ポスト2027年の基幹システム

システム開発で見落とされがちな成功への第一歩
~最適な開発アプローチの選択・実践~

2027年問題、デジタルテクノロジーのイノベーション、消費者行動の変化など、システム開発や更改ニーズは年々高まっています。情報システム部門は、それらに対して限られた予算やリソースで、尚且つ、定められた納期で実現が求められます。システム開発の成功要因は、様々な視点から様々な要因があげられると思いますが、意外と開発アプローチをあげられる方は少ないのではないでしょうか。従来のウォーターフォールに加え、アジャイルやプロトタイプといった開発アプローチが世に出て久しいですが、その長短を踏まえた最適なアプローチの選択・実践が、実は、システム開発の成功に向けた第一歩と考えます。

日本企業の開発アプローチ選択の現状

繰り返しになりますが、各々の開発アプローチには長短があります(図1参照)。その中で、日本企業ではどのような開発アプローチを採用しているのでしょうか。
IPAの『ソフトウェア開発データ白書2018-2019』によると、実に97.4%の開発プロジェクトがウォーターフォール型のアプローチを採用しています。ウォーターフォール型への依存度が極端に高く、とても開発アプローチを取捨選択した結果とは思えません。蛇足ですが、ほぼ同時期に実施された一部の米国の調査結果では、アジャイル型がウォーターフォール型を上回っているものもあるほど、日米で違いがあります。都市伝説的に「日本のプロジェクト成功率は30%」と言われていますが(『企業IT動向調査報告書2021』を見る限り実態に近い数値にも思えますが)、誤った開発アプローチの採用により、出だしでつまずいてしまった開発プロジェクトは少なくないのではないでしょうか。
そのような状況を鑑みてか、日本企業の脱ウォーターフォール型依存の思考は強くなってきています。2023年度のIPA調査結果をもとに試算すると、17%の企業がアジャイル開発を導入済み、11%の企業が試験導入中または導入準備中、22%の企業が検討中となっています。大半の企業がアジャイル開発を意識し始めているように、システム開発の計画時には採用すべき開発アプローチも真剣に検討されるべきです。

【図1】開発アプローチ比較

開発アプローチの実践①~アジャイル開発における勘違い~

前述の通り、多くの日本企業が新しい開発アプローチを実践し始めています。しかし、その全てが成功しているわけではありません。例えば、PMI日本支部アジャイル研究会の『2022年度「アジャイルプロジェクトの実態」に関するアンケート』によると、アジャイル経験者の45%がアジャイルを親しい他者に勧めない、つまり批判的に捉えています。これまでに経験のない開発アプローチを成功に導くには、そのコンセプトを十分に理解し、実践していくための要所を適切に抑える必要があります。
ここからはアジャイル開発を例にみていきます。このような言葉を耳にしたことはないでしょうか。

  • アジャイル開発はそのプロセスを通じて要求仕様を作り上げていく。
  • アジャイル開発はドキュメントを作成しない。

これらは部分的には間違いではありません。しかし、拡大解釈されると致命的な勘違いとなり、アジャイル開発の実践を妨げる失敗要因となってしまいます。それぞれ、具体的にみていきましょう。

開発アプローチの実践②~初期構想(仮説)の重要性~

そもそもアジャイル開発とは何か。ウォーターフォール型開発との比較で考えていきましょう。まず、ウォーターフォール型開発では初期工程でゴールを明確に定め、その達成に向けて設計、開発、テストと直線的に進めていきます。一方、アジャイル開発では、試行錯誤を繰り返し、時にはゴールそのものを調整しながら進めていくアプローチになります。

  • アジャイル開発はそのプロセスを通じて要求仕様を作り上げていく。

アジャイル開発は、ゴール、つまりは要求仕様を試行錯誤の反復で肉付けやカスタマイズを行って最終的な“正解”に近づけていくアプローチであることから、「アジャイル開発はそのプロセスを通じて要求仕様を作り上げていく。」という言葉は間違いではありません。但し、試行錯誤を繰り返すといった仮説検証型のアプローチでは、当然ながら適切な検証を行い得るだけのしっかりした“仮説”の存在が前提となります。前述の言葉を拡大解釈し、“仮説”がない中、もしくは未熟な中でアジャイル開発をスタートしては成功からほど遠くなります。むしろ、成功しているアジャイル開発ほど、精度の高い“仮説”をもって挑んでいるのではないでしょうか。現に、筆者が成功したと考えるアジャイル開発案件の一つに介護施設向けの遠隔監視システムがありますが、その仮説は実際の介護現場で半年間培った実経験をもとにして立案されていました。

【図2】アジャイル開発イメージ(Scrum)

開発アプローチの実践③~強力なプロジェクト管理~

2001年に発表された有名な『アジャイルソフトウェア開発宣言』には、「プロセスやツールよりも個人と対話を、包括的なドキュメントよりも動くソフトウェアを、契約交渉よりも顧客との協調を、計画に従うことよりも変化への対応を、価値とする。」とあります。

  • アジャイル開発はドキュメントを作成しない。

これは、前述の宣言が拡大解釈された結果ではないでしょうか。同宣言は、ドキュメントよりも価値あるソフトウェア創出が重要視されているだけであり、また、そのために対話、協調、変化への対応といったPMO機能の重要性がこれまで以上に高まっていることを指していると思料します。現に、アジャイル開発では短期間で試行錯誤(計画→開発→テスト→評価のプロセス)を繰り返し行います。その中で、取り入れるべき変化点を整理し、意思決定を行い、それらを即座に実行していかなければなりません。コミュニケーション、品質、スケジュール等のプロジェクト管理が従来のウォーターフォール型以上に重要であり、且つ、難易度が高いことは想像に難しくありません。特に、コミュニケーションにいたっては、日本特有の“察して文化”や“部門間の壁”が未だに障害となっているケースも多々見られます。アジャイル開発の実践では、プロジェクト管理、つまりはPMO機能の強化を確実に図っていかなければならないのではないでしょうか。

【図3】アジャイル開発におけるプロジェクト管理

最後に

駆け足になりましたが、これまでシステム開発を成功に導く第一歩として開発アプローチの選択と実践の重要性について述べました。この記事をお読みいただいた方の中には、開発アプローチの選択や実践で不安を抱えている方もいらっしゃるのではないでしょうか。特に、新しい開発アプローチの採用にあたって人材面での懸念をよく耳にします。しかし、新しい開発アプローチの実践にあたって、全ての人材が経験者や知識人である必要はなく、要所要所で強力な人材を配置して他を育成していく考えもあります。
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