DXを拒む経路依存性の罠

日本の大企業ではなかなかDX化が思うように進んでおらず多くのご相談をいただきます。プロジェクトが組成されて実際にクライアント様の企業に入っていくと、何故上手くいかないのか、その大きな理由が「経路依存性」でした。昔ながらの風土、制度、業務に囚われてしまって変革が思うように進まないのが今の日本企業の実態です。
今回はDX化を順調に進めている企業の事例も交えつつ、DX成功のためのポイントをご説明させていただきます。

インターネットがもたらした革新とAIがもたらす革新

ソフトバンクの孫さんが決算発表会の場で説明していた内容ですが、インターネットは広告業界と小売業界に革新をもたらしました。その結果GAFAが大きな存在感を持つようになりました。ただアメリカのGDPのうち、広告と小売では、たった7%で1兆ドル規模となります。今後はAIの時代で、AIはどの産業に革新をもたらすのか、それはすべての産業に革新をもたらします。規模は19兆ドルになります。AIは需要予測などに代表される「推論」に強みがあり、その推論をさらに強化していくためにモノとモノの通信(IoT)が非常に重要となってきます。モノづくり日本においては非常に大きなチャンスになります。

【図1】インターネットとAIがもたらした革新

なぜ日本の大企業のDXは上手く進まないのか

AI、IoTによる大きなチャンスが到来しているにもかかわらず、日本の大企業ではDX推進が思うようには進んでいないようです。DX推進室も作り、全社一丸で進めていくという号令もかかっているのに、思うように成果に結びつかないということで、多くのクライアントから相談を受けております。なぜDXが上手く進まないのでしょうか。原因は一言で言えば『経路依存性(過去の経緯や歴史によって決められた仕組みや出来事にしばられる現象)』です。VUCAの時代で、大きく日々変わっているにもかかわらず、昔ながらの制度、仕組み、文化、風土のままで、機能不全を起こしてしまっているのが今の日本の大企業の実態です。

高度経済成長期で家庭にはまだまだモノが十分に行き届いていない時代で、企業の役割は広く国民にいいものを安く共有することが求められ、世の中では「役に立つもの」が求められていました。よって企業は、大量生産、徹底した効率化、機能的に同質化した製品の提供という戦略で成長・拡大してきました。しかし、大きく時代が変わりました。モノであふれて、地球環境問題が注目されて、企業の役割は社会課題の解決が求められ、役に立つものではなく、「意味のあるもの」が求められるようになりました。にもかかわらず、戦略は以前のままで、アンマッチを起こしている状態です。経路依存性を打ち破れずに昔ながらの文化、制度、業務のままのため、DXが推進されない状態になってしまっています。

【図2】経路依存性からの脱却

価値観、社風、人財、スキルの変革が重要

経路依存性を打ち破り、DXを推進していくためには、「企業変革」が重要となってきます。McKinsey & Company, Inc.が開発したMcKinsey 7S frameworkで説明されるハードの3S(Strategy/Structure/System)の戦略、組織、システム・制度は、実は各社取り組まれております。DX戦略を掲げて、DX推進室をつくり、そのための評価制度なども変えたりしています。短期的に手が付けやすく、目に見えて、わかりやすいので各社取り組まれているようです。しかし、DXは思うように推進していないという結果になっています。

大切なのはソフトの4S(Shared Value/Style/Staff/Skill)の価値観、社風、人財、スキルになります。DXを使ってどのように社会を変えていくのか、DXを活用していく風土、そしてDXスキル、そしてDX人財そのものが重要になってきます。しかし、ハードの3Sに比べて、ソフトの4Sは時間もかかり、手間もかかります。どうしても手を付けづらくなっているのが各企業の実態かと思います。そこで成功している企業においては、「出島組織」を作って推進しております。今までの価値観や社風に捕らわれず新たな価値観、社風で推進できる出島組織で、DX人財を調達し、今までの評価制度や報酬制度のしがらみに囚われず推進して成功しています。

事例:製造業A社におけるDX推進

製造業A社は、国内シェアトップであるものの、社内において慢心があり、健全な危機感がなく、成長意欲が落ちているという経営トップの懸念があり、成長市場にシフト、新規事業にシフトしていく必要がある、ということでお声がけいただいて支援をさせていただいた事例です。

大きな課題は新規事業にシフトしていくためにもDXを活用していく方向性は出ていたものの、社内にDX人財も不足しており、DXに関するスキルも不足しておりました。

新規事業にシフトしていくためにも、「余力」を創出するために、業務改革からスタートして、その際にデジタルテクノロジーを活用して、従業員にDXに慣れることも狙いに入れて取り組みを推進しました。RPAやワークフローなどはもちろん、HRTech、BIツールなどを取り入れていきました。

ひとつ具体的な内容をご紹介しますが、グループ経営情報(計画・実績・見込情報)における業務プロセスは、Excelによるバケツリレーで、エクセルシートもスパゲッティ状態で、複雑な構造となっておりました。本社コーポレート部門からエクセルが各社、各部門に配布され、そのエクセルシートに現場で管理している資料から転記して入力し、それを回収して集計し、元DBを本社にて作成しておりました。そして各会議用に都度フォーマットを変えて資料を作るということが行われておりました。そこで、BIツールを活用することを決め、クラウド上に必要情報を一元管理し、各現場でどんな切り口でもリアルタイムで情報を視られるように改革を進めました。今までの情報を作るところに時間をかけるのではなく、意思入れや意思決定のための議論に時間を使うことに大きくシフトすることができました。

【図3】グループ経営情報の業務プロセス改革

DXの3領域

当社が考えるDXの3領域として、業務改革DX、事業変革DX、価値創造DXがあります。

【図4】DXの3領域

DXを成功させていくためには、上から順に進めていくことが重要となります。しっかりと業務改革においてデジタルテクノロジーを活用して社内の共通価値観、社風、人財、そしてスキルを高めていき、次に既存事業においてもオンライン受発注やデジタル設計などデジタル化し、社内でDX化に慣れていく必要があります。そしていよいよ新規事業に進めていくという順番が重要です。もちろん、スピード重視という時には「出島組織」の活用なども取り入れていくことも重要となります。

製造業A社においては業務改革においてDX化を推進し、オンライン受発注など一部既存事業のDXに取り組んでおり、社内のDX風土醸成、人財獲得、スキルの習得・向上が進んでおります。今後、いよいよ新しい価値を提供していく新規事業へのDX活用に取り組もうとされております。

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