闇夜のドライビング経営とは
~VUCA時代をシン・リアルタイムマネジメントで乗り切る~

ERPの登場に合わせてリアルタイムマネジメントが唱えられてから20年近い時が過ぎましたが、リアルタイムマネジメントを実現できている企業は少ないと言えます。
しかし、VUCAと呼ばれる環境変化が激しい時代においては、従来のPDCA型マネジメントからOODA型マネジメントへの変革が求められ、更には闇夜のドライビング(※)のように抜群の視力とテクニックで切り抜ける高速回転トライ&エラー経営が求められています。
これは正にアップデートされたシン・リアルタイムマジメントと言えるのではないでしょうか。

今回は、こうしたVUCAの時代のシン・リアルタイムマネジメントのポイントをご紹介します。

※「経営戦略全史」三谷宏治著

古くて新しいリアルタイムマネジメント

昨今、世の中では「VUCA(Volatility:変動、Uncertainty:不確実性、Complexity:複雑性、Ambiguity:曖昧性)の時代」と言われ、変化が大きく、先が見えず、正解がない時代になっています。タクシー業界やホテル業界のように突然ディスラプターが現れて業界を大きく変革してしまうこともあり、我々は「経済的有事」と捉えています。

変化の激しい時代の中では、これまでの常識や当たり前が通用せず、常に変革や変化への対応をしなければなりません。即ち、今までのしっかりと詳細な計画の立案に時間をかけるPDCA型は先が見えない時代では機能しません。状況を見て、判断し、意思決定して、行動してくOODA型に経営スタイルを変えていく必要があります。

このOODA型経営においては、高速回転でトライ&エラーを繰り返す経営が求められており、これを当社ではシン・リアルタイムマネジメントと呼んでいます。

【図1】PDCAからOODAへ

シン・リアルタイムマネジメントとは

シン・リアルタイムマネジメントとは、激しい環境変化に対し高速回転でのトライ&エラーを繰り返す経営です。

このシン・リアルタイムマネジメントを実現すためには、何が必要でしょうか。当社では、シン・リアルタイムマネジメントを実現するためには、「抜群の視力」「抜群の神経」「抜群の判断力」「抜群の運動能力」が必要と考えています。

情報のデジタル化とシン・リアルタイムマネジメント

これらの能力の話の前にシン・リアルタイムマネジメントと情報の関係を見ていきます。シン・リアルタイムマネジメントでは、情報の変化を感知し、情報を伝え、情報を判断し、決定した情報を伝達することが必要です。

早稲田大学の藤本隆宏教授によれば「製品は設計情報が媒体(モノ)に転写された人工物」としています。即ち、モノの本質は情報です。そう考えると全ては情報をマネジメントすることになります。

そしてこの情報をデジタル化すれば、デジタル化の3つの特徴から情報のマネジメントが容易になり、シン・リアルタイムマネジメントを実現する能力を更に高めることにつながります(詳しくは後述)。

【図2】情報のデジタル化の3つの特徴

なお、情報が転写されたモノは、「情報としての秩序」を物理的に維持するために膨大なエネルギーが必要となります。しかし、デジタルは2つ目の特徴から「情報としての秩序」の維持が比較的容易です。そういった面でもデジタルツイン(仮想空間⇔物理空間)のようなデジタル化の流れは必然と言えるのではないでしょうか。

抜群の視力

闇夜の中で的確に変化をとらえる「抜群の視力」を獲得するためには、情報の解像度を上げる必要があります。経営情報として月次でサマリーデータのみを見ていたのでは、闇夜で小さなバックミラーを見て運転をしているようなものです。目隠しよりはマシですが、これでは素早い対応はできません。先ずは、出来る限り素早く、解像度の高い情報を入手し、フロントガラスの先を少しでも見えるようにすることが重要です。

【図3】解像度の高い経営情報

しかし、多くの日本企業は、この点を疎かにし過ぎています。高額のERPをグローバルで導入しているにも関わらず、グループ本社の経営陣には、制度連結情報+αの情報が翌月の中旬以降に報告されるといった企業が余りに多いことに強い危機感を感じています。これでは、VUCAの時代に日本企業は生き残れないのではないでしょうか。

また、IoTの進展によって、モノの状態情報、操作情報等様々な情報が取得できるようになりました。しかし、これらを経営情報としてダイレクトに活用している企業はまだまだと言えます。生物の爆発的進化は、「目」を獲得したことだとも言われています。IoTは、爆発的に経営を進化させる「目」となる可能性を持っています。IoT推進に取り組まれている企業では、これらの情報を経営に活かし、より広く、より解像度の高い、視力の獲得を目指していくことが重要といえます。

【図4】IoT情報の経営への活用

抜群の神経

「抜群の神経(伝達)」を獲得するためには、情報の流れを早くすること、リードタイムを短くすること、情報の滞留をなくすことが必要です。情報が滞留するところには、必ず物理的なモノが滞留します。前述のようにモノは情報の媒体です。製品が在庫として滞留していることは情報が滞留していることになります。メールボックスに溜まった未読メール、机の上に置かれた処理待ち文書など様々な情報の滞留が物理現象として現れます。抜群の神経を獲得するためには、これらの滞留をなくすことが必要です。

また、購買の発注サイクルに代表されるように人の業務は必ずサイクル化します。サイクル化は、発注情報などの滞留となって必ず波(山谷)を引き起こします。この波は、他の波と同調して更に大きな波になります。従って、これを防ぐためには、サイクルを高速回転で回し、波を小さくしていくことが重要です。購買なら、月間発注→旬間発注→週次発注→日々発注→随時発注といったように高速サイクル化しなければいけません。高速サイクル化のためにはそれを阻害する要因を排除する抜本改革が必要です。一般にこうした阻害要因は、過去の慣習やルールといった経路依存性によるものが多いため、このしがらみを断ち切らねばなりません。

【図5】短サイクル化のイメージ

情報の速度を高めるためには、デジタル化は必須です。ベートーベンが交響曲第5番という情報を譜面という媒体に記録(転写)し、オーケストラがそれを物理的な音として演奏(転写)して人々に伝えることと、その音をデジタル化(転写)し物理的にストリーミングでスマホに届け音を再生(転写)して人々に伝えることは情報の流れとしては本質的には同じことです。しかし、後者の方が圧倒的に速く広く伝わります。

抜群の判断力

「抜群の判断力」を獲得するためには、判断を現場に任せることが必要です。闇夜のドライビングは、中央管制塔からのコントロールでは対応できません。出来る限り最前線の現場に権限を委譲し、何が正しい事なのかを常に考え、自ら判断するセルフマネジメントが不可欠です。

判断のためには、事前に想定されるリスクを洗い出しこれに対する対応シナリオを作成し、常にロールプレイングしておくことも重要です。闇夜のドライビングでは、リスクそのものが予測できないことが多いですが、予測できるリスクが顕在化した際には適切に判断できるようにしておくことが、不測の事態を最小限にすることにつながります。

また、前述のように情報をデジタル化しておけば、AIなどを使って素早い判断にも活用できます。ソニーグループが開発したAIが、カーレースゲームで人間の「達人」を超えたとのニュースもありました。今後もこうした技術的進歩が闇夜のドライビングに活用されることを期待します。

抜群の運動能力

変化を素早くキャッチして判断し素早く動く「抜群の運動能力」を獲得するためには、経営資源(体力)のフレキシビリティを高めることが必要です。即ち、抜群の判断力で意思決定したことを、俊敏に行動に移すための柔軟性をもった体力が必要なのです。

【図6】経営資源の種類とフレキシビリティ化

モノやソフトウェアのフレキシビリティを高めるためには、デジタル化は不可欠です。特に、ソフトウェアを含んだモノが主流になってきている現在では、ソフトウェアファーストな考え方でモノづくりを再構築していかなければ、グローバルで勝てません。しかし、こうした点では、日本企業は大きく出遅れていると言わざるを得ません。

また、人・組織や知・ノウハウのフレキシビリティを高めるためには、前述のように最前線に権限を委譲するとともに、共通のパーパスやビジョンを共有していることが重要になります。

やはりパーパスやビジョンが大切

闇夜のドライビングで、高速回転でトライ&エラーを繰り返すだけでは、目的地に着けません。自らが進む方向感としてのパーパスやビジョンが大切です。それらは、暗闇の中での羅針盤として目的地に導いてくれるのです。

シン・リアルタイムマネジメントを組織として実践していくためには、組織全体としてパーパスやビジョンを共有しておくことは不可欠なことと言えます。特に、激しい環境変化に対応するため組織がネットワーク型組織に移行していく過程においては、遠心力に対抗する求心力の源であるパーパスやビジョンがより重要となってきています。

以上のようにVUCA時代においては高速回転でのトライ&エラーを繰り返すシン・リアルタイムマネジメントを実現することが重要です。これらを実現するためには、デジタル・トランスフォーメーション(DX)を同時に進めていく必要があります。是非皆様とDXを活用したシン・リアルタイムマネジメントを実現したいと思っております。

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