プログラムへの参加率はあくまでも「インプット」であり、従業員エンゲージメントが「アウトプット」で、従業員一人当たり営業利益が「アウトカム」と定義されています。企業として売上高を高める、利益を高める、イノベーションを創出して新製品を生み出し、新製品売上高比率が高まる、労働生産性が高まる、といった「アウトカム」に注目することが開示においては非常に大切です。
様々な企業の人的資本開示情報を見ていると「インプット」項目を表示しているだけの企業も多くみられます。また、インプット項目、アウトプット項目、アウトカム項目が並列に並べられて、どれがインプットでどれがアウトカムなのかもわかりづらく、ストーリー性のないケースも見受けられます。開示するからには、やはりインプット項目からどのように「アウトカム」につながるかの説明、ストーリーが重要になります。

「長期」視点でストーリー性のある人的資本開示

繰り返しになりますが、各社の人的資本開示情報を見ると、インプット項目が並べられているだけ、インプット、アウトプット、アウトカムが並列に語られてストーリー性がないものが見受けられます。
あともう1点。「長期」視点が語られていないものもあります。人的資本への投資が華開く(成果に結びつく)のは5年後10年後になります。「わが社は5年後(10年後)には、このような姿を目指しており、そこにおける人財、タレントのポートフォリオはこのようになっていなければならず、それが企業の持続的成長を支える基盤になる」といった姿を示して、だから今インプットとしてこのような人的資本への投資をしている、というストーリーが必要となります。

「長期」視点でストーリーを語っていくためにも、企業としての、パーパス、ビジョン、ミッション(PVM)をしっかりと定めて、経営戦略と人財戦略を連携させ、人的資本への投資をしていくことが重要となります。人的資本投資は、長期的な継続投資が必要になりますから、企業としても肚を据えて本腰を入れて取り組む必要があります。

是非とも人的資本開示対応についてお悩みの点などがあればお気軽にお問い合わせください。

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