利益を得るためのイノベーションを実現するには
~そのイノベーションは儲かっていますか?~

昨今、「日本にはイノベーションが必要だ!」「イノベーションを起こして付加価値を上げなくてはいけない」といった議論が多くなされています。しかしながら、イノベーションにより新しい価値を生み出せば、企業の存在意義である収益・利益を獲得することができるのでしょうか。
今回はイノベーションを儲けに変える「利益イノベーション」の考え方をご紹介します。

イノベーションとは何か

近年イノベーションに関する書籍が多数出版されています。メディアでも毎日のようにイノベーションの重要性が語られています。「イノベーションなくして、日本の成長はない」「日本の生産性が低い理由は、企業でイノベーションが生まれていないからだ」と、日本経済の停滞がイノベーション起因となっているという論調です。この論調については異論がないものの、イノベーションの定義が曖昧なため、多くのビジネスパーソンは具体的に何をどのように取り組めばいいか分からない状態です。そこでまずは、抽象的なイノベーションという言葉の理解を深めていきましょう。
 
イノベーションについては、様々な学者や実務家が研究しており、その定義は収れんしてきています。ここでは、イノベーション=「革新的アイデアが具体的な製品・サービスとなって価値を認められ社会に受け入れられること」と定義します。重要なポイントは、革新的アイデア=「新しさを生み出すこと」と価値を認められ社会に受け入れられる=「経済的価値に転換すること」の2つです。
 
特に1つ目の重要ポイントである「新しさを生み出すこと」について、イノベーションの父と言われるシュンペーターは、技術革新を伴うようなゼロからの創造ではなく、既存の要素を組み合わせることによって新たな価値を創造する新結合であるとしています。

【図1】イノベーションは新しい組み合わせ

交錯する2つのイノベーションパターン

企業で推進しているオープンイノベーションや出島戦略(イノベーション組織の設置)等は、「新しさを生み出すこと」に注力した施策です。
 
イノベーションの実証研究では、①革新的な製品・サービスを生み出す「プロダクトイノベーション」と②生産・流通過程で革新的な工程を生み出す「プロセスイノベーション」が、時間軸の中で交錯しながら「新しさを生み出すこと」により、製品・サービスの付加価値を上げていくとされています。
 
東京オリンピックの陸上男子マラソンで表彰台に立った3人は、NIKEの「ZoomX Vaporfly Next% 2」を着用しており、速く走るための革新的シューズです。ソールにカーボンファイバープレートを搭載した軽量厚底シューズで、箱根マラソンで着用率が一番高いことでも有名です。この革新的シューズがプロダクトイノベーションとすると、プロセスイノベーションがNIKEのカスタマイズサービス「NIKE BY YOU」の例になります。「NIKE BY YOU」は、自分だけのオリジナルシューズにパーソナライズして注文できるサービスです。厚底シューズは時間の経過とともに付加価値が低下しますが、それをカスタマイズサービスで補い付加価値を上げていきます。

【図2】2つのイノベーションパターン

そのイノベーションは儲かるのか

イノベーションにより「新しさを生み出す」と新しい価値を創造することができます。しかしながら、イノベーションのもう1つの重要ポイントである「経済的価値に転換すること」については実現できているでしょうか。企業で実践しているイノベーションは、単なる面白いアイデアに終始することなく、儲けに繋げる必要があります。
 
OPEN AI社のChat GPTで失敗したイノベーション事例を教えてもらうと1番目に来るのは、「Google Glass」です。「Google Glass」は、カメラやディスプレイを搭載しているメガネの形状をしたウェアラブルコンピューターで画期的な製品として話題でしたが、2013年に発表され2015年に生産中止となりました。「新しさを生み出すこと」には成功しましたが、「経済的価値に転換すること」には失敗しました。失敗した理由は、次の3点とされています。
 
①専用のアプリやコンテンツが不足しており、実用的な用途が限定的であったこと。
②デバイスが1,500ドルと高価であったこと。
③デバイスに搭載しているカメラとマイクで他人のプライバシーを侵害する可能性があること。
 
以上により「経済的価値に転換すること」ができませんでした。但し、その後も研究は続けられているので、新しいARグラスとして再び上市することがあるかもしれません。

収益化・利益化からビジネスモデルを変革する利益イノベーション

イノベーションによる新しいアイデアを「経済価値に転換する」にはどうすればいいのでしょうか。私たちは、ビジネスモデルがそのヒントになると考えています。ビジネスモデルとは、収益・利益を生み出す価値獲得を目指した仕組みや構造と定義できます。どのような価値を提供するのか、どのように収益・利益を得るのか、どのような顧客にサービスを提供するのか、どのようなリソースを必要とするか等を検討します。
 
ビジネスモデルを変えることで、更なる収益・利益を生み出すことを利益イノベーションと呼んでいます。利益イノベーションは、製品やサービスそのものの革新ではなく、ビジネスプロセス、サプライチェーン、顧客戦略など、企業のビジネスモデル自体を再構築することに焦点を当てます。
 
収益・利益を最大化する利益イノベーションを実現するためには、2つの視点について検討することが必要となります。最初は、どのように収益多様化を図り、売上獲得機会を創出するかという視点です。次は、どのようなタイミングでどのように課金し、収益化・利益化を実現するかという視点になります。

利益イノベーションを実現する2つのアプローチ

まずは、どのように収益多様化を図り、売上獲得機会を創出するかという視点を見ていきましょう。検討アプローチは、大きく2つあります。
 
最初の検討アプローチは、提供製品・サービスの顧客接点を深堀するアプローチで、企業と顧客との密着度に着目しています。企業と顧客との関係は、購買・利用・アップグレードの3段階で変化していきます。各段階で、顧客体験があり、課題が発現し、企業は顧客理解を深めていきます。顧客理解の深化から新たな提案が生まれ、収益多様化に繋がります。
 
2番目の検討アプローチは、自社ビジネスを取り巻くエコシステムを俯瞰するアプローチで、事業を構成するプレーヤーに着目しています。エコシステムとは、企業や製品・サービスが互いに連携・共存しながら大きな収益構造を構成する状態を意味します。自社ビジネスの川上や川下ビジネスを取り込んだり、競合企業に対しても製品・サービスを提供することで収益多様化を図っていきます。
 
次回は、上記2つの検討アプローチに対して詳しくご紹介します。

【図3】利益イノベーションの考え方

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