2026年こそAIエージェントの本格展開
~成功の鍵は「ワークフロー型」~
◆この記事の要約
本記事では、経理業務にAIエージェントを展開するための考え方として、「ワークフロー型AIエージェント」を解説します。会計数値の正確性を守りながら、自動化を実現するポイントと導入ステップがわかります。
- 「決定論的処理」と「非決定論的処理」を分離し、AIに数値を任せない役割分担で正確性と効率化を両立
- AIの「自己評価」と「ゲート設計」により、信頼度に応じた再実行・エスカレーションを制御し、Human-in-the-Loopで運用品質を担保
- フェーズ0〜3の導入ロードマップ(パイロット導入→最適化→現場主導の改善サイクル)と、製造業A社の適用事例から成功要因を整理
そこで本記事では、こうしたジレンマを解消する新たなアプローチ「ワークフロー型AIエージェント」をご紹介します。AIとRPAのようなワークフロー処理の長所を組み合わせ、効率化をしつつも、正確性も担保する。そんな賢い自動化を実現するためのポイントと導入ステップを具体的に解説します。
経理業務に適したAIエージェントとは
生成AIの登場により、人間が自然言語で指示した内容をもとに「質問回答」「文章作成」「画像作成」「コーディング」などをAIが文字・画像情報として出力できるようになりました。その結果、一般社会のみならず、ビジネスの現場においても大きな利便性と生産性向上がもたらされています。
こうした流れの中で、新たなテクノロジーとして登場したのがAIエージェントです。
2025年は「AIエージェント元年」ともいわれ、注目が急速に高まっています。
AIエージェントは、生成AIのように指示に対して回答するだけでなく、自律的に考え、判断し、実行するという特徴を持ちます。本格的な導入が進めば、生成AIを大幅に上回る生産性の向上が期待されます。
AIエージェントが登場し、具体的なユースケースが生まれ始めた今こそ、各社が生成AIを業務にどう活用できるか試行したように、AIエージェントについてもまず1つ取り組んでみることが重要だといえます。
実際に使ってみることで、どこまで業務に適用できるのか、実力値を肌感覚で理解することができます。
【図1】生成AIからAIエージェントへの進化
現在、AIエージェントには2種類に大別されるといわれています。
1つ目が「エージェント型」と呼ばれるもので、LLMが目的に応じて、各種プロセスやツールを自律的に判断し、環境や人からのフィードバックを活用しながら、タスク遂行を制御するシステムです。解決手順の読めない非定型で、複雑な業務との親和性が高いとされます。
2つ目が「ワークフロー型」で、拡張LLMと各種ツールが、あらかじめ定義されたプロセスに沿って連携するシステムです。処理手順が明確な定型業務との親和性が高いとされます。
【図2】AIエージェントの種類
数値の正確性が絶対の計算や転記はワークフロー処理に。そして書類の解釈やフォーマットのズレを吸収するのはAIに。この賢い役割分担こそが、経理業務を効率化しつつ、かつ会計の数値の正確性も担保する、経理業務へのAIエージェント活用の現実解といえるでしょう。
経理AIエージェント設計の4原則
「ワークフロー型AIエージェント」を成功させるためには、闇雲に導入するのではなく、明確な設計思想を持つことが不可欠です。特に重要となる考え方は次の4つです。
1.AIに数値を任せない(決定論と非決定論の分離)
会計数値の正確性は、経理部門の生命線です。数値の転記や集計といった「答えが一つに決まる作業(決定論的処理)」は、ワークフロー処理やスクリプトで厳格に管理します。一方で、請求書の解釈や勘定科目の推定といった「曖昧さを含み、判断が求められる作業(非決定論的処理)」をAIの役割とします。この明確な線引きが、統制と効率化を両立させる第一歩です。
2.フォーマットが変わっても止まらない設計
RPAでワークフローを組んでいても止まってしまう業務を任せきれない原因は、処理の「決め打ち」にあります。これに対し、AIは「本来ここにあるはずの『合計金額』は今回はこの位置だ」といったように、一定の揺らぎを吸収できます。この特性を前提に設計することで、処理変更に耐えうる「止まらない自動化」の実現につながります。
3.AIが迷ったら人に返す仕組み
現在のAIは万能ではありません。その不確実性を前提に、「判断の信頼度が低い場合は、無理に処理を進めず、人にエスカレーションする」仕組みを組み込むことが極めて重要です。これにより、誤処理のリスクを抑制し、安心して運用できる自動化基盤を構築できます。
4.業務部門がAIを育て続けられる民主化
AIエージェントは、一度作って終わりでは価値を発揮しません。ビジネス環境の変化に応じて、現場の業務部門が主体となり、継続的に改善できる仕組みが理想です。近年では、AIエージェントの構築や修正そのものに生成AIを活用することで、専門家に依存せず改善を続けられる環境が整いつつあります。
AIの「自己評価」が運用品質を高める
AIエージェントの導入時によく挙がる懸念の一つが、「AIが誤った判断をしたらどうするのか?」という点です。この不安を解消する鍵が、AI自身に判断の妥当性を評価させる「自己評価」と、誤判断時に処理の継続を防ぐ「ゲート設計」です。
「自己評価」には、主に2つの役割があります。1つ目は、ゲートに到達する前に判断の妥当性を自己評価させることで、判断精度そのものを高める点です。2つ目は、自己評価を信頼度として数値化し、その結果に応じて再実行やエスカレーションを制御できる点です。
「ゲート」の役割は、仮にAIが誤判断を行い、再実行された場合であっても、ゲートにおいて処理結果の妥当性を検証することで、次工程への進行を確実に防ぐことができます。
このように、「AIも時に間違う」ことを前提として業務プロセスを設計することで、自動化の適用範囲を拡げつつも、最終的な品質は人間が担保する(Human-in-the-Loop)体制を実現できます。この人とAIの適切な役割分担こそが、経理業務におけるAI活用の要諦です。
【図3】決定論/非決定論と自己評価の考え方
失敗しない導入ロードマップ
これほど高度な仕組みを、いきなり全社に展開するのは現実的ではありません。着実に成果を上げるためには、段階的に導入を進めるアプローチが有効です。
・フェーズ0:業務の分解と「役割分担」の定義
まずは、対象業務のプロセスを分解し、「正確性が求められる数値処理」と、「解釈や判断をともなう曖昧な処理」を切り分けます。この初期設計こそが重要です。
・フェーズ1:パイロット導入で「止まらない」を体感
次に、フォーマット変更が頻発する特定の業務に絞り、ワークフロー型AIエージェントを試験導入します。ここで「変化に強い自動化」を実際に体感し、従来は発生していた保守・運用工数が削減されることを確認します。
・フェーズ2:「人に返す」仕組みの最適化
パイロット運用を通じて見えてきた課題を踏まえ、AIが人にエスカレーションする基準を調整します。返しすぎれば人の負荷が増え、返さなすぎればリスクが高まります。このバランスを最適化することで、運用品質を段階的に高めていきます。
・フェーズ3:現場主導の「改善サイクル」を回す
最終的には、業務を最も理解する現場担当者自身が、軽微な修正や改善を行える状態を目指します。これにより、外部の専門家に依存することなく、ビジネス環境の変化に即応できる、持続可能な自動化基盤が完成します。
最後に、「ワークフロー型AIエージェント」を導入し、成果を上げた製造業A社の事例を紹介します。
A社では、複数の部門・拠点から集まるExcelデータを集計し、経営層へ報告するまでに多大な工数を要していました。というのも、月次で行・列の追加や項目名の変更が発生するため、従来のRPAはその都度停止し、手作業での対応やRPAの改修が常態化していました。この「フォーマットの揺らぎ」が、業務効率化を阻む最大のボトルネックとなっていたのです。
そこでA社は、本記事で解説した「ワークフロー型」のアプローチを採用しました。数値の転記や集計といった正確性が絶対に求められる処理は、ワークフロー処理やスクリプトで厳格に管理する一方で、入力様式の解釈や取得すべきセル位置の推定といった「変化を吸収すべきプロセス」にAIを組み込みました。
その結果、多少のフォーマット変更や項目の揺らぎが生じても、AIが柔軟に解釈して処理を継続できるようになり、月次業務がRPA停止によって滞る事態は大幅に減少しました。A社では、「業務の自動化が止まらない」仕組みを実現したことで、保守対応などに追われていた工数を、本来注力すべき分析や業務改善へ振り向けられるようになっています。A社の成功は、単に高性能なAIを導入したからではありません。「決定論と非決定論の分離」「変化を前提とした設計」「AIが迷ったら人に返す仕組み」といった、業務と統制を深く理解した設計思想があったからこそ、達成できた成果です。
【図4】AIエージェントの実装イメージ


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この記事の執筆者
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田中 貴大DX・ERP事業部 副事業部長
マネージングディレクター -
木村 祐也経営管理事業部
マネージャー
職種別ソリューション





