ダイバーシティって結局なんのため?
~組織に必要な多様性とは~

ダイバーシティやダイバーシティインクルージョンという言葉が注目されてから久しく時が経ちます。しかし、多様性を得ることが最終目的になってしまい本来の目的を見失っている事例を数多く目にします。

そこで今回は、ダイバーシティが重視される背景、ダイバーシティ実現の本来の目的、ダイバーシティを実現する上での課題や重要となるポイントについてご説明いたします。

日本のダイバーシティの実態

2023年6月に新聞紙上で話題となった記事があります。世界経済フォーラム(WEF)が発表した『ジェンダーギャップ指数』です。日本は146か国中125位で、ギャップ指数は0.647という結果でした。昨年度は0.650で116位でしたので、ポイントも順位も下げてしまっているという実態です。日本は今まで女性活躍として各企業が取り組んできたにもかかわらず、残念な評価結果となりました。なお、順位は2006年の公表開始以来、最低の結果となってしまいました。健康や教育については上位に位置付けておりますが、労働参加率の男女比や、同一労働での賃金格差などあらゆる項目に課題があり、女性管理職比率の低さは、世界で下位に位置しております。

『ジェンダーギャップ指数』は、男性と女性を比較してどのくらい活躍させているかという数値です。では、女性の就業者数はどのくらい居るのでしょうか。厚生労働省の「令和4年版 労働経済の分析」では日本の就業者数の6700万人であり、そのうち女性の人数は3000万人と44%を占めます。就業者の女性、3000万人を男性と同じように活躍してもらうようにすれば、『1千万人の労働力〔=3000万人×(1-0.647)〕』が生まれることになります。
昔は「筋力」の仕事でしたのでどうしても男性が仕事!という形になっておりましたが、時代は変わりました。今は筋力ではなく「脳力」です。女性も男性と同じように活躍することができます。女性が活躍できる環境をしっかりと作っていくことが重要となります。

【図1】ジェンダーギャップ指数

ダイバーシティとは

そもそも「ダイバーシティ」とは、直訳すると「多様性」であり、様々な属性の人々が集まった状態を指します。ダイバーシティの目的はなんでしょうか。
経済産業省「人的資本経営の実現に向けた検討会報告書 ~人材版伊藤レポート2.0~」で、慶應義塾大学大学院岩本隆特任教授によれば、「中長期的な企業価値向上のためには、非連続的なイノベーションを生み出すことが重要であり、その原動力となるのは、多様な個人の掛け合わせである。このため専門性や経験、感性、価値観といった知と経験のダイバーシティを積極的に取り込むことが必要となる。」「このように、同質性の高いチームから多様なチームへと変わるに当たっては、社内外の協働の在り方を見直す必要がある。」「知と経験のダイバーシティ&インクルージョンは、多様な属性を持つ人材のみならず、社員全員に関わるテーマである。」と示されており、イノベーションを創出するためにダイバーシティの推進があることがわかります。

この「ダイバーシティ」は、大きく2種類に分けられます。
1つ目は、年齢・性別・国籍・人種といったデモグラフィックダイバーシティ(目に見える)です。
2つ目は、能力・価値観・コミュニケーションスキル・職歴といったコグニティブダイバーシティ(目に見えない)です。
日本企業におけるダイバーシティは、1つ目のデモグラフィックダイバーシティを重要視する傾向が強いと感じます。もちろんジェンダーギャップ指数の視点からもそれ自体は重要ですが、イノベーションの創出の観点からみた場合にはそれだけでは不十分であり、コグニティブダイバーシティがイノベーション創出の観点からは重要となります。

ダイバーシティの真の目的であるイノベーションの創出とは「新結合」、つまり異質なものを新しく組み合わせて、価値を創造することであり、達成するためには異なる知識・スキル・考え方・働き方といったコグニティブダイバーシティに富んだ個々人が衝突しあう環境 (創造的摩擦)が必要になります。内面的側面の強いコグニティブダイバーシティに焦点をあてることが日本企業に求められています。

【図2】目に見えるダイバーシティと目に見えないダイバーシティ

ダイバーシティが重視される背景

近年ダイバーシティが重視されるようになった理由は、主に「時代の変化」が挙げられます。

昔は正解があり、未来予測も容易で、やることが見えていました。組織運営としては、指示通りに動く人財を求め、人財のキーワードは専門性と協調性でした。先が見えていたため、中期経営計画を立ててPDCAを回していくような組織運営でした。トップが決めて、社員は必死に効率化を求めて推進していくことが求められ、ミスを徹底的に排除し、同じが価値で、違うが悪でした。問題領域が限定的であり、求められる人財領域も限定的であるため、専門家集団で対応できておりました。例えばエンジン自動車メーカーであれば、その道の専門家集団がいれば企業は成長拡大していきました。

しかし時代が変わり、正解がなく、未来予測が困難で、やることが次々に増殖していきます。組織運営としては、各現場で状況に応じて個人で意思決定して動いてくれる人財を求め、人財のキーワードは多様性と自発性となりました。先が見えないため、中期経営計画は作成した瞬間に陳腐化してしまいます。
こうした中では、OODA型で状況把握して各現場で意思決定し、腹を括ってやりきることが大事で、イノベーション創出のために多くの失敗も許容されるようになり、違うが価値で、同じが悪となっていきました。選択と集中では対応できず、今は布石をいかに打っておけるかが重要な経営のポイントとなっています。
問題領域が拡大し、単一の専門家集団では対応できないため、多才で多彩な人財が求められるようになりました。例えばエンジン自動車メーカーであったが、SDGs、ESGとして環境問題の視点から電気自動車が求められ、問題領域が拡大し、多様な人財、多才な人財が求められるようになりました。

【図3】問題領域と求められる人財能力領域

ダイバーシティが進まない理由

日本企業においてもダイバーシティへの取り組みは各企業がスタートして、色々な開示もされておりますが、上手く成果に結びつけられていないという企業も多いようです。それらの原因としては以下のようなものがあげられます。

■バイアス
人は無意識のうちに先入観を持っていることがあります。現状維持バイアスとして、変化を不快なものとして避け、本能的に抵抗してしまうこともあります。現状維持バイアスは実は時間が経過することで新しい価値観を受け入れることが多くありますから、粘り強く取り組むことも重要となります。

■日本の文化的・社会的背景
日本の社会は伝統的に「一体感」や「均一性」「統一性」を重視してきました。これは、組織文化や働き方にも影響を与えており、異なる価値観や背景を持つ人々の受け入れが難しくなってしまいます。

■経営戦略との関連性の欠如
ダイバーシティはあくまで手段であり、目的ではありません。海外展開やイノベーションなど、ダイバーシティの実現後に取り組みたい施策を検討せずに、バズワード対応としてダイバーシティを推進し、経営戦略との関連性が見いだせず失敗する例もあります。実は専門家集団のほうがパフォーマンスを出す部署で、多様性が必要のない部署にもかかわらず、ダイバーシティということで「異能」を入れることによって、意見が合意しづらくなり、スピードが低下し、ダイバーシティが邪魔になるケースも発生しているようです。【図4】参照

■ヒエラルキー組織
伝統的な日本の企業文化は、階層的であり、上下関係がはっきりしています。このような組織体制では、新しい考えや異なる価値観を導入しづらく、変化を受け入れることが困難になります。

他にも成功者の壁や意図しない妨害などもあります。お打ち合わせをさせていただく際に貴社の状況などをご確認させていただき議論させていただければと思います。

【図4】ダイバーシティが有効・無効なケース

ダイバーシティの取り組み事例

ダイバーシティの取り組み事例をあげようとすると範囲も広く取り組みも様々となりますので網羅的に挙げることは困難ですが、少しでもお役に立てればと各企業のダイバーシティの取り組み事例をご紹介いたします。少し古い事例となりますが参考になれば幸いです。

■若手の活用
GUCCIとPRADA、世界的に有名なこの2つのブランドは2014年には同じ売上を誇っていました。しかし、4年後の2018年にGUCCIが売上を2倍に伸ばしたのに対して、PRADAの業績は悪化してしまいました。結論から言うと、PRADAはリアル店舗にこだわり続けたのに対して、GUCCIはリアル店舗に加えてデジタル化への取組みを推進しました。これが勝敗を分けた理由とされています。
なぜ、このような意思決定を行うに至ったのでしょうか。PRADAは従来通りの経験豊富な役員が意思決定を行う方法を取り、若手の意見を取り込みませんでした。一方で、GUCCIは若手が参画したシャドーボードと呼ばれる影の取締役会を設置し、経験豊富な役員の議論や意思決定に対して若手が指摘・フィードバックを行いました。このように若手の考え・価値観を経営に取り込むことが業績の向上につながりました。若手の考えや価値観を取り込んでいくことで成果を出した事例となります。

■女子高生がCFO(Chief Future Officer)
2020年ですが、ミドリムシを使った健康食品の販売やバイオ燃料の開発を行うユーグレナ社が、最高未来責任者(Chief Future Officer)という同社独自の役職を新設し、18歳以下で公募し、18歳の現役女子高生が選ばれました。CFOと同時に公募で選ばれたのが、18歳以下のメンバー8人で構成される「フューチャーサミット」のメンバーであり、新たな商品開発などに18歳以下の意見を取り入れることを実施しました。

他にも様々な事例がありますのでお打ち合わせをさせていただく際にご紹介させていただければと思います。

この記事に興味をもったらメールで送信して共有! ×