新規事業開発の最大のカベは社内にある
と断言できるこれだけの理由
情報収集力に優れた「目の肥えた顧客」に対し、十分な付加価値を持った新たなビジネスモデルを構築したり、強力な競合である外資企業よりも優位な差別化ポイントを確立した事業を創出する難易度が高いのは容易に想像ができると思います。
しかし、我々がコンサルティングの現場でより多く目の当たりにするのは、意外にも企業内部のカベにより新規事業立ち上げに失敗するケースです。
外との戦いに勝ち抜かなければならないにも関わらず、内のカベのなかで、Plan:検討、Delay:遅延、Cancel:中止、Apologize:謝罪という日本型PDCAを繰り返しているのが、日本の大企業の新規事業立ち上げの実態です。
本記事では、新規事業のローンチを阻害する社内の『5つのカベ』について対応策を含めご説明します。
1.判断と責任のカベ
そもそも新規事業は「千三つ」と言われ、あらゆる視点からスクリーニングをかけ続けても成功する保証はありません。ある程度の適切なスクリーニングの範囲内であれば検討する人の趣向性や思いに左右される場合も多くあります。そのような案件を広く経営陣で判断するのは困難であり、また経営陣の多くは既存のビジネスモデルで成功し成果を挙げた人材で、既存のやり方に対する思いが人一倍強いパターンが多く、偏った判断になる場合もあります。
よって新規事業の判断と責任は、社長もしくは最終決定権限を与えられた限定された経営陣で判断し進めていくことが最も重要です。
また現場からも、責任者をその気にさせるために以下の情報提供を継続的に実施する必要があります。
- 夢と恐怖をカネで明示化する
ビジネスモデル変革・新規事業を実現すると、競争者に打ち勝ち売上・利益をどれだけ増やせるか。
また、実現しないと売上・利益がどれだけ減るかを明示化する。 - 顧客の動向、競争者の動向を常にアップデートする
- 社員から支持され、働き方改革に寄与するものであることを示す(社会への貢献、会社の成長、生産性向上、個人の成長)
2.柔軟性のカベ
新規事業開発では、方向性の仮説をもとに仮説検証型で進めていくことが効果効率的ですが、新規の市場や新規の技術等なんらかの新規性について検討していくため、仮説の誤りが明確になったり、検討中に競合他社の参入や新商品・新サービスの発売、アライアンス先の意向変化、市場環境の悪化等環境変化が発生し、スピーディな方向転換が必要になる局面が数多くあります。
このような状況下において、間違いの修正や変更は悪ではなく、最も恐ろしいのは対応スピードの遅れです。通常の企業の報告・上申プロセスを都度通していては、そのための資料作成に忙殺されることも併せて、致命的な対応の遅れを招く場合があります。
よって、新規事業担当者にはプレイングマネージャーとしての権限を与えるとともに、責任者である経営者とのダイレクトルートの確立が必須です。またチームメンバーに対し、「朝令暮改は当たり前」という風土作りも重要になります。
【図1】よりスピードを増して変化している世界の新規事業開発
3.組織・評価のカベ
大企業において新規事業プロジェクトを担当するミドルクラスの方々と会食し、胸襟を開く状況になると、「稼いでいる既存事業部隊から遊んでいるように見られている」とか逆に「こんなに難しい仕事をしているのに既存事業部隊の業務をやっている人のほうが評価が高いのは納得いかない」といった本音をよく聞くようになります。
当然ですが、0→1を作る新規事業開発業務と100→200にする既存事業の業務は大きく異なります。
『失敗し続けること=挑戦』と捉えることができ、好奇心旺盛で発信・受信力が高い人材を中心に部隊を構成し、既存事業とは場所も評価も分けて検討・立ち上げを実施していき、事業としてある程度確立した段階で既存事業と融合させるべきです。
また、現場側でもカベを乗り越えるために「巻き込み」の動きを継続的に実施することが重要です。具体的な取り組み例としては、以下のようなものがあります。
・新規事業の拠点をつくりハブとして活用し、自由に社員に新規事業に触れてもらう
・社内外メディアへの高頻度発信
・社内会員制度
このような取り組みによって会社全体に新規事業への理解を浸透し、気運を高め推進する力としていくことが重要です。
【図2】出島で立ち上げ、確立してから融合を図る新規事業
4.予算のカベ
計画通りに売上・利益を達成できる新規事業は多くありません。
泥臭く営業を重ね、何度も壁にぶつかりながら提案の切り口を練り直したり、ターゲット顧客の声からのフィードバックを元に製品・サービスを改良し、何とか芽が出てくるものです。
しかし経営側は、短期間での投資回収や無理のある事業計画を達成することに固執しすぎ、達成できないとすぐに投資を絞るケースがよく見られます。事業なので当然計画立案とそのモニタリングは必要ですが、新規事業の場合は、より長期的な視点でその事業の意義や社会課題解決への適応可能性の観点を重視し、社会課題に寄与する価値があるものについては現場に対し夢を語りながら投資を続ける覚悟が必要です。
日本企業では本業の利益の一定の割合をM&Aに活用するという考え方は少しずつ定着してきていますが、同様に利益の一定の割合を芽の出ていない新規事業に投資し続けるという考え方を持つ必要があります。
また日本の大企業では新規事業の原資を自社で賄うという発想が常識化していますが、当社の関係する企業でも他企業との共同会社設立により、300億を超える資金を調達した事例もあり、社外からのマネタイズも広く考えていくべきです。
5.業務難易度と経験のカベ
そもそも新規事業開発の業務は未経験の市場・未経験の顧客・未経験の競合等、未経験だらけの中で事業を作り上げていく難易度の高い業務です。
当社が過去に国内企業の新規事業担当者に対し実施したアンケートでも、
-進め方・方法論が分からない
-未経験の他業界についての知見が浅すぎる、また当該業界にネットワークがない
-市場動向のサイクルが早すぎてキャッチアップできない
-既存の技術、マーケットの枠を超えた発想ができない
-客観的な視点で有望用途の判断や事業自体の有望性判断がしにくい
-机上の空論で議論が止まりがちになる
といった現実的な悩みが多く抽出されます。
とはいえ、まずは自社内リソースだけでやってみろとの指示のもと、やってみたが1年後に何も進んでいない、と相談を受けるケースが見受けられます。
「業務改革やシステム構築には外部コンサルを活用するが、事業は自社でやるもの」という経営者からのコメントをいただくケースもいまだにありますが、現在の市場環境は目まぐるしいスピードで変化し、顕在化したニーズに応えれば事業が立ち上がるような市場はほとんどない成熟化市場で、GAFAMを中心としたグローバルディスラプターにより市場再編のリスクをあらゆる事業が持っているという厳しい事業環境下におかれています。
そのような状況下では、新規事業の立ち上げに外部パートナーを活用することは必須と考えます。当然すべてを丸投げすべきではなく、期待する価値を『客観性』・『スピード』・『事業内容の精錬化』の3点に絞り、日々カベ打ちの相手として進めていくことでスピーディかつ効果効率的な新規事業立ち上げができると考えます。
【図3】自前主義から外部活用へ
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この記事の執筆者
職種別ソリューション