サステナビリティ推進室の未来
~真のサステナビリティは“持続しない”こと~

有価証券報告書へのサステナビリティ情報の記載義務化、ISSBによるサステナビリティ開示基準の公表など、開示を中心に益々取り組みが求められるサステナビリティ対応。一方、米国ではESG反対派の声が大きくなりつつあり、ブラックロックのESGに関する株主提案の支持が7%にまで落ち込むなど、「今後もこの潮流は続くのか?」といった懸念も含め、混迷を極めています。
 
今回は、混迷極めるサステナビリティ対応をドライブするべき関連部署(ここではサステナ推進室とします)のあるべき姿、今後の姿についてお話します。

サステナビリティ情報は散在している

サステナビリティが声高に叫ばれ始めて久しいですが、サステナビリティ情報(非財務情報、未財務情報など様々な言い方があります)については、実際のところその定義がいまだ明確ではありません。定義が明確でない理由としては、サステナビリティ情報の範囲が非常に広いということが挙げられます。

下記では、IIRCのフレームワークで提唱される資本のうち、非財務資本といえるものをサステナビリティ情報と捉え、その管理・マネジメント、情報を持つ部署を整理したものです。ご覧の通り、情報源は複数の部署にまたがることが分かります。

【図1】サステナビリティ情報は散在

また、人的資本のように「部署」に情報が集約されているといえるものもあれば、社会関係資本については、「支店」や「支社」、場合によっては「個人」に情報が眠っているなど、情報源の粒度までが様々存在すると考えられます。
日本では、サステナビリティという言葉は知っていてもそれが何なのか知らない方も多く、実は自分がサステナビリティに寄与する情報を持っていても、気づいていない場合があります。そのため、サステナビリティ情報をマネジメントするには、散在する情報を取り扱う専門部署(本稿では「サステナ推進室」と呼びます)が、必要不可欠な状況となっています。

※IIRCは2022年にIFRSに統合

サステナ推進室は「とりまとめ屋」ではない

サステナ推進室は、サステナビリティ対応の必要性が浸透するにつれ、大手企業を中心に設置が進んでいます。一方で、時流に乗って設置したものの、そのミッション、ビジョンが明確ではなく、「サステナビリティを推進しろといわれるが、何から手を付けていいのか…」と苦慮されている担当者様のお話も多く伺います。
サステナ推進室で行われる業務でよくお聞きするのが、「当面求められる開示対応に向けた情報の取りまとめを実施する」ということです。もちろん、その業務は必要なことであり、サステナ推進室の業務の一つと考えます。ただ、本来サステナ推進室が行うべきはサステナビリティの社内浸透、ひいては経営への統合であり、単なる情報のハブに留まらず、企業の変革のための活動が求められます。

【図2】サステナ推進室の管理体制

サステナビリティ情報は、収集・開示のためではなく、本来は経営の意思決定に活かすべきものであり、財務情報と同じように、マネジメントが求められます。そのためには、サステナ推進室は、情報の取りまとめだけではなく、経営企画的な機能を持ち、各部署、工場などにサステナ担当者を配置するなどの組織設計や、サステナビリティ情報管理のためのDX推進、KPIとしてのサステナビリティ情報を検討するなど、率先して実施すべき内容が多くあります。

サステナ推進室が持つべき7つの機能

では、理想のサステナ推進室の役割とはなんなのでしょうか。“7 roles to create sustainable success: A Practical Guide for Sustainability and CSR Professionals”(Carola Wijdoogen,2020)では、サステナ推進室の役割は、7つあるとされています。それらをご紹介させていただきます。

【図3】サステナ推進室に求められる7つの役割

①The Networker

サステナビリティに関する情報、ステークホルダーの要請を継続的に収集し、社内に周知・浸透させる。(社内外のネットワークを構築する)

②The Strategist

自社にとってのサステナビリティの意味(利益創出、リスク回避、レピュテーションなど)に対しての解を持ち、ビジョンやパーパス、戦略策定に寄与する。

③The Coordinator & Initiator

ビジョン、パーパス、戦略などを実務(達成すべき目標、KPIなど)に落とし込み、活動をドライブする。

④The Stimulator & Connector

組織やプロセスを構築したのちに、社内の人材を巻き込み、サステナビリティの旗振り役として社員の行動変革を引き起こす。

⑤The Mentor

サステナビリティ人材としての成長を促すため、個人のキャリアや役割にサステナビリティがどう活きるかを理解さえ、行動させる。

⑥The Innovator

サステナビリティ観点を盛り込んだ新商品、新サービス、新ビジネスを生み出す。

⑦The Monitor

活動の結果を客観的に測定、分析、報告し、評価や改善、開示につなげる。

 

あくまで一例ですが、様々なサステナ推進室の方のお話を伺うと、①⑦などは業務として行われているケースはよくありますが、それ以外は難易度も高く、一部のサステナビリティ先進企業内にしかいない役割と感じています。サステナ推進室としてワンランク上の活動をするためには、上記の役割を持っているか?を意識することが良いかもしれません。

サステナ推進室は“持続しなくなる”

少々インパクトのある見出しかと思いますが、“サステナビリティ”の部署でありながら、“持続しなくなる”とは、どういうことでしょうか。

これまで、サステナビリティ対応を求められる潮流の中で、サステナ推進室の在り方についてお話してきました。
ただ、ここで原点に立ち返ると、サステナ推進室は、サステナビリティを社内で推進し、浸透させる立場であり、その目的は、サステナビリティを社内、ひいては経営に統合していくこと(あるいは、それを推進すること)です。
従って、サステナ経営の理想形は、サステナ推進室が旗振り役としての役目を終えること、とも言えます。
ある大手グローバルメーカーで、サステナビリティ推進のリーダーともいえるCEOが「個人的にはサステナ推進室のような部署があることに違和感を覚える。サステナビリティが真に浸透していれば、そのような組織は存在しない。部署を作ることで、むしろ経営の本丸と切り離して考えているように見えてしまう」と話をされていました。

昨今では、「サステナビリティ活動は企業価値創造に寄与するもの」という考え方が浸透してきており、財務・非財務をシームレスに管理するためサステナビリティ部署がCFO組織の傘下に置かれるケースも増えてきています。

もちろん、サステナビリティ推進そのものに終わりはありません。サステナ推進室が進めてきた取り組みは、CFOやサステナビリティ組織にとどまらず、いずれは各組織(部署、工場、支店)や個人のものとして、当たり前に取り組まれていくのです。それこそが、サステナ推進室のミッションであり、サステナ推進室の役目を終える事が、ビジョンといえるのではないでしょうか。

サステナビリティを経営に統合するには

「サステナビリティを経営に統合する」とは、いったいどういうことでしょうか。
これまでのお話の中で、サステナ推進室が取り組むべき課題(組織設計、DX、KPI設定)を例示させていただきましたが、体系的に整理すると下記のようなイメージになります。

【図4】サステナビリティ経営のガバナンス体系

企業のガバナンス体系は、ミッション、パーパスからITにいたるまでのプロセスにおいて、各レイヤーでサステナビリティを取り込んだマネジメントを行うことが必要です。
上段にあるパーパスの設定やマテリアリティの特定など、すでに取り組まれている企業は増えてきていますが、組織設計や推進体制、KPI、サステナビリティに関するシステム構築までできている企業は多くないのではないでしょうか。サステナビリティの経営統合には、大きな目標を声高に叫ぶだけではなく、それを達成するための体制、方法論を確立していく必要があります。そこまでできてこそ、サステナビリティが経営に統合された、といえるのではないでしょうか。

今回は、「サステナビリティ推進室の未来」と題し、サステナビリティ推進室の求められる姿、理想の姿についてご紹介いたしました。サステナビリティ推進について、弊社にも専門チームがございますので、詳細については、是非お問い合わせください。

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この記事の執筆者

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