CFO・Xへの道

変化が加速するVUCA時代にCFO組織は何をなすべきか

エネルギー価格の高騰、慢性的な円安、歴史的な日本株高、米国大統領選挙等まさに環境変化のボラティリティが高く予測困難なVUCA時代を迎えています。こうしたVUCA時代においては、どのように経営していくべきでしょうか。
このような経済環境においては、CFO組織特にFP&A(Financial Planning & Analysis)が中心となって不確実な将来を予測し、経営者に対して複数のシナリオを用意し、適切な経営意思決定を実現することが重要です。
 
今回は、VUCA時代における経営を「シナリオ」をキーワードに中長期、短期の2つの視点からご紹介します。また、世界的な経済動乱期に直面する中、BSの毀損をいかに回避するかの7つに方策を併せてご紹介いたします。
 
【CFO組織とは】
CFOを核に熱き思いと冷徹な計算で企業価値創造をドライブする集団
広くは、経営戦略、経営管理、財務会計、ファイナンス戦略、税務戦略、内部統制、リスクマネジメント、監査、サステナビリティ、IR等の領域を担当

これからのシナリオ経営~中長期的な視点~

20世紀までは比較的平穏な時代でしたが、21世紀に入ると米同時多発テロや、リーマンショック、英国のEU離脱など想定外の事態が次々に発生しました。
直近では、新型コロナウイルスやウクライナ侵攻が挙げられ、経済政策不確実性指数の推移から見ても世界の不確実性は高まっており、明らかに予測困難なVUCA時代に突入したと言えます。

【図1】経済政策不確実性指数の推移

このような不確実性が高まっているVUCA時代において、どのような経営が有効であるのか、まずは中長期の視点からご紹介いたします。

中長期的な視点において「これまでの経営」は、単一のシナリオを想定し、計画見直しの頻度は少ないものでした。それに対してVUCA時代における「これからの経営」は、現在のトレンドの延長線上にない未来を描き、ボラティリティの高い外部環境/内部環境の要因を特定し、その変化を複数のシナリオで想定し、且つ、絶えずシナリオを再検討する経営(シナリオ経営)が有効となります。

【図2】VUCA時代のシナリオ経営(中長期的な視点)

複数のシナリオは、「環境変化が市場に与えるインパクト」と「その環境変化が将来起こる可能性」を軸に優先順位付けされます。市場環境に変化が激しく、不確実性が高まっているVUCAの時代において、シナリオ経営は計画策定の有効な手段と言えます。未来は予測することはできません。だからこそ転ばぬ先の杖を準備することが大切です。

複数シナリオの作成手順と有効性

ボラティリティに応じた複数のシナリオを用意するためには、どのようなことに取り組む必要があるでしょうか。シナリオの作成方法に決まりはありませんが、当社では以下の流れでシナリオを作成します。

1. 課題の設定
2.課題に関する情報の収集
3. ボラティリティ(当社ではKVIと呼称)を特定
4. ボラティリティに応じた複数のシナリオを作成
5.シナリオを再検討

【図3】シナリオ作成の流れ

何がボラティリティの指標になるかは、毎年大きく変わるものではありません。それぞれの指標のボラティリティの幅は変化しますが、多くの場合前年の指標は今年の指標にもなります。
例外的に、昨今のコロナウイルスやウクライナ侵攻などが、その年における固有の指標になることもありますが、基本的にシナリオと対応策は、KVIが大きく変化しなければ一度用意しておくだけで問題ありません。

当然、実際のビジネスでは想定したシナリオを超えた変化が起こることがあります。しかし、複数のシナリオを用意しておけば、想定外のケースが発生した時だけ集中して対応すれば良く、意思決定の混乱も少なくスピーディーに対応することができます。

ボラティリティに対して、シナリオと対応策を用意しておくことは、各社において実施されているリスクマネジメントそのものです。ボラティリティというリスクは、危険や危機ではなく不確実性となります。
繰り返しにはなりますが、シナリオは作ったら終わりではなく、絶えず再検討することが重要です。

【事例】グローバル最適地生産

当社がご支援した、より具体的な事例をご紹介します。
ある自動車部品メーカーでは、以下のような課題・状況がありました。

  • グローバルサプライチェーンが複雑化する中で、損益・原価管理の仕組みが未整備であった
  • 同一品目複数拠点生産が可能ため、最適地(最安値)生産・調達を実現する仕組みが求められている

そこで、生産リードタイムの短縮・最小コストでの生産体制実現のため、複数シナリオを用意し、調達地・生産地・生産量を最適化するシミュレーションモデルで意思決定を行えるようご支援させていただきました。当プロジェクトでは、品目の調達・生産・販売の拠点変更等による損益影響をシミュレーションできるツールを開発し、「為替」「税率」などの国別パラメータも設定可能にすることで、その金額の影響を把握することを可能にしました。

【図4】【事例紹介】グローバル最適地生産 自動車部品メーカー

これからのシナリオ経営~短期的な視点~

次に短期的な視点でのポイントをご紹介します。
VUCA時代においても中長期と比べると短期ではリスクの振れ幅は少ないため、「これからの経営」は短いサイクルで予測管理を行い、先行情報を捉え、計画策定にあたっては、前提条件に基づいた複数のシナリオを作成し、且つ、その妥当性を多面的に検証する経営(シナリオ経営)が有効となります。

【図5】VUCA時代のシナリオ経営(短期的な視点)

複数のシナリオを用意しておくことは、計画策定段階だけでなく実行段階でも有用です。
例えば、最初にシナリオaを選択した場合であっても、短い期間の予測管理をすることによって実行段階で計画が変わった時、すぐにシナリオb、シナリオcへと切り替えることが可能になります。
変化に素早く対応できる点で、リスクマネジメントの観点からも重要です。

会計情報は、確実主義に基づく情報であり、稟議申請・購買申請・発注といったプロセスにおける先行情報を把握できません。短期間での予算管理を実現するためには、検収ベースのマネジメントだけではなく、一連の業務プロセスにおいて、その時に把握している事実から先行情報をリアルタイムで見える化し、その変化を的確に掴んで行くことが重要です。

活動結果としての実績情報を次のアクションに結びつけられるように活用するには、仮説、つまりシナリオ前提がどうであったかを常に検証できるようにすることも大切です。
シナリオ前提の情報を整備することで、計画実績対比時の乖離の要因分析や施策状況分析に活用でき、更なる改善施策の検討にも役立ちます。こうしたシナリオ前提を常に検証し、変化に合わせて更新しながらマネジメントすることが重要となります。

【事例】週次決算・予実管理システムの構築

当社がご支援したより具体的な事例をご紹介します。
ある食品メーカーにおいては、主力顧客がコンビニエンスストアであり、日次・週次管理が当たり前でした。また、POSデータに基づく商品打ち切りにも即座に対応する必要があり、メーカーとしても週次決算を行いたいというトップの経営ニーズがございました。

そこでまずは、週次計画をどのように作るかを検討しました。週次計画は営業部門が顧客別商品別週次計画を立案し、それをもとに週次のSCM計画と損益計画を立案しました。
次に、POSデータ等に基づく需要予測システム、需給調整システムと週次損益計画システムを構築する支援をいたしました。週次計画は日次管理から週次決算を作成し、週次見込み管理を行い、日次管理に反映させるという一連の流れです。こうしたシステムを導入することで、トップ自らが週次決算を見て各部門長に指示することが可能となりました。

【図6】【事例紹介】週次決算・予算管理システムの構築 食品メーカー

VUCA時代のBSマネジメント

世界的な経済動乱期にある中、日本企業のバランスシートは大きく毀損されることが予想されます。
ここでは毀損を回避、最小化するためのBSマネジメントの方策を7点ご紹介します。
BSマネジメントとは、短期的な利益の獲得だけでなく、中長期的な観点から資本を増殖させ、企業価値向上を図ることを目的とします。

【図7】VUCA時代のBSマネジメント

資金運用サイドに着目したBSマネジメントとして、以下5点が挙げられます。
① 運転資本を軽くする
② 資産を売却・流動化する
③ 勘定科目でリスクを監視する
④ 減損兆候を監督する
⑤ リスクアセットを明確にし、リスクマネジメントを行う

①運転資本を軽くする、つまり資本を最小化することは変化に対する対応力を高めます。
②資産の流動化は、オフバランス化ができ、且つ、引き続き関与することができます。
また、経済有事においては、③不正等の発生リスクが高まることや、④減損兆候を速やかに捉える必要があり、監視・監督する体制の強化が重要となります。⑤事業が破綻した時、アセットのどこまでが保全され、どこまでが保全されていないか(リスクアセット)を明確にして、リスクマネジメントすることが重要となります。

資金調達サイドに着目したBSマネジメントとして、以下2点が挙げられます。
⑥  最適資本構成を見極める
⑦  最適株主還元策を見極める

⑥世界的金融引き締めの影響が日本へ懸念される中、デットファイナンスとエクイティファイナンスのバランスをどうするのかという方針を明確にする必要があります。
⑦経済有事において景気変動にあまり左右されない長期保有目的の株主の存在が大きくなるため、配当政策を明確化することが求められます。

以上、ファイナンスの観点から7点ご紹介いたしましたが、経済有事において重要なことは、変化を素早く捉え、素早く動くことです。そのためには、「経営資源のフレキシビリティを高める」ことが不可欠です。ソフトウェアファーストでモノづくりを再構築し、経営資源のフレキシビリティ化まで行うことで、本当の意味でのBSマネジメントが実行できると考えております。

 

今回は、前半でVUCA時代における経営を中長期と短期の2つの視点から「シナリオ」をキーワードにご紹介させていただき、後半で世界的な経済動乱期に直面する中、BSの毀損をいかに回避するかのポイントをまとめた7つの方策を併せてご紹介させていただきました。
詳細についてご興味のある方は、是非お問い合せいただければ幸いです。

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