日本企業にイノベーションは無理?
~多様性のない会社に明日はない~
もう日本経済や日本企業はイノベーションを起こせず世界に取り残され消えていってしまうのでしょうか。
今回は、イノベーションを起こし続ける企業になるためのポイントをご紹介します。
平均賃金24位の衝撃
円安やエネルギー価格上昇などを背景に物価上昇が起こり、日本経済にも賃上げの動きがでてきております。しかし、日本の賃金の低さは現在でも地盤沈下を続けOECD加盟国中24位とイタリアにも抜かれる状況です。
【図1】平均賃金はOECDで24位
こうした状況を背景に「日本の長期的低迷は、人的資本をコストと見なし長期的に投資をしてこなかったためだ。その結果イノベーションを起こす力が衰えた。」とも指摘されています。
人材版伊藤レポート2.0(経済産業省2022年5月)でも「中長期的な企業価値向上のためには、非連続的なイノベーションを生み出すことが重要であり、その原動力となるのは、多様な個人の掛け合わせである」と謳われており、イノベーションと人的資本の重要性が指摘されています。
イノベーションとは何か
では、イノベーションとは何でしょうか。
シュンペーターが『経済発展の理論』でイノベーションを唱えてから100年以上経ち、今まさにイノベーションの時代を迎えています。
シュンペーターは、経済変動を企業家の起こす不断のイノベーションから説明し、この中で新結合が現れる、すなわち既存の知と知の新しい組み合わせで「新しい知」が生まれるとしています。
【図2】シュンペーターの新結合とは
また、イノベーションは新たな価値の創出であり、5つのタイプに分類しています。
① 新しい財貨の生産
② 新しい生産方法
③ 新しい市場の開拓
④ 新しい供給源の獲得
⑤ 新しい組織の実現
このようにイノベーションは、新たな価値を創出することです。その価値が大きければ大きいほど、革新的イノベーションと言われています。今日では全ての企業において、サステナブルな企業価値向上を果たすために、こうしたイノベーションが求められていると言えます。
知をどうやって結合するか
では、知をどうやって結合すればいいのでしょうか。
一橋大学大学院の野中郁次郎教授らは、組織的知識創造理論のプロセスモデルをSECIモデルとして提唱しています。SECIモデルでは、「暗黙知は他者に伝えようとすることで形式知化し、異なる知見を持った人間同士がお互いに関わり合うことで新しい知が暗黙知として生まれ、またそれを伝えようとすることで形式知化する・・・これを繰り返して知の創造が起こる」としています。
【図3】一橋大学大学院の野中郁次郎教授らが示したSECIモデル
また、野中郁次郎教授は、「SECIモデルは人格がそのままぶつかりあうことによる知の創造である、人間は暗黙知の方が豊かであり、それを取り込まない知識創造はあり得ない、人格がぶつかり合う暗黙知を含めた知のやり取りが不可欠である」と述べています。すなわち、全人格のぶつかり合う知的コンバットを通じ、共感が生まれ、暗黙知を獲得するのです。
【図4】人格のぶつかり合い「知のコンバット」
多様性が新しい知を生み出す
こうした新しい知を生み出すにはどのような組織が適しているのでしょうか。
マシュー・サイドは、「多様性の科学:画一的で凋落する組織、複数の視点で問題を解決する組織」の中で4つの集団を提示しています。
長方形は「問題空間」と呼ばれ、特定の問題解決やゴール達成に必要な洞察力、視点、経験、物事の考え方などがつまっています。丸は、その問題を取り組む人がカバーしている領域を示しています。
【図5】多様性の科学における4つの集団
賢い個人は、いくら頭がいい人でも1人では全てをカバーできないことを示しています。
「無知な集団」は、同じような考え方の集団で、1人1人は優秀でも集団としては画一的な集団です。集団はこのように本質的に同質化しやすい危険性があります(所謂「類は友を呼ぶ」傾向です)。
賢い集団は、問題空間を幅広くカバーし、異なる場所から意見や知恵が出せる、すなわち集合知(集団の知恵)を作れる集団です。これは、キース・ソーヤーの「グループ・ジーニアス:凡才の集団は孤高の天才に勝る」に近い考え方かもしれません。
多様性はあるが無知な集団は、問題領域の知識や経験がない人が多い集団です。
マシューは、問題が複雑になればなるほど、問題を解決する集合知を得るためには個人個人の知識だけでは足りず、個人個人の「違い」すなわち多様性が不可欠だと説きます。
2つの多様性
多様性には、「人口統計学的多様性:デモグラフィック・ダイバーシティDemographic Diversity」と「認知的多様性:コグニティブ・ダイバーシティCognitive Diversity」があります。
人口統計学的多様性は、年齢、性別、人種、国籍など人口統計学的な多様性です。認知的多様性は、ものの見方や考え方、経験、スキルなどの認知の多様性です。一般に人は認知バイアスを有しているため、そうした違いに無自覚であり、違う人と会って初めて違いを自覚することもあります。
【図6】人口統計学的多様性と認知的多様性
昨今ダイバーシティとの言葉を頻繁に目にしますが、その意味が女性比率や国籍といったような人口統計学的多様性に偏っている印象もあります。新しい知を生み出す多様性としては認知的多様性が重要です。前述の賢い集団のように認知的多様性がある場合、複雑な問題に対して異なる場所から意見や知恵が出せるからです。これは、野中郁次郎教授が「人間は暗黙知の方が豊かであり、それを取り込まない知識創造はあり得ない」と言ったことにも通じます。
ただし、認知的多様性がある集団が新しい知を生み出すためには、それぞれの知を理解するための時間や労力が掛かること(知的コンバット)には留意してください。
2つのイノベーション
イノベーションには、「漸進的イノベーション」と「融合のイノベーション」があります。
漸進的イノベーションは特定の方向に向かって一歩ずつ進んでいくタイプのイノベーションです。
融合のイノベーションはそれまで関連のなかった異分野のアイディアを融合するタイプのイノベーションです。そして融合のイノベーションはより多様性を必要とします。
現在デジタルイノベーションが急激に進展しています。デジタルテクノロジーの特徴は、スケーラビリティ(知の拡張性)、スピルオーバー(知の波及効果・模倣効果)、シナジー(知と知の組み合わせの相乗効果)とも言われています。つまり、デジタルイノベーションとは、デジタルテクノロジーの特徴によって加速された融合のイノベーションと言えます。
イノベーションを阻害するもの
マシュー・サイドは、多様性を阻害するものとして支配的リーダーによる集団への悪影響を指摘しています。多様性豊かなチーム(賢い集団)でも、支配的リーダーがいるとリーダーに合わせていくようになり(無知な集団)、新しいアイディアが出なくなるのです。すなわち、支配的リーダーがいる方が失敗する確率が高くなるのです。
【図7】支配的リーダーによる集団への悪影響
日本においてはどうでしょうか。日本人は「空気を読む」といった特徴が指摘されています。空気を読んで合わせていくという暗黙の支配的リーダー(同調圧力)を生み出し、自ら多様性を失ってイノベーションを阻害しているのかもしれません。
日本には「和をもって尊しとなす」という言葉がありますが、これは妥協せずに納得するまで話し合ってお互い協力・協調することです。決して同調圧力の意味ではなく、本来は「賢い集団」の心構えではないでしょうか。
以上のように今回はイノベーションを起こし続ける企業になるためのポイントをご紹介しました。詳細についてはお問い合わせください。是非皆様と一緒にイノベーションを起こし、日本企業のビジネス・トランスフォーメーションに貢献して行きたいと思っております。
(参考文献:マシュー・サイド著「多様性の科学:画一的で凋落する組織、複数の視点で問題を解決する組織」)
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この記事の執筆者
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青柳 智子経営管理事業部 兼 BPO事業部
バイスマネージングディレクター -
堀 優磨HR事業部
ディレクター -
武田 健太郎経営管理事業部
シニアコンサルタント
職種別ソリューション