バルクでヒトを視る経営の終焉

高度経済成長期であれば、人財を「バルク(まとまり)」で視る人事が機能していましたが、今のように変化の大きい時代ではバルクでヒトを視る経営は終焉を迎えております。VUCAにおいては従業員一人ひとりが「潜在力」を活かすような仕組みが必要となり、「タレントマネジメント」がその役割を担います。

今回は経営戦略と人財戦略が一体化されていく中で、戦略とタレントマネジメントをどのように結び付けていくのかについて解説していきます。

バルクでヒトを視る経営の終焉

主に日本における経営環境の歴史的な変遷を踏まえて、今の人事はどうあるべきなのかを考えていきたいと思います。過去に遡りますと、高度経済成長期を支えるための運営が現在の人事の起点になっていました。そのような中では、日本全体が成長することを前提として、どのように「強力に成長するべきか」というのが観点でした。そのため、人財は一方向に力を発揮することが求められ、この中で「バルク」、つまり「まとまり」で視る人事と言うのが非常に機能していました。ゆっくりとした昇進、ジェネラリストを育成する傾向、非明示的な評価、稟議による重要な意思決定、個人責任ではない集団的責任、といったものが、企業成長を支える基盤となっていたのです。

一方、VUCAと呼ばれるような目まぐるしく変化する今の世の中では、適応能力が無いと、競争を勝ち抜いていくばかりか、生き抜いていくことすら困難になってしまいます。そのような中では、人財一人ひとりが重要な資本であり、差別化の源泉ともなるため、個の『潜在力』を活かすような人事が非常に重要だと考えています。成果に応じた昇進、個の志向に基づくキャリア開発、成果に基づいた評価、任せる経営、一人ひとりが活躍する場の提供こそが、今、企業人事にて実践されるべきものなのです。

そのように考えると、従業員一人ひとりが潜在力を活かすような仕組みが必要となり、「タレントマネジメント」がその役割を担います。そして、システムもこのようなタレントマネジメントを後押しするような形で構築されるべきだと考えています。

【図1】経営環境変化と人事のあるべき姿

タレントマネジメントの目的

タレントマネジメントと聞くと、どうしてもシステムのことを考えがちではあるのですが、本来は、どのように企業・事業価値を向上し、そのために必要な業務・システムは何かというように考えなければいけません。【図2】の左側は、タレントマネジメントの価値体系を模式的に表したものですが、下段からシステムにて吸い上げた情報を基にしてタレントマネジメントを実行し、それにより、組織や人材が変革・変化を起こしていきます。

一部はシステムにFeedback的にデータとしてのこりつつ、最終的な企業・事業価値の向上につながっていきます。つまり、タレントマネジメントでは、組織・人財を変革・変化させるための施策事項やルール作りが重要となりますし、システムは、人や仕事を可視化するというのが狙いになると考えています。

これを実践するためには、まず、企業・事業戦略と一体となりながら組織・人財戦略が構築され、それと連動するような形で、タレントマネジメントをどのように推し進めるべきかを考えられなければいけません。そして、このタレントマネジメントを実践するための仕組みとして、システムの在り方を検討すべきと考えています。

このように考えると、まず、戦略とタレントマネジメントをどのように紐づけていくのか、実際にシステムとしては何を、どのように構築していくべきか、が論点になります。
以下では、「戦略とタレントマネジメントをどのように紐づけていくのか」について説明していきます。

【図2】タレントマネジメントの目的

勝つ人事の実践に向けた変革方向性

タレントマネジメントをどう戦略と紐づけていくのか。経営戦略と人財戦略の一体化が重要となり、人材戦略として「人で勝つ組織」が求められます。「人で勝つ組織」を創るためには、従業員一人ひとりが持つ才能や能力をいかに発揮できるのか、が重要だと考えています。【図3】にある人財マネジメントサイクル=採用、育成、配置、評価、報酬、代謝における「タレントマネジメント」の在り方を考える際は、人財マネジメントサイクルの一つひとつの項目に対してどのような価値を提供できるか十分検討されなければいけません。「人財情報」や「職務情報」を基盤として検討される、様々な施策が経営や実務に与える影響を十分に考慮すべきです。

このような、タレントマネジメント施策と各業務の連動は、当然各社の状況によって変わってくるため、パッケージ的に世間でのありもののタレントマネジメントシステムを導入するのではなく、自社にとって本当に必要なタレントマネジメントとは何かを検討し、それに必要なシステムを導入しなければなりません。

【図3】人財マネジメントサイクルとタレントマネジメント

タレントマネジメントの価値体系においては、経営・現場・個々の従業員が一気通貫で連動することが必要です。そのため、タレントマネジメントの在り方を検討する際は、①経営・事業戦略と、②人財の2つを起点として検討することが重要です。経営・事業戦略起点で言えば、戦略と一体となって、人事・人財の最適化が求められますし、人財起点で言えば、個々を活かすことで、戦略の実行可能性、つまり戦略のリアリティを高める必要があります。このような両視点を結び付け、推進する仕組みとして、タレントマネジメントを機能させていくことが、経営から人財までをつなぎ合わせる方法となります。

【図4】タレントマネジメント導入の2つの起点

経営に貢献するタレントマネジメントと個がイキイキするタレントマネジメントをあわせて、我々は「両利きのタレントマネジメント」と言っております。

「経営・事業戦略 起点」でのタレントマネジメント

経営に貢献するタレントマネジメント、個がイキイキするタレントマネジメント、つまり「両利きのタレントマネジメント」について、それぞれの起点の進め方、フレームワークをご紹介します。

まずは、経営に貢献するタレントマネジメント、つまり経営・事業戦略 起点でのタレントマネジメントについてフレームワークをご紹介します。

はじめに、①でしっかりとした『基本的な考え方を定める』必要が有ります。人財一人ひとりをどう視るべきであり、どのような成長を期待し、どのように会社としてバックアップしていくのかといった足並みを揃え、「タレントマネジメント憲章」という形で取り纏めることで実際にやるときの指針になります。このタレントマネジメント憲章に基づいた上で、基盤となるようなタレントマネジメントシステムを構築していきます。

②において、自社の仕事の要件を可視化すると同時に、③人財を様々な軸で可視化していくことになります。また、最終的には仕事と人財とのマッチングを見据えるのであれば、仕事DB、人財DBの構築をバラバラに考えるのではなく、相互の連携をとりながら推し進める必要が有ります。

④は、推進することにつきますが、多くの人事の方とお話ししていて、まだまだ日本では、タレントマネジメント=人事のもの、という考え方があるため、経営者や事業部長クラスの方による積極的な活用ができていないように思われます。しかし、本来のタレントマネジメントシステムの目的からすれば、経営層や事業責任者クラスが主体的に活用することで、企業や事業をけん引できるようにしていくことが望ましいと思います。

【図5】「経営・事業戦略 起点」でのタレントマネジメントのフレームワーク

「人財 起点」でのタレントマネジメントの重要視点

次に、人財起点のタレントマネジメントについて説明します。

最終的には、個がイキイキと働けるような職場づくりを行うことで、エンゲージメントを高め仕事に精を出していただくことが事業価値の向上に繋がります。一方で、現場ではヒトに関する様々な課題が出てきます。仕事が合わない、キャリアの不安、または育児・介護などの家庭環境もそうです。これらの課題に対処し、一人ひとりにイキイキと働いてもらうには、現場に密着した人事が必要となります。そのためには、人事はもっと現場に行き、個の活力を高めるような振る舞いが必要になってくるのではないでしょうか。個人の内面の表出を手助けし、個々の内面と会社・仕事を結び付けるようなPeople managementを行っていくことが求められます。

このような課題は、個々でのコミュニケーションで解決できてしまうものがある一方で、組織として対処するためには、このような現場の『生の声』というのを集めながら、解析し、施策を検討する必要があります。そのために個の内面を可視化するタレントマネジメントシステムが必要となります。

【図6】「人財 起点」でのタレントマネジメントの重要視点

今回は『戦略とタレントマネジメントをどのように紐づけていくのか』を中心に少し抽象的なお話をさせていただきました。本来はこの次に、実際にシステムとしては何を、どのように構築していくべきか、が具体的な話であり、重要な論点になります。
是非とも具体的な進め方等については、お打ち合わせをさせていただきディスカッションさせていただければと思います。

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