利益イノベーションにおける価値獲得パターンの選び方
私たちは、事業を収益・利益を生み出すビジネスモデルに変革するために、「利益イノベーション」の考え方に着目しています。今回は、どのように顧客から対価を受け取るかを検討する「価値獲得パターン」についてご紹介します。
ビジネスモデル変革が注目される理由
ビジネスモデルが注目され始めたのは、いつ頃だったでしょうか。2010年代からGAFAM(Alphabet・旧Google、Apple、Meta・旧Facebook、Amazon、Microsoft)と呼ばれる企業が高収益を上げ、S&P500時価総額に占める5社の割合が30%を超える状況となりました。その間、GAFAMと日本企業の違いはどこにあるのか、同じ業界の競合企業でなぜ収益や利益に差が出るのかといった疑問が生まれました。それを解き明かす鍵となるのがビジネスモデルでした。
ビジネスモデルとは、顧客に価値提供することにより、収益・利益を生み出す仕組みや構造と定義できます。どのような価値を提供するのか、どのように収益・利益を得るのか、どのような顧客にサービスを提供するのか、どのようなリソースを必要とするか等を検討します。
ビジネスモデルを変革することで、更なる収益・利益を生み出すことを利益イノベーションと呼んでいます。利益イノベーションは、製品・サービスの持つ提供価値そのものを革新するのではなく、ビジネスプロセス、サプライチェーンなど、ビジネスモデルの構成要素を再構築することに焦点を当てます。
【図1】ビジネスモデル変革
利益イノベーションの要素:価値獲得パターン
利益イノベーションは、「収益の多様化」と「価値獲得パターン」の要素で構成されていますが、今回は「価値獲得パターン」についてご紹介します。(もう1つの要素である「収益の多様化」について知りたい方は、前回コラム「収益化・利益化を実現する利益イノベーションの実践手法」をお読みください。)
「収益の多様化」は、売上機会の拡大を検討することに対して、「価値獲得パターン」は、顧客に対してどのようなタイミングでどのように課金していくかを検討します。インターネットを活用したコンテンツビジネス拡大やIoT普及によるモノからサービスへのシフトを受けて、様々な価値獲得パターンが生まれています。
インターネット環境の進展により台頭してきた価値獲得パターンとしては、サブスクリプション、フリーミアム、オークション、ダイナミックプライシング、マッチメイキング等があります。リアル空間では実現できない顧客の広がりやデータに裏付けされた新しい顧客体験をベースにしたビジネスには、これらの価値獲得パターンが最適です。
以下の図表は、レイヤーズ・コンサルティング学術顧問でもある兵庫県立大学の川上 昌直教授が類型化した価値獲得パターンです。30類型ありますが、これからも新しい価値獲得パターンが発明されていくと考えます。
【図2】価値獲得パターンの類型
価値獲得パターンの選び方
価値獲得パターンが分かると自社のビジネスモデルに一つひとつ当てはめて検討しようとするビジネスパーソンがいます。この方法は間違いではありませんが、適用する価値獲得パターンを見誤る場合もあります。
例えば、毎月定額でサービス料金をいただくサブスクリプションを考えてみましょう。契約当初はサービス料金の累計が少ないため、1顧客当たりの利益は赤字となります。ある時点で累計サービス料金=サービス開発原価となり、顧客維持コストを考えないとすると、それ以降は売上=利益になります。サブスクリプションで利益最大化を図るためには、いかに長く顧客にサービス提供できるのかがポイントとなります。
翻って、自社ビジネスを見てみるとどうでしょうか。顧客にとって提供している製品・サービスを長く利用する理由があるでしょうか。利用期間中に顧客に新しい提案をしているでしょうか。顧客に利用を止めさせない仕掛けがあるでしょうか。自社ビジネスが、サブスクリプションを成功に導く要件を備えていなければ、価値獲得パターンとしての適用は適切ではなくなります。
サブスクリプションについては、別の機会に詳しくご説明させていただきます。下の図表では、当社における利益イノベーション創出検討プロセスを載せていますので、ご参考にしてください。
【図3】利益イノベーション創出検討プロセス
価値獲得パターンを組み合わせて収益化・利益化を強化する
ビジネスモデルの構築では、1つの事業に対し1つの価値獲得パターンになるとは限りません。いくつかの価値獲得パターンを組み合わせることで、差別化された強固なビジネスモデルができます。
サステナブル領域で注目を集めるリサイクルビジネスを考えてみましょう。リサイクルビジネスは、リサイクル素材の価値がリサイクルコストを上回る場合に成立する「バイプロダクト」と呼ばれる価値獲得パターンです。
リサイクル処理を行わずに回収できる金属やPC部品等は、リサイクルコストがかからないため、収益化・利益化が実現します。しかしながら、マテリアルリサイクルやケミカルリサイクルといった処理コストがかかるリサイクルについては、収益化・利益化の難しいビジネスです。また、リサイクルコストの内、廃棄物を取りに行く物流コストが大きく、結果的に儲からないビジネスになります。
もし、廃棄物を処理するリサイクル=「バイプロダクト」と廃棄物になる前の製品の定期販売=「サブスクリプション」を組み合わせたビジネスモデルであればどうなるでしょうか。製品の配送物流と廃棄物の集荷物流を同時に行うことが可能となります。その結果、製品販売から更なる収益化、物流コストが半分となり利益化も図れます。これは、「バイプロダクト」に加えて「サブスクリプション」という価値獲得パターンを組み合わせたリサイクルビジネスです。利益イノベーションにより、儲からないビジネスを儲かるビジネスに変えることができます。
【図4】価値獲得パターンを組み合わせた儲かるリサイクルビジネス
フレームワーク活用の罠
ビジネスモデルのフレームワークで一番最初に想起されるのは、「ビジネスモデルキャンバス」です。「ビジネスモデルキャンバス」は、アレックス・オスターワルダーとイヴ・ピニュールが開発した手法です。多くの企業の事業開発等の現場で活用されています。ビジネスモデルを「顧客セグメント」「提供価値」「資源」といった9つの要素に分けて、ビジネスの全体像が視覚的に理解できるツールです。
私たちも研修等で「ビジネスモデルキャンバス」を使うことがあります。9つの枠を埋めるとビジネスモデルができるという手軽さもあり、非常に便利なツールです。実際に使ってみると分かるのですが、多くの実務家は白い枠を埋めることに集中して、9つの要素について深く検討することが疎かになります。また、考えていることを書き出すことで、頭の中で複雑に絡まっていたことが整理されるまではいいのですが、その後自分の考えに納得し、批判的に考えなくなることもあります。(社会心理学における「ジャーナリング」効果の負の側面)
最後に、フレームワークの罠に陥らないための注意点を記載します。
① 9つの検討要素を繋げながらストーリーが語れること
② 作成したフレームワークの要素を変えながら別のビジネスモデルを作り比較すること
③ P/L、B/S、C/Fといった財務的な計数に落とすこと
次回からは代表的なビジネスモデルを取り上げて、ご紹介していきます。
【図5】ビジネスモデルキャンバス
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この記事の執筆者
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八向 到事業戦略事業部 副事業部長
マネージングディレクター
新規事業開発担当 -
東 元也事業戦略事業部
マネージャー -
川副 翔太郎事業戦略事業部
マネージャー -
杉山 詠子事業戦略事業部
マネージャー
職種別ソリューション