ビジネスモデル変革で停滞している既存事業を成長路線に乗せる

ビジネスモデル変革は、価値創造を目指す新規事業開発とは異なり、既存事業の価値提案を活かしながら新しく成長路線へ乗せることを目的としています。事業運営の様々な局面で、新たな競合の出現、価格破壊、顧客の離反などが起きています。収益基盤が強固な事業でも環境の変化に応じて、ビジネスモデルを変えていくことが求められています。

既存事業が新たな事業に生まれ変わる

日清食品はカップヌードルで有名ですが、50年以上愛され続けているのには理由があります。毎年、味、具材、カップのデザイン等を顧客嗜好の変化に合わせて少しづつ変えています。そのため、カップヌードルは今でも古臭さを感じず、定番カップ麺トップの座を維持しているのです。
弊社では、ビジネスモデル変革を「既存事業の中核となる価値提案は変えず、新しい儲けの仕組みを構築すること」と定義しています。カップヌードルと同様に、一度確立されたビジネスモデルであっても、事業環境の変化に応じて変えていくことで、継続的な成長を実現できるのです。
ビジネスモデルというと、ビジネスモデルキャンバスを用いた新規事業開発のワークショップ等を想像しますが、ビジネスモデル変革の検討対象は既存事業です。通常多くの企業では、収益を生み出している中核となる事業があり、顧客に対してしっかりとした価値を提供しています。この中核となる価値提案は維持したまま、ビジネスの構成要素を変えていくことで、新しい事業に生まれ変わることを目指します。既存事業で経験している積み重ねが、見えない資産として企業の中に埋もれています。それを最大限に活用するのがビジネスモデル変革です。ベンチャー企業でもない限り、何のシナジーもない事業領域で、新たな価値を創造して全く別の価値提供を目指すことは非常にハードルが高く、直ぐに変化することはできないでしょう。

【図1】ビジネスモデル変革

思いもよらないところから参入企業が現れる

近年多くの企業は、既存事業の成長が鈍化し、何か変えないと衰退してしまうという危機感を持っています。デジタル化の進展や「所有」から「利用」へのシフトによるサービス化の高まりといった急速な市場環境の変化が背景にあります。このような変化を一早く機会と捉えたのがディスラプター(破壊的企業)と呼ばれる企業で、全く新しい顧客アプローチ・コスト構造・サプライチェーンを構築し、様々な市場に参入してきています。
教育業界のディスラプターであるスタディサプリは、地方学生にも大都市と同様の教育機会を提供する、今のSDGsにも繋がる事業として2012年にリクルートが立ち上げました。高校講座の場合、月額2,178円で全科目の講義が見放題という低価格でオンライン授業を提供しています。(校舎型の学習塾・予備校は年間50万円程度の費用が必要となります。)コロナ禍でオンライン教育のニーズが高まったことから、会員数が急激に伸びているとともに、2,500校以上の公立・私立学校がスタディサプリを採用し更に裾野を広げています。
国内教育市場の成長が見込めない中、講師による労働集約的なビジネスモデルから脱皮すべく各社がオンライン授業やAI導入等の工夫をしています。しかし、校舎型ならではの対面による集団授業から顧客ニーズの高い個別指導への対応等で、従来のビジネスモデルを変えられていません。(一般的に個別指導より集団授業の方が利益率が高い傾向にあるのも一因です。)

ビジネスモデルパターンから思考する罠

近年ビジネスモデルについての研究が進んできており、パターンが出そろってきています。例えば、「ビジネスモデル・ナビゲーター」(オリヴァー・ガスマン、カロリン・フランケンバーガー、ミハエラ・チェック著)では、ビジネスモデルを55のパターンに分類しています。改めてビジネスモデルを一から考える必要がないため、非常に便利なツールです。他にも「収益多様化の戦略:既存事業を変えるマネタイズの新しいロジック」(川上昌直著)では、利益獲得イノベーション視点から利益モデルを30パターンに分類している。
通常ビジネスモデル変革の検討では、既存事業をどのビジネスモデルパターンに当てはめるか、最近成功しているビジネスモデルと同じことはできないか議論しようとします。この検討方法をパターン発想法と呼んでいます。パターン発想法では、ビジネスモデル手法としてのHowは検討できるものの、ビジネスモデル構築の目的であるWhatを見失うケースが多いです。
特にビジネスモデル変革の対象としている既存事業には、作り込んできた事業構造や顧客に選ばれてきた価値があります。既存事業の資産を活かしながら、どのような事業を目指すのかを議論し、その後、どのように市場環境・競争環境の変化に適応させていくかを検討することが重要となります。

【図2】ビジネスモデルパターン

儲けを生んでいる業界特有のビジネスモデルを知る

ビジネスモデル検討の最初のステップは、どのようなビジネスモデルが成功しているのかをよく知り、儲けのカギがどこにあるのかを見極めることです。
先ほどの学習塾・予備校市場を例に見てみましょう。利益率の大きい企業は、大きく2つビジネスモデルに分かれています。一つが「フランチャイズ」で、事業規模を拡大しながら単位当たりのコストを低減するモデルです。ナガセや明光ネットワークジャパンは、教育コンテンツ(例えば、カリスマ講師の動画コンテンツ)や運営ノウハウ等を提供し、フランチャイジー売上からのロイヤリティや加盟店料で収益を上げます。儲けのカギは、教育コンテンツの質の向上や生徒の集客支援にあります。広告宣伝費や教材開発費は固定費として削減が難しく、事業規模拡大により利益を上げます。
もう一つが「スーパーニッチ」や「チェリーピッキング」で、事業範囲と顧客層を絞ってコストを低減するモデルです。STEPは、出店地域を神奈川県に集中し、公立高校受験にターゲットを絞ることで、認知度やブランドを高めています。儲けのカギは、利益を生む集団授業の集客と地域ブランド確立による広告宣伝費や教材開発費の低減にあります。出店を抑え、固定費を削減することで、業界トップの利益率を実現しています。

利益創出ポイントからビジネスモデルを逆算する

次のステップは、現在のビジネスモデルは利益の出る仕組みなのか、顧客接点やコスト構造を再構築することで競合との差別化が図られたり、更なる利益創出ができないかを検討することです。
再度、学習塾・予備校市場を見ていきましょう。学習塾・予備校は、講師の確保が必要な労働集約型の産業です。(そのため、講師の非常勤・パート比率が高い)更に、顧客ニーズが集団授業から個別指導に移っているため、講師の質を維持しながら数を確保するのが難しくなっています。一人の講師が同一時間帯で個別指導できる生徒数を増やせたら、個別指導から高い利益創出も可能となります。Atama+は、問題の正否から生徒の弱点を分析しリアルタイムで教えてくれるAIです。講師+AIにより、集団授業でありながら個別指導のような指導を実現しています。ピンポイントで生徒の弱点を把握できるので、質も安定します。
また、教育フォーマットは学生以外でも共通のため、社会人向けにも応用できます。スタディサプリは顧客接点を広げ、社会人向けのスタディサプリENGLISHを提供しています。学生だけでなく社会人にも市場が広がり、収益拡大に寄与しています。
ビジネスモデルや構成要素を変革することで、停滞している既存事業も再び成長路線に乗せることができるです。

【図3】顧客接点から見た利益創出ポイントの拡大

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