生成AIによるグローバルナレッジマネジメントの実践
知識やノウハウという形にしづらい知的資産を、組織内で共有するためにはどうしたらよいのでしょうか。本記事では、生成AIを使ったナレッジマネジメントについて、当社での実践事例も含めてご紹介します。
「現場」の情報共有をグローバル競争の武器に変える
「現場」の情報やノウハウを、組織や地理的な境界を越えて共有することは、企業にとって最重要課題のひとつと言えます。営業の「現場」では、勝ちパターンの提案事例、ターゲティングのコツ、対面での気の利いた会話内容や機を得たネクストアクション等の成功事例を共有できれば、トップセールスマンだけでなく、営業チーム全体の底上げにつながります。生産の「現場」では、熟練工のノウハウを共有することで、品質や歩留まり、生産性の向上やコスト競争力を高めていけます。お客様窓口やコールセンターでの「現場」では、大量の情報を効率的に開発者へフィードバックすることができれば、商品機能やパッケージングの改善、新商品の開発にも活用できるはずです。さらに、サービス業のようなお客様接点が決定的要因となる「現場」においても、上手くいった応対だけでなく失敗例も含めた事例やノウハウの共有は、お客様の満足度やロイヤルティの向上へとつながります。
日本企業にとってその強みである営業、生産やお客様応対等の「現場」情報やノウハウを、国内のみならず海外進出先の営業や生産の拠点であるローカルの現地社員との間で、距離、言語、時差を超えて共有することは、グローバル市場での競争力をさらに高めてくれる武器になるに違いありません。
また、大企業だけでなく中堅・中小の企業にとってこそ、こうした「現場」の情報共有が生き残りの条件となるに違いありません。
これまでのナレッジマネジメントの障害
ナレッジマネジメントは、これまでも様々な取り組みがされてきましたが多くの障害がありました。
大別すると以下の3点ではないかと考えます。
(1)アクセスの問題
(2)プレゼンテーションの問題
(3)コンテンツの問題
1つ目のアクセスの問題というのは、情報、知識、ノウハウに、いかにスムースにたどり着けるかという問題です。非デジタルの時代には、ライブラリーや資料室へ出かけて行き、インデックスを使いバインダーにたどり着き、そこからパラパラ読みをするのが通常でした。デジタル化とインターネットにより、情報自体へのアクセスは飛躍的に改善したのですが、フォルダーシステムと検索エンジンだけでは、得たい情報やノウハウを探すには手間がかかります。
2つ目のプレゼンテーションの問題というのは、たどり着いた知識がどのような表現形態になっているかです。検索エンジンが引っ掛けた情報は、知りたい答えがプレゼンテーションされているわけではなく、掲載されたまま、あるがままの状態でプレゼンテーションされているということです。言わば情報は提供するので、答えは自分で考えてということになります。
3つ目のコンテンツの問題というのは、暗黙知を形式知にする、デジタル化する、再利用可能な様式にするといった整備作業に膨大な労力がかかるということです。
【図1】これまでのナレッジへのアクセス
生成AIを使ったナレッジマネジメント
2022年にChat GPTが公開されてから、日本企業でもメール文章や議事録作成等に生成AIが広く使われてきています。より技術的にも高度と言えるユースケースとしては、LLMのファインチューニングや追加学習によって固有モデルを作成し、創薬研究や広告クリエイティブ制作、アパレル製品のデザインやコンピュータプログラムの自動生成等に使われ出しています。
ナレッジマネジメント的なユースケースも増えてきていますが、次項では当社での実践事例をご紹介したいと思います。
当社実践事例:Insight Engineの概要
当社が行っているコンサルティングビジネスでは、お客様に対していかに広い視野を持ち、かつ、経験に根差した実現可能な提案をできるかが鍵となります。また、実際のプロジェクト活動は、100以上のチームが自社オフィス、お客様先や自宅リモートといった場所で地理的分散して行われています。
過去の提案内容、お客様の課題やプロジェクトを上手く進めるための知識やノウハウを広く共有することが、キャリアの長短に関わらずコンサルタントひとりひとりの価値を高め、かつ、生産性を上げるための重要な施策となります。
こうした背景のもと当社が構築したのは、AWSの生成AIサービスであるAmazon Bedrockと、拡張検索エンジンのAmazon Kendraを用いたInsight Engineという名前の生成AIシステムです。
LLMをファインチューニングして固有モデルを構築するのではなく、BedrockのLLM(Anthropic Claude)はそのまま使用し、拡張検索エンジンと組み合わせて自社で格納した社内外の有用なコンテンツからプロンプトに対する回答を生成します。
LLMのファインチューニングではなく、拡張検索を選択した理由は以下になります。
- アノテーション済みの大量学習データが不要で、ドキュメントをそのまま格納するだけで済む。
- 将来のLLMのバージョンアップにも対応できる。
- 初期投資がほとんどかからず、短期間で検証とサービスインが可能。運用負荷も低い。
加えて、AWS Serverlessアーキテクチャをベースとして、APIやクローリングツール等を用いることで、およそ2ヶ月という短期間で実稼働サービスを構築できました。
従来のナレッジマネジメントツールであるフォルダー+全文検索やGoogleのようなインターネット検索エンジンに比べて、Insight Engineはコンサルタントが知りたい答えをストレートに返してきます。
例えば、「〇〇社へこれまでに提案した事例をあげて」というプロンプトには、約5万件の提案書や報告書の中から提案事例を元文書へのリンクとともに返してきます。
「〇〇社や同業者が取り組んでいる課題と実践事例は何か」というプロンプトには、外部ドキュメントの中期経営計画書や調査資料等をソースとした答えが返ってきます。
LLM自体はプロンプトを学習しない、回答範囲が格納ナレッジに閉ざされている、表形式データは抽出できないことや、プロンプトの品質に依存するといった制約はありますが、ハルシネーションが起きづらく、コンテンツの機密保持やアクセスセキュリティ等の対応も図れています。
【図2】Insight Engine概要図
さらなる展開に向けて
冒頭、生成AIを用いたナレッジマネジメントを日本企業のグローバル化の武器にすべきと述べさせていただきましたが、当社では海外の独立系ローカルコンサルティング会社8社と業務提携をしています。
【プレスリリース】日本発・独立系コンサルティングファームのレイヤーズ・コンサルティングが 「レイヤーズグローバルネットワーク」を構築
守秘義務等の対応は当然必要ですが、もし各社に同様のツールを導入し相互利用ができたとすると、コンサルティング現場の情報共有は世界レベルに広がります。当然、英語のみならず言語の壁は生成AIにはありません。また、当社事例のようなコンテンツだけではなく、営業活動報告、生産現場での品質、作業改善のためのメモ、取引履歴、コールセンターでのお客様応対記録のような内部コンテンツ、標準仕様書や判例集のような外部コンテンツ等を対象とすることで様々なユースケースへの展開が考えられます。
日本企業にとってAIを活用したイノベーションは喫緊の課題であると言えます。グローバルに事業展開している大企業だけでなく、これから新たな市場を創り出していくべき中堅・中小企業でも同様です。
生成AIに限った話ではありませんが、着眼大局・着手小局という考え方で、早期に取り組むことが必要です。レイヤーズでは、AI活用やDX推進という領域におきましても、お客様の真の課題を見極めオーナーズコンサルティングの立場から、伴走型でのコンサルティングサービスをご提供いたします。
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この記事の執筆者
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