全社DX・データ活用のためのデータ統合基盤立上げのポイント
~よくある困り事と実践的処方箋~

安価で多機能なクラウドの普及とDXの必要性を受けて、データ統合基盤を構築する取り組みが広がっています。技術面・コスト面で構築のハードルが下がる一方で、ビジネスの現場での活用には課題があり、DXの目玉として掲げたもののプロジェクトが止まっている企業が多数存在します。
今回は、全社DX・データ活用のためのデータ統合基盤立上げのポイントをご紹介します。

データ統合基盤ブームの到来

ここ数年、DXの取り組みの一環で、企業のシステムの中核にデータ統合基盤を置くケースが増えてきました。データに基づいた分析・予測から意思決定を行う事や、新たな課題の発見、真因の究明、さらには新たな顧客価値の創造までもが期待されています。また情報システム部等のシステム管理者にとっても、サイロ化・スパゲッティ化・老朽化したシステム群への解決策として、期待をされています。
そのため、DX戦略実現における目玉として、このデータ統合基盤を掲げている企業も多いのではないでしょうか。

本稿では、データ基盤の活用について、陥りがちな失敗ケースも交えながら、進め方を紹介していきたいと思います。

【図1】データ統合基盤とは?

ITとしては成熟。しかし活用は手探り。

2021年11月にIPA(独立行政法人 情報処理推進機構)が発行し、2022年4月に更新版が発表された「DX実践手引書 ITシステム構築編」において、データドリブンな経営を支える一例として、データ基盤を中心に置き、データの活用を行うシステム構成が示されました。

近年、AWS/GCPといったクラウドサービスから、データ統合基盤構築のためのツール・サービスが数多くリリースされたことで、基盤構築自体のハードルは下がりました。また開発ノウハウについても、個人や会社から書籍やWebサイトとして多数公開されており、用途に応じた使い分けやベストプラクティスに関する情報が揃っています。

その一方で、構築したデータ基盤を何の実現のためにどう使うか?どのように活動を立ち上げ、どう活用していくか?というユーザー企業側の方法論については、まだまだ手探りの状態が続いており、次に紹介する企業と同じ悩みを抱える方も多いのではないでしょうか。

【図2】データ統合基盤構成のベストプラクティス

【事例】大手部品メーカーA社担当者の悩み

大手部品メーカーA社では、昨今のデータ活用に対する機運の高まりを受けて、データ統合基盤のプロジェクトが発足。業務・システムの両方の部門でチームが構成された。しかし、最初の企画構想の段階で、業務部門から小さな現場改善・工数削減程度の使い道しか出てこず、さらに、一部の出てきた案に対しても、「うちの本部は欲しい情報は特に無いのに、データ提供は必要となる。これではメリットがない」と消極的な態度を取られてしまった。そのためプロジェクトは遅々として進まなかった。
しびれを切らしたシステム部門が「まずはPoCからだ」と、トライアル的にデータ基盤を構築。主要なデータを繋いで見える化をしたが、その後、業務側からは追加データの要望も無く、結局使われないまま終わってしまった。
このプロジェクトの一員だったシステム部門の担当者は、「DXができている会社は、データ基盤を活用する世界が見えているのかもしれないが、うちみたいなモノづくりしかやってこなかった会社は、基盤を作る意味も分からない人が多く進まない」と嘆いていた。

タスクフォースで検討しても進まず、PoCをしても進まない。A社はどのようにデータ統合基盤のプロジェクトを進めたらよかったのだろうか?

課題を抱えるのはA社だけではない

当社は多数のシステム部門、経営企画部門、役員の方々とお会いし相談を受けていますが、同様の問題を抱えているのはA社だけではありません。
「統合基盤の構築を検討しているが、業務側の企画構想が進まない」、「統合基盤の構築が終わったが、その後、十分に活用されていない」、「ベンダーもそこまではサポートをしてくれない」といいった課題や悩みをよく耳にします。

データ統合基盤はデータを用いたイノベーション創出

そもそもデータ統合基盤は、ある目的のために各部・各システムに散らばるデータを、部門を超えて掛け合わせて、新たな価値を生むことに意味があります。ここでいう価値とは、データから課題に気づいたり、解決策を思いついたり、業務が変革されることを指します。自部門内やよく知る隣の部署のデータを掛け合わせても、新たな価値は生まれません。

古くはシュンペーターが、最近では早稲田大学大学院教授の入山 章栄 教授がイノベーションに関して言及するように、これまでにない新しい知の組み合わせ、それも遠いところを掛け合わせるからこそ、これまでの延長線では出せなかった価値や他社では出せない競争優位が生まれるのです。これはデータであっても同じです。

例えば、業務上距離のある開発と営業・サービスが、共通の目的のもとでお互いのデータを共有し、掛け合わせて全社課題やユーザ課題に取り組むことで、初めて他社にはない競争優位が生まれるのです。

A社における失敗の原因は、部署を集めたら各部が勝手に使い始めるだろう。箱を作ったら成果が出るだろう。と目的もなく、烏合の衆のチームを立ち上げたところにあります。

データ統合基盤はあくまでも手段。全社の課題や目指すべき方向から、目的を共有したチームを立ち上げる必要があります。

各部門が協力できる共通の目的とは?

それでは、これまで壁があった遠い部門同士が協力して取り組める「目的」とはどんなものでしょうか?

多くの日本企業の全社課題ともなれば、結局はQCDの何れか関わる場合が多いでしょう。「D:納期」であれば、開発・製造のデータを基盤に集めて、リードタイム短縮やプロセス改善を行うことや、「C:コスト」観点でライフサイクルコストの基盤とするなどが考えられます。当社としては、中でも「Q:品質」に関するテーマを設定するのをおすすめしています。

【図3】品質データを活かしたデータ活用イメージ

特に製造業であれば、その1丁目1番地は「品質」ということに、異論はないのではないでしょうか。他部門の業務改善のためとなると非協力的な部門であっても、自社の品質のため、ひいてはお客様のためとなると、部内で品質向上のためのデータ活用案はないかを考え、基盤へのデータ提供も快く承諾してくれることでしょう。
加えて、品質がテーマであれば、ほぼすべての部門が関わり、全社活動として始め易いという利点があります。
この全社が関わり、全員が賛成できる「品質」を目的に掲げ、品質問題・品質向上のためのデータ格納・データ活用を始めてはいかがでしょうか。

今回は、全社DX・データ活用のためのデータ統合基盤立上げのポイントをご紹介させていただきました。詳細については是非お問い合わせください。

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この記事の執筆者

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