ユーザー主導のERP導入

【第6回】業務要件定義フェーズの秘訣は何か(前編)

◆この記事の要約

基幹システム刷新の業務要件定義フェーズでは、全体構想で描いた目指す姿を新しい業務プロセスへ落とし込み、ERPと導入ベンダー選定までつなげます。そこで本記事では、As-Isを網羅的に棚卸しして全体最適の課題整理を行い、Excel作業に忙殺される失敗を防ぐ秘訣を解説します。

  • 業務要件定義フェーズの位置付け:新しい業務の具体化、システム化方針策定、製品・ベンダー選定(ERP)を決める重要フェーズ。
  • 現状詳細分析(業務とシステム):①現状業務詳細分析、②現状システム詳細分析、③業務の体系化で、課題・要望とステークホルダーの認識共有を徹底。
  • 現状業務詳細分析のポイント:業務機能一覧→業務フロー→業務詳細→業務量・頻度→課題・要望を整理し、基幹システム周辺だけでなく業務全体像を把握。
  • 業務の体系化という独自視点:成果物を日常的に使用するドキュメントとして整理し、プロジェクト外でも活用・更新して業務改革の定着につなげる。
基幹システム刷新における業務要件定義フェーズでは、全体構想策定フェーズで検討した目指す姿を具体的な業務プロセスに落とし込んでいきます。この時に重要なことは、現状業務(As-Is)を網羅的に押さえることです。全体を押さえずに、現在の基幹システムで実施している業務と課題だけを洗い出し、それが実現できるERPを選定しているケースもよく見受けられます。

このような場合、せっかく基幹システムを刷新したのにもかかわらず、Excel作業に忙殺され続け、ユーザーにとって何もメリットがなく、結果として導入ベンダーを儲けさせただけといった笑えない話もあります。業務要件定義では、業務全体を棚卸し、全体観の中でどこを変革すればいいのか、その変革のために基幹システムにはどのような要件が備わっているべきかを考える必要があります。

そこで今回は、「クラウド時代!ユーザー主導のERP導入とは」として、基幹システム刷新における業務要件定義フェーズの秘訣(前編)をご紹介します。

業務要件定義フェーズとは

業務要件定義フェーズの位置付け
業務要件定義フェーズは、今後目指す新しい業務を具体化し、それを実現するためのシステム化方針を明確化するとともに、導入対象となるERPと導入ベンダーを選定する重要なフェーズです。

【図1】業務要件定義フェーズの位置付け

この業務要件定義で、主管部門であるユーザー部門(販売部門、生産部門、調達部門、経理財務部門など)の目指す姿やプロセスが具体化されます。また、今後導入されるERPも決定されます。
したがって、業務要件定義が曖昧だと、次のシステム要件定義で手戻りや開発費用の増大などを招くため、しっかりとしたプロジェクト体制で取り組むことが重要です。

業務要件定義フェーズの進め方
業務要件定義フェーズとしては、現状の業務とシステムを詳細に分析し、課題を整理する現状詳細分析(業務とシステム)、今後の目指す業務を具体化する新業務定義(業務改革施策の具体化)、それを実現する業務要件・システム要件を明確化するシステム化方針策定、導入対象となるERPと導入ベンダーを選定する製品・ベンダー選定があります。

【図2】業務要件定義フェーズの内容

その中で今回は、業務要件定義フェーズの前編として、現状詳細分析を中心にご説明します。

※上記の進め方は、業務要件定義の後半でERPを選定していますが、昨今では業務要件定義フェーズの前半で候補のERPをいくつか選び、新業務要件の検討と並行して、それらでのFit to Standardの実現性を検証するケースが増えています。こうした並行検証の進め方は別途ご説明します。

現状詳細分析とは

現状詳細分析では、現状の業務とシステムを詳細に分析し、課題を整理します。
「To-Be業務を描くのだから、As-Isを押さえるのは無駄だ。To-Be業務をまず描け!」といったトップダウン型のアプローチもよく目にしますが、「想定していない業務や埋もれていた業務などがたくさん出てきて、結果としてプロジェクトが頓挫している」や、「システム導入は終わったが結果として今以上に工数がかかる」といった失敗例も少なくありません。こうした失敗を避けるためにも、ことわざどおり「急がば回れ」で、As-Isをしっかり押さえることが重要です。

現状詳細分析には、

  • 現状の基幹システムに関連するユーザー部門の業務プロセスや関連業務の実態を詳細に把握し、業務課題を抽出する①現状業務詳細分析
  • 現行の基幹システムや関連システムの実態を詳細に把握し、システムの課題を抽出する②現状システム詳細分析
  • ①と②の結果を日常的に使用するドキュメントとして体系化する③業務の体系化

があります。

【図3】現状詳細分析とは

現状詳細分析 ① 現状業務詳細分析

業務要件定義フェーズにおける現状業務詳細分析では、全体構想策定フェーズの業務概要分析や取り組みテーマ検討を踏まえて、ユーザー部門業務のより詳細な全体像を明らかにするために、現状の業務プロセスや関連業務の実態を詳細に把握し、業務課題を抽出します。

ここで重要なのは、現状業務(As-Is)を網羅的に押さえ全体像を把握することです。現行の基幹システムの周辺業務だけ分析しただけでは、業務の全体像はつかめません。
例えば、下記の図のように既存の基幹システムが、全ての業務をシステム化している訳ではありません。

【図4】販売管理業務の業務鳥瞰図の例

ユーザー部門の今後の目指す姿を実現するためには、業務全体像をしっかり把握したうえで、全体最適の観点から、課題整理や改革施策検討を行っていくことが重要です。また、グループ会社もプロジェクトの対象である場合は、グループ会社についても現状業務詳細分析を行います。

現状業務詳細分析の内容

ユーザー部門業務の業務機能一覧の作成
ユーザー部門業務について、現状の業務(販売領域なら、商品仕入、商品販売、物流、営業、販売促進、顧客管理など)を業務機能一覧として整理します。
業務機能一覧は、業務を体系化・階層化したものです。

【図5】業務機能一覧の例

現状の職務分掌や役割分担表等があまり体系化されていない場合は、レイヤーズ・コンサルティングの標準業務機能一覧を元に整理します。

業務フローの作成
業務機能一覧に基づき、個々の業務のプロセスを洗い出し、業務フローを作成します。

【図6】業務フローの例

業務詳細の作成
業務フローに基づき、個々のプロセスにおける業務の詳細や担当者・役割などを洗い出します。

業務量・頻度の把握
各業務の実施頻度や処理量を確認し、負荷やボトルネックを特定します。全体構想策定フェーズの業務概要分析で工数の大きな業務を中心に分析を行うと効率的な分析ができます。

課題・要望の抽出
業務の非効率や重複、手作業の多さなど、改善すべき課題・要望を洗い出します。ここでは、現場の困りごとだけではなく、全体構想フェーズの目指す業務の姿を実現するために、何が課題になるかに重点をおいて洗い出します。

ステーホルダーの認識共有
現状業務の実態や課題について、ステークホルダー(経営層、関係部門等)と共通認識を図っていきます。共通認識をもつことによって、業務改革における認識の齟齬を防ぎます。

現状業務詳細分析の具体的な手順

現状業務詳細分析は、下記の手順で実施します。

【図7】現状業務詳細分析における主な手順

現状詳細分析 ② 現状システム詳細分析

業務要件定義フェーズにおける現状システム詳細分析では、全体構想策定フェーズの現状システム概要分析や取り組みテーマ検討を踏まえて、現行の基幹システムや関連システムの実態を詳細に把握し、システムの課題を抽出します。また、グループ会社もプロジェクトの対象である場合は、グループ会社についても現状システム詳細分析を行います。

現状システム詳細分析の内容

既存システムの全体像の整理
現行で稼働している基幹システムや関連システムの洗い出し、現行システムの構成、機能範囲、利用範囲、連携状況などを整理します。また、システム構成・アーキテクチャー(ハードウェア、ソフトウェア、ネットワーク構成、データベース構造など)も整理します。基幹システムのサブシステムとして、それぞれ独立した製品・サービスを選んでいる場合は、それらの提供ベンダーやライセンス等の契約状況も整理します。

システム連携の整理
基幹システム内のシステム間連携や、基幹システムと関連システムとの連携状況を整理します。
また、システム間のデータ連携方法(バッチ連携、リアルタイム連携など)や、インターフェース仕様なども合わせて整理します。

運用状況・保守体制の整理
基幹システムと関連システムの稼働状況、障害履歴、保守・運用体制、保守期限などを整理します。

課題・要望の抽出
システムの性能問題、拡張性の限界、ユーザビリティのなどの課題・要望を洗い出します。
業務機能面での課題は、現状業務詳細分析で整理します。

ステーホルダーの認識共有
現状システムの実態や課題について、ステークホルダー(経営層、関係部門等)と共通認識を図っていきます。共通認識をもつことによって、システム化における認識の齟齬を防ぎます。

現状システム詳細分析の具体的な手順

現状システム詳細分析は、下記の手順で実施します。

【図8】現状システム詳細分析における主な手順

現状詳細分析 ③ 業務の体系化

一般的に、プロジェクトの成果物は、基幹システム導入にかかわるプロジェクトメンバーだけが利用することも少なくありません。しかし、基幹システム導入だけを目的として、膨大な工数をかけたアウトプットをほかで活用しないのは、勿体無いのではないでしょうか。また、基幹システム導入の範囲だけに限定して成果物をつくるだけでは、業務の全体像把握には不十分です。

レイヤーズでは、現状詳細分析の成果物を下記の体系でまとめていき、基幹システム刷新プロジェクトとしてだけではなく、日常的に使用するドキュメントとして整理し、常にユーザー部門がそれに準拠して業務が行えるようになることを推奨しています。

【図9】現状詳細分析に基づく業務の体系化

また、これらドキュメントは、システム導入に並行して常に活用・更新していき、さらに業務運用整備フェーズにおいては新システムを前提とした業務として整理していきます。

まとめ

今回は、「クラウド時代!ユーザー主導のERP導入とは」として、基幹システム刷新における業務要件定義フェーズの秘訣(前編)をご紹介しました。次回は、業務要件定義フェーズの秘訣(中編)として、新業務定義をご紹介します。今後の基幹システム刷新は、情報システム部門やベンダーへ丸投げはできません。ユーザー部門が主導して、ERPを Fit to Standardで導入していくことが成功の秘訣といえます。詳細な Fit to Standard でのERP導入のポイントについては、是非レイヤーズ・コンサルティングにお問い合わせください。

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