会計システム更改の鍵
“Fit to Standard”の実践ポイント
2000年前後の会計ビッグバンにおいて、日本国内でERPの導入企業が増加しました。しかし、自社業務に最適化されたシステム導入が前提であったため、アドオン・カスタマイズと呼ばれる追加開発の山となり、システムが塩漬け状態となっている企業が数多くあります。
デジタルテクノロジーの進歩と共に、会計システムの機能拡充がされている今だからこそ、システム機能を使い倒す形での会計システム更改を進めて、塩漬け状態のシステムからデジタル経営にシフトする好機と言えます。
今回は、会計システム更改の実現手段などを振り返りながら、システム機能を使い倒す形で会計システム更改を行うための“Fit to Standard”の実践ポイントをご紹介します。
会計システム開発の実現手段
会計システム開発の実現手段は、「スクラッチ開発」と「ERP・会計パッケージ活用」があります。
「スクラッチ開発」は、システムをゼロから開発するため、開発期間やコストがかかる一方、自社業務に適用した独自性の高いシステムを構築できます。
「ERP・会計パッケージ活用」は、既存のERP・会計パッケージを導入するため、開発期間やコストを抑えられる一方、ERP・会計パッケージの標準機能では賄いきれない業務が生じる可能性があります。
業界業種によって異なりますが、会計システムに係る業務は、販売管理や生産管理、原価管理などに比べて、独自性が生じにくい傾向にあるため、一般的には「ERP・会計パッケージ活用」によってシステム開発が行われます。
【図1】スクラッチ開発とERP・会計パッケージ活用
アドオン・カスタマイズの弊害
ERP・会計パッケージを活用し、新たな会計システムを導入するにあたり、ERP・パッケージの標準機能では賄いきれない業務が存在する場合、アドオンやカスタマイズを行い、対応を図るケースがあります。
アドオンやカスタマイズは、システムの業務カバー範囲を広めて業務効率性を高められる一方、アドオンやカスタマイズが多くなるほど開発段階のみならず、システムリリース後にも様々な弊害が生じます。
- 開発費用が想定以上に膨れる
- アドオン・カスタマイズ分の保守費用が追加発生する
- 法規制改正に伴うバージョンアップに影響を及ぼし、ERPや会計パッケージの恩恵を得られない
- 老朽化更新の足枷となる
昨今ではこうした弊害を取り除くため、ERP・会計パッケージの活用においては「Fit to Standard」が推奨されています。
Fit & GapからFit to Standardへ
会計システム開発における要件定義手法は、「Fit & Gap」と「Fit to Standard」があります。
「Fit & Gap」は、現行業務と新システムの差分を捉え、差分をどのように新システムで実現するかを考える手法です。現行業務の実行を担保できる一方、結果的に現行業務に新システムを合わせるため、不足機能を追加開発で補うことになりがちです。
自社業務に最適化されたシステムとの前提を置いた場合、「Fit & Gap」の手法が取られることが一般的でしたが、これがアドオンやカスタマイズを増やす大きな原因になっています。
一方、「Fit to Standard」は、ERP・会計パッケージに組み込まれた標準機能に対して、業務を合わせる手法です。「Fit to Standard」では、どのように業務を標準機能に合わせるかがポイントになり、アドオン・カスタマイズを最小限に抑えられる上、おのずと全体最適化がなされ効果的な導入が可能となります。
VUCA時代においてデジタル経営が求められる中、会計システムが持つ価値はオペレーションシステムとしての業務効率性から、意思決定システムとしてのデータ・情報そのものへシフトしています。
従って、変化の激しい現代においては会計システムをいかに早く導入し、効果を刈り取りに行くかが重要になります。
【図2】Fit & GapとFit to Standard
Fit to Standardの実践ポイント
Fit to Standardを実践する上で、重要なポイントが4つあります。
【図3】Fit to Standardの実践ポイント
1.ERP・パッケージ機能の把握
Fit to Standardを実践する上でのポイントの1つ目が、ERP・パッケージ機能を把握することです。
ERP・パッケージ導入にあたっては、ユーザー部門、IT部門、ITベンダーがプロジェクト参画することが一般的ですが、ユーザー部門は、業務要件検討に注力するあまり、ERP・パッケージ機能の理解を後回しにして、業務要件をどのように新システムで実現するかの検討をIT部門・ITベンダーに丸投げにしがちです。
しかし、Fit to Standardを実践する上では、IT部門のみならず、ユーザー部門もERP・パッケージ機能を理解し、ERP・会計パッケージに組み込まれた標準機能を使い倒して、どのように現行業務を効率的に推進するかを協議することが重要です。
また、ITベンダーに対して、単に業務要件を伝えるだけでなく、業務要件の意図(会計方針・会計慣行・会計処理)を理解してもらい、ERP・パッケージのスペシャリストの視点から、ユーザー部門・IT部門の協議に参加してもらうことも有効な手立てです。
2.業務のシンプル化
Fit to Standardを実践する上でのポイントの2つ目が、業務をシンプル化することです。
自社の会計方針・会計慣行・会計処理は、現行システムを前提に定義されていることが一般的です。
また、原則ERP・パッケージは、各種会計基準に則るように機能が組み込まれていますが、各ERP・パッケージ毎に特色があるため、現行システムでは最適な会計方針・会計慣行・会計処理であっても、本来の業務目的を鑑みると複雑化している可能性があります。
更に言えば、現行システムで多くのアドオン・カスタマイズがされていれば、本来的には不必要な業務運用を行っている可能性があります。
そのため、Fit to Standardを実践する上では、本来の業務目的に立ち返り、複雑化している会計方針・会計慣行・会計処理を業務改革し、シンプル化することが重要です。
3.ソフトウェア・クラウドサービス・RPA活用
Fit to Standardを実践する上でのポイントの3つ目が、ソフトウェア・クラウドサービス・RPAを活用することです。
ERP・パッケージは、最大公約数的な機能となっているため、業務の簡素化を行った上で自社業務をシステムに合わせるように要件定義を行ったとしても、ERP・パッケージの標準機能では対応しきれないことが往々に発生し得ます。
その際に、単一のERP・パッケージでやり切ろうとせず、ユーザー部門の要求に合ったソフトウェアやクラウドサービスを活用するように割り切ることが重要です。
また、ERP・パッケージの標準機能では対応しきれない業務要件の大半は、インプット処理の効率化・簡略化や独自のアウトプット帳票の追加などが占めます。
そこで、インプット・アウトプットにおいて、RPAを活用することも視野に業務要件を整理することも一つの策です。
但し、ERP・パッケージの標準機能では対応しきれない場合、安易にソフトウェアやクラウドサービス、RPA活用を図るのではなく、「当該業務要件が、ERP・パッケージの標準機能を工夫して活用することで対応できないか」、「ソフトウェアやクラウドサービス、RPA活用した場合のコストが、当該業務要件を手運用で対応した場合のコストに見合うのか」を検討した上で実行判断することが重要です。
4.プロジェクト内でのFit to Standard方針の腹落ち
Fit to Standardを実践する上でのポイントの4つ目が、プロジェクトメンバーが“Fit to Standard”という方針に腹落ちした上でプロジェクト推進することです。
“Fit to Standard”を御旗に上げておきながら、結果的にはアドオン・カスタマイズが散見するといったことが生じる原因の1つが、IT部門が“Fit to Standard”を打ち出したものの、ユーザー部門の納得感を得られぬままプロジェクトが進むことです。
プロジェクトキックオフ時点から、IT部門とユーザー部門が、相互にコミュニケーションを取り、“Fit to Standard”の方針や期待効果を把握・理解し、腹落ちした上で、プロジェクト推進することが重要です。
また、ITベンダーが参画し始める要件定義の開始時には、ITベンダーに対しても、“Fit to Standard”の方針を伝え、原則アドオン・カスタマイズを行わないことを認識してもらうことで、アドオン・カスタマイズ提案ではなく、標準機能をうまく使うコツを引き出すことも重要です。
今回は、“Fit to Standard”実践のポイントをご紹介しました。
詳細については、是非お問い合わせください。
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この記事の執筆者
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飯田 稜大経営管理事業部
マネージャー -
杉野 林太郎経営管理事業部 兼 ERPイノベーション事業部
ディレクター
公認会計士 -
野竹 茉衣経営管理事業部
シニアコンサルタント
職種別ソリューション