戦略人財に育成したいなら、オペレーションをやらせるな

最近は、オペレーションの比率を下げて専門家や戦略家(経理部門であればFP&A)を増やそうという方針が浸透してきましたが、同時に、オペレーションを減らした時に、それで人財が育つのか、というご質問を多く受けます。
結論から申し上げると、時代が変わった以上、今必要とされるスキルを早くから身につけた方が成長は速いと考えます。本稿では、その理由について解説いたします。

事務のオペレーションを支えるツールの変遷

事務と言っても色々ありますが、昔から商人にとって帳簿をつけることは必須であったので、昔から存在する業務として、記帳やそれに伴う計算処理を取り上げます。
江戸時代の帳簿は、現存するものを見ると複式簿記に近い考え方のものもありますが、基本的には単式簿記で、縦書きであったようです。
「読み、書き、算盤」という言葉が示す通り、算盤の技能が基礎教育となっていたので、複式簿記の利点である、損益計算と財産計算の結果での検算がなくとも、正しい計算を行うことができたのではないかと言われています。

計算機としては、1923年のタイガー計算機、1957年のカシオ計算機、1964年の日本での複数のメーカーによる電卓発売と、計算の自動化は進んできましたが、あくまでも何をどう計算するか(数式)は人間が考えた上で、結果を求めることを補助する物でした。何をどう計算しなければならないかがわかっていないと、業務を行うことは不可能だったわけです。

ところが、1979年から、初期的な表計算ソフトが誕生、1985年には今の事務業務になくてはならないExcelが登場し、1994年に発売されたExcel5.0からVBAも搭載されて、Excelは単なる表計算ソフトからちょっとしたアプリケーション開発が可能なツールとなっていきます。これにより、何をどう計算するか(数式)をExcel(ツール)の中に保持することが可能となり、逆に言えば、何をどう計算するかがわかっていない人でもできる業務にすることができるようになりました。
さらに近年ではRPAも登場し、人が一切関わらなくて済む業務も出てきています。

【図1】計算式を保存できるツールの登場で、業務のやり方は大きく変わった

先進企業のオペレーションは優れているが、成長機会としては劣っている

人間は様々な理由によりミスをしますので、計算式をExcel(ツール)の中に保持することができるなら、最大限それを活用して人間がやることは最低限にするほうが、品質とスピードの両面から優れていることは明らかです。毎月同じ計算をするとしたら、計算式自体はExcel(ツール)の中に保持して、人間は日付と金額を更新するだけにする。その日付と金額の更新も手打ちだと間違えるから、元情報をそのままのレイアウトで決まった場所に貼り付けるだけで良いようにする、といった具合です。

先進的な企業では、RPAも含めた様々なツールを用いて、自動化できるところは自動化を進めていますので、結果、残っている人間のオペレーション業務というのは、自動化が何らかの理由で難しいところ・・・ 必ずしも人間が判断しないといけない難易度の高い業務だから、ということではなく、様々な自動化ツールの制約でたまたま自動化ができなかった部分、ということも少なくありません。

たまたま自動化できなかっただけですから、それらのオペレーション業務を何年実施しても(ただオペレーション業務を実施しているだけでは)全体感が見えるわけではなく、業務目的も業務の前後のつながりもわかりません。
人財育成にはオペレーション業務の実施ではなく、別のアプローチが必要なのです。

【図2】自動化出来なかった業務だけで全体像を想像するのは難しい

三つ子の魂百まで。若いうちこそ良い経験をさせよ!

では、このような時代背景を考慮した上で、どのように人財を育成すればよいのでしょうか。
月並みの回答で恐縮ですが、できるようになってほしい業務に必要な知識を学んでもらった上で、できるようになってほしい業務を実際に経験してもらうことが王道です。

昨今は経理にしろ人事にしろ戦略人財の育成が必要だと言われていますが、戦略人財を育成したいのであれば、戦略的な業務に早いうちから関わらせることです。
基本的な知識もないのに戦略業務なんかできないでしょう、というご意見もご尤もなのですが、だから暫くはオペレーション業務をやりながら基本的な知識を身につけてもらおう、というのは避けたほうが良いと考えます。

先ほど申し上げた通り、先進的な企業であればあるほど、オペレーション業務から得られる知識は僅かです。基本的な知識を身につけて欲しいなら、その部署で必要とされる知識を明文化して体系的に教える必要があります。
戦略業務のお手伝いをしながら、体系的に学んだ基本的な知識が役に立つことを実感し、学習にも業務実施にもモチベーションを感じてもらえるのが理想です。

【図3】業務を行いながら使える知識を身につけていけるのが理想

基本的な知識を体系的に整理することも良い成長の場

話は変わりますが、当社がBPOサービスを提供する場合、基本的にはリモートでのサービス提供をお勧めしています。コストパフォーマンスの良い人材を安定的に供給するには、働く場所の制約はないほうが良いからです。
しかしながら一定程度、オンサイトで(お客様のオフィスにお伺いして)サービス提供して欲しいというお客様はいらっしゃいます。オンサイトが良い理由は色々あると思われますが、大きな理由のひとつに、リモートでの業務説明が難しいから、というのがあるようです。

一橋大学大学院の野中郁次郎教授らが示した組織的知識創造理論のプロセスモデルである「SECIモデル」によれば、暗黙知は、経験を共有することによって、暗黙知のまま他者に共有できるとされています。オンサイトが良い、隣にいて欲しい、と思われるのは恐らくこの、暗黙知を経験の共有によって伝えられるということを狙ったものでしょう。

ひとつ前の項で、必要とされる知識を明文化して体系的に教える必要があると述べましたが、体系的にまとまっていない場合にも同じように、体系的に教えることはできないが、わからない時は聞いてくれたら教えるよ、というスタンスになるかと思われます。
もし体系的にまとまっていないなら、体系的に整理すること自体が、当該部署の業務を学ぶ上で非常に良い経験となりますので、まずその整理を若手に実施してもらうのも良いと思われます。

整理の仕方がわからないなどの場合は、弊社でもコンサルタントによる文書化のご支援や、BPOを通じた業務の明文化のご支援も行っておりますので是非お問い合わせください。

【図4】SECIモデル

オペレーション業務は派遣よりBPOのほうが手離れが良い

余談となりますが、社員がやるまでもなく成長機会にもならないオペレーション業務は、それでも自動化されるまでは誰かが担当する必要があるので、派遣社員などを雇って担当させるか、外注化するかといった対応になるかと思われます。

近いうちに自動化できる目途がたっているなど一時期のものであれば派遣社員でも良いかと思いますが、暫くの間は自動化されずに実施し続ける可能性が高いのであれば、BPOに出してしまったほうが手離れは良いと考えられます。
期間が長くなれば担当者が何らかの事情で実施できなくなるリスクは付き物ですが、BPOの場合は、派遣社員とは異なり業務の実施責任がBPOベンダー側にありますので、担当者の事情に依らず会社として継続して業務を実施してもらうことができるからです。

戦略業務にシフトする際、オペレーション業務の面倒を見ながら余力で行うのは通常の場合うまくいきません。オペレーション業務をしっかり忘れていられることで、戦略業務に専念することができるようになり、戦略人財としての成長スピードも確実に上がると考えられます。

Horizon One(レイヤーズがベルシステム24ホールディングスと設立した間接業務BPOのジョイントベンチャー)でご支援しているある企業では、これまで決算が完全に終わってから実施していた管理会計分析を、決算中の仮集計段階で実施することが試みられるようになりました。さらには期中の進捗確認や着地予想に発展し、業績を計算する業務から、業績を作るために事業部門を動かす業務への発展を目指されています。

ここまでご精読いただきありがとうございました。

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この記事の執筆者

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