『両利きの経営』 知の探索と深化とは!
~今さら聞けないキホンのキ~

今日の世界は、VUCAと呼ばれる不確実な時代です。
こうした世界で企業は変化し続けなければ生き残れません。変化し続けるということは、目まぐるしく変化する環境の中で、常にイノベーションを生み出して変化を乗り切るということです。
こうしたイノベーションを起こすためには、「知の探索」と「知の深化」をバランスよく行う『両利きの経営』が求められています。
 
今回は、VUCA時代においてイノベーションを生み出し変化し続ける『両利きの経営』を実現するポイントをご紹介します。

イノベーションとは何か

イノベーションを初めて打ち出したのは、経済学者シュンペーターの『経済発展の理論』でした。シュンペーターがイノベーションを唱えてから100年以上経ち、今まさにイノベーションの時代を迎えていると言えます。
シュンペーターは、経済変動を企業家の起こす不断のイノベーションから説明し、この中で『新結合』が現れる、即ち既存の知と知の新しい組み合わせで「新しい知」が生まれるとしています。

【図1】新結合とは

シュンペーターは、イノベーションは新たな価値の創出であるとし、イノベーションを5つのタイプに分類しています。

 ①新しい財貨の生産
 ②新しい生産方法
 ③新しい市場の開拓
 ④新しい供給源の獲得
 ⑤新しい組織の実現

このようにイノベーションは、新たな価値を創出することあり、その価値が大きければ大きいほど革新的イノベーションと言われています。
今日では全ての企業において、サステナブルな企業価値向上を果たすためにイノベーションが求められています。

両利きの経営とは何か

イノベーションを起こすためには、「知の探索(Exploration)」「知の深化(Exploitation)」が必要と言われています。
「知の探索」とは、自分の認知の範囲外にある「知」を探索し、探索した「知」を既に持っている「知」と組み合わせることです。
「知の深化」とは、新しい組み合わせの「知」を深掘りし、磨き込む事です。
この2つをバランスよく行うのが『両利きの経営』です。

【図2】両利きの経営の重要性

即ち、既存企業のイノベーションを成功させるためには、既存事業の効率化と漸進型改善(知の深化)と新規事業の実験と行動(知の探索)の両方を同時に行うことが必要なのです。

両利きの経営が何故うまくできないのか

この『両利きの経営』は、今では企業の中長期ビジョンや中期経営計画にも取り入れられています。
しかし、現実的に「知の探索」と「知の深化」をしっかりやっている企業は少ないようです。

日本企業は「知の深化」が得意

日本企業は、どちらかと言うと「知の深化」が得意であり、「知の探索」は不得意です。何故なら「知の深化」の方が、パフォーマンスが見えやすく分かりやすいからです。「知の深化」は既に分かっていることを如何に効率的に行うか、洗練していくかであり、インプットとアウトプットの関係性が非常に分かりやすいと言えます。

「知の探索」には失敗がつきもの

しかし、「知の探索」は異なります。新しい知を生み出すために、様々な知を探していくため、当然役に立つ知もあれば役に立たない知もあります。深化と異なり、探索は労力が非常に掛かり、見つからないリスクもあります。
今までと異なる知を見つけたとしても、それは既存の知です。ここから新しい知の組み合わせを見つけなければいけません。新しい知が生み出されれば成功ですが、生み出されない失敗も多いのです。
そういった点からは、「知の探索」はギャンブル的な面もあります。ギャンブルは勝ったり負けたりすることが楽しいのですから、「知の探索」においても、負けを楽しむこと、失敗を許容し諦めないマインドセットが不可欠と言えます。

両利きの経営と多様性

「知の探索」と「知の深化」を多様性の側面から考えてみます。

【図3】知の探索と深化と多様性

問題領域を解決するために領域を拡大

現在の環境においては同じような知を持つ集団となっています。
しかし、環境変化により問題解決の領域が広くなると、広い知をもった人材が集まった集団が必要になります。

多様性の中で新しい知が生まれる

そこで多様性を持った人材の集団が生まれます。多様性を持った人材のそれぞれ異なった知がぶつかり合い、組み合わされることによって新たな知が生まれます。

新しい知の周辺に集まる

その新たな知を効率的に使うためには、知を洗練させていくことが必要になり、そのために多様な知ではなく、新たな知に近い領域に知をもった人材を収斂していきます。

知の領域が狭くなる

そして新しい知が安定する時点では、初めの同じような知をもつ集団になるのです。
そして、環境変化によりまた問題解決の領域が広くなって、繰り返されます。

 

ここで大切なのは、「知の探索」即ち新しい知を生み出すためには、核融合と同様に膨大なエネルギーが必要であるということです。
イノベーションを起こすためには多様性が必要だと言われますが、組織の中に多様性のある人材が加わるということは、非常に手間ひまが掛かるということです。それまでの組織は、お互い細かいコミュニケーションを取らなくても意思が通じるシェアドメンタルモデルを獲得しています。しかし、この獲得されたシェアードメンタルモデルを一旦捨て去らなければ、新しい知は生まれないのです。

両利きの経営とリーダーシップ

「知の探索」と「知の深化」とリーダーシップの関係を考えてみます。

【図4】両利きの経営とリーダーシップ

「知の探索」のリーダーシップ

「知の探索」でのリーダーシップは、何が正解か、正解があるかどうかが分からない状況でのリーダーシップです。つまり正しいことを見つけてその方向に皆を引っ張っていくリーダーシップです。
戦後の混乱期から事業を起こした偉大なる創業者達は、そうしたことを当り前として行ってきました。そういう面では、高度成長期の日本は皆がイノベーターだったと言えます。

「知の深化」のリーダーシップ

しかし、ある程度事業ができあがり、知の深化の段階にはいると、逆にそうしたことは邪魔になります。変革期を乗り切ったリーダーがその後追われることもあります。バブル崩壊後多くの経営者が去っていったのも納得がいきます。また、アップルのスティーブ・ジョブズなどもその一例ではないでしょうか。
また、バブル崩壊後、大きなイノベーションを経験したリーダーは少なくなり、リストラやコストカットなどを中心とした「知の深化」型リーダーシップが多くなりました。
今の日本の経営者のリーダーシップの多くは、「知の深化」型リーダーシップです。新しい知が生み出され、その知を組織内に洗練し精緻化しながら蓄積していくプロセスでのリーダーシップです。ものごとを正しく行うためのリーダーシップとも言えます。

2つのリーダーシップの使い方

両利きの経営を行うためには、この2つのリーダーシップを上手く組み合わせて実施する必要があります。しかし、これを同時に同じ人間が行うことは難しいと言えます。
つまり、イノベーションを起こすためには、「知の深化」型リーダーシップではなく、一旦「知の探索」型リーダーシップで進めることが重要です。
ソニーの再生に成功した平井氏のリーダーシップは、「知の探索」型リーダーシップではないでしょうか。

今回は、イノベーションを起こすための知の探索と深化、両利きの経営のポイントをご紹介いたしました。詳細については是非お問い合わせください。皆様と一緒にイノベーションを起こし、日本企業の変革に貢献していきたいと思っております。

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この記事の執筆者

  • 徳永 大
    徳永 大
    経営管理事業部
    マネージャー
  • 小野 智貴
    小野 智貴
    経営管理事業部
    マネージャー

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