収益化・利益化を実現する利益イノベーションの実践手法

事業が成立するためには、「価値創造」と「価値獲得」の2つの要件を満たすことが必要になります。しかしながら、「価値創造」は頑張るけれども、「価値獲得」まで辿り着かない事例も多く見受けられます。
今回は、収益・利益を生み出す「価値獲得」の方法論である「利益イノベーション」の考え方をご紹介します。

事業が成立するための2つの要件

この記事を読んでいる方の携わっている事業が既存であれ、新規であれ、継続性をもって運営するためには、「価値創造」と「価値獲得」の2つの要件を満たすことが必要となります。「価値創造」とは、企業が自らの経営資源を駆使し、顧客にとって価値の高い革新的な製品・サービスを生み出すことです。また、「価値獲得」とは、「価値創造」により生み出した価値が顧客に受け入れられ、収益・利益を生み出すことです。
 
「価値創造」に着目すると、イノベーションを生み出すアイデア発想や事業アイデアが顧客に対して価値を提供しているかを検証する調査・分析が重要なタスクとなります。「価値創造」に対する活動を積極的に行い、新たな製品・サービスを提供するまではいいのですが、収益・利益を生み出すことができず、事業として成立していない事例も多く見受けられます。
 
「利益イノベーション」の検討アプローチについて、以下で解説していきます。

【図1】事業成立の要件と注力すべきタスク

ビジネスモデル変革により収益化・利益化を図る

「価値創造」による新しい事業アイデアを「収益・利益に転換する」にはどうすればいいのでしょうか。私たちは、ビジネスモデルがそのヒントになると考えています。ビジネスモデルとは、価値を提供することにより収益・利益を生み出す仕組みや構造と定義できます。どのような価値を提供するのか、どのように収益・利益を得るのか、どのような顧客にサービスを提供するのか、どのようなリソースを必要とするか等を検討します。
 
ビジネスモデルを変えることで、更なる収益・利益を生み出すことを利益イノベーションと呼んでいます。利益イノベーションは、製品やサービスそのものの革新ではなく、ビジネスプロセス、サプライチェーン、顧客戦略など、企業のビジネスモデル自体を再構築することに焦点を当てます。
 
収益・利益を最大化する利益イノベーションを実現するためには、2つの視点について検討することが必要となります。最初は、どのように収益多様化を図り、売上獲得機会を創出するかという視点です。次は、どのようなタイミングでどのように課金し、収益化・利益化を実現するかという視点になります。
 
それでは、売上獲得機会の創出(=収益の多様化)の検討アプローチについて、見ていきましょう。

【図2】ビジネスモデル変革=利益イノベーション

利益イノベーションを実現する検討アプローチ

まずは、どのように収益多様化を図り、売上獲得機会を創出するかという点を見ていきましょう。検討アプローチは、大きく2つあります。
 
最初の検討アプローチは、提供製品・サービスの顧客接点を深堀するアプローチで、企業と顧客との密着度に着目しています。企業と顧客との関係は、購買・利用・アップグレードの3段階で変化していきます。各段階で、顧客体験があり、課題が発現し、企業は顧客理解を深めていきます。顧客理解の深化から新たな提案が生まれ、収益多様化に繋がります。
 
2番目の検討アプローチは、自社ビジネスを取り巻くエコシステムを俯瞰するアプローチで、事業を構成するプレーヤーに着目しています。エコシステムとは、企業や製品・サービスが互いに連携・共存しながら大きな収益構造を構成する状態を意味します。自社ビジネスの川上や川下ビジネスを取り込んだり、競合企業に対しても製品・サービスを提供することで収益多様化を図っていきます。

【図3】利益イノベーションの検討アプローチ

顧客接点深堀アプローチ

顧客接点深堀アプローチは、どの企業でも検討に直ぐ取り掛かれるのが特徴です。但し、既存事業の顧客をどの程度深く理解しているかが重要ポイントとなります。
 
このアプローチを実践している企業の一つが三浦工業です。三浦工業は、貫流ボイラーで6割のシェアを持つ業界トップの企業です。現在、「工場トータルソリューション」を提供し、ボイラーのプロダクト販売とメンテナンスをセットで販売、営業利益の6割をメンテナンスで稼いでいます。
 
三浦工業の収益の起点は、1970年代から貫流ボイラーとそのメンテナンスでした。メンテナンスなしではボイラーを売るなという当時の社長の方針の結果、ボイラーの利用局面に入り込むことが可能となり、顧客理解が深まっていきました。1980年代に入ると、「省エネやCO2削減」が顧客課題であると気づきました。そこで、他社と共同開発でラインナップを広げ、エアコンプレッサ等を取り入れた熱電ソリューションの提供を開始しました。新たな収益源の獲得により、売上が10倍に伸びました。更に顧客理解が深まり、省エネには節水が重要ということで、M&Aにより水処理機器をラインナップ、現在では工場トータルソリューションを提供しています。
 
まさに、顧客接点深堀アプローチを実践し、「収益の多様化=新しい収益源を生み出す」と「収益の再生産=収益源から収益・利益を獲得する」を実現しています。

【図4】顧客接点深堀アプローチ

業際を繋ぐエコシステム俯瞰アプローチ

エコシステム俯瞰アプローチは、自社を中心に事業を構成する関連プレーヤーを整理することから始まります。関連プレーヤー間で、どのような取り引きが行われ、どのようにお金が動いているのかを把握することが重要ポイントとなります。
 
テスラは、現在減少傾向にあるものの、他自動車メーカーに排出権クレジットを売却して多額の収益を得ています。(クレジット収入には売上原価が存在しないため、収益=利益となります。)排出権クレジットとは、基準以上のCO2を排出する企業が基準以下の排出企業から買い取る排出枠のことです。テスラ車はEVで走行中にCO2を排出しないため、CO2を排出する枠を持っています。そのため、テスラは他の自動車メーカーに対する排出権クレジットの売却収益があります。
 
テスラは、車ビジネスを取り巻く制度を活用し、競合企業から収益=利益を得ることで黒字化を図りました。近年は、排出権クレジットの売却は縮小していますが、その間にコスト削減を図り、売却収益がなくても黒字化を実現しています。
 
このようにエコシステム俯瞰アプローチでは、自社ビジネスの事業環境や規制・制度をベースに、関連プレーヤーからもお金を取り、収益化・利益化を追求します。

【図5】エコシステム俯瞰アプローチ

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