ベンダーロックインとは?
~DX化を妨げるベンダーロックインの実態と対処法~

自社のシステムなのに、思うようにリニューアルできない。HWやSWの更新・バージョンアップを除くと、ほとんど新しい提案ももらえず、中身は変わっていない。維持運用コストばかり掛かっていて、新規投資がほとんどできていない。
こうした状況に憂慮されているCIO、経営層、システム責任者の方々も多いのではないでしょうか。もしかするとベンダーロックインという症状かもしれません。

当記事では、ベンダーロックインの実態と対処法についてご紹介します。

DX化を妨げるベンダーロックイン

長期間に渡って自社基幹システムの保守運用を特定のベンダーに任せている企業は多いかと思います。5年ぐらい前までは、システム構築・運用の有望な選択肢として、システムやプラットフォームの設計・構築から5年先までの保守・運用を一括して契約される企業も多かったのではないでしょうか。そうした企業がDX時代の到来とともに直面している大問題が、ベンダーによる自社システムのロックイン状態と言えます。

プロプライエタリ(メーカー独自技術)な製品と、密結合でサイロになったシステムからは自由にデータを取り出すこともできず、あるいはDX化に活用できるデータ自体、蓄積されていない。ブラックボックス化してしまいベンダーも担当SEの交代もできない。何とか直そうとしても、さまざまな障害に突き当たる。それでも経営トップからはDX化を進めろと事ある毎に言われるので、POC(プルーフ・オブ・コンセプト)と称してできる範囲での対応を繰り返しているというのが現実ではないでしょうか。

ベンダーロックインの実態

一括契約の際、分厚い提案書の最初のセクションには、「常に最新の技術を提供します」、「貴社の経営に役立つ高付加価値なシステムソリューションを定期的に提案します」といった宣伝文句が散りばめられていたのではないでしょうか。ところがいつしか、「それは難しいです」、「コストがかかるのでやめておいたほうがいいです」といった対応に代わってしまい、5年後の契約更新時にも特段新しい提案もなく、プラットフォームの入替にかかる大量の検証・動作確認作業と、多少の追加機能開発を、高額な費用で提案される。そして何度か契約更新を繰り返しているうちに、いつの間にか自社システムのアーキテクチャやコアテクノロジーは時代遅れのものになっている。何故こうなってしまうのでしょうか。

【図1】ベンダーロックインがかかってしまう原因

SIやアウトソーシングを請け負う大手ベンダーにも、当然の理屈があります。まず提案や上流工程で登場するSEと、保守運用で長年常駐してくれるSEの所属部門やスキルは異なっていて、当然、保守運用には「守り」に長けたSEが配置されているはずです。またコストを抑えるために、下請け協力会社に再委託していることも多々あるかと思います。「守り」に特化した保守運用体制では、「最新技術の提案」も「経営に役立つソリューション提案」も難しいということになります。

では契約を奨めてきた営業担当はどうしているのでしょうか。毎年新しい案件のあるような大手ユーザを除けば営業担当の対応も弱くなります。ごく一部の大手ユーザに対しては、そのシステムやビジネスをよく理解した専任の営業担当がいて、毎年アカウントプランを作り、最新デジタル技術やソリューションを提案してきますが、それ以外の大多数のユーザ企業に関しては5年毎の契約更新が主な営業案件ということになります。できれば滞りなく5年毎に契約更新してもらうのが最も営業効率が良いということになってしまいます。

ベンダーロックインからの解放のための対処法

すべての企業、組織の経営にとってDX推進が最重要課題のひとつとなっている今、ベンダーロックインからの解放はどのようにしたら可能なのか、弊社のコンサルティング事例も踏まえながら述べてみたいと思います。

1.経営トップの問題意識

まず何よりも重要なのが、経営トップが問題意識を持つかどうかになります。中期計画にDX推進というキーワードを散りばめて、DX担当役員を社内外から任命したとしても、肝心の基幹システム自体がロックインされたままでは、思うようには進みません。成長の伸びしろがなくなった従来のビジネスモデルとそのモデルを支えている基幹システムに多額のコストを注ぎ込まざるを得ない状況から、新しいビジネスモデルやデジタル技術に投資の軸足を移すためには、まずトップ自身が強い問題意識を持って、発信していくことが求められます。

2.人材

これまで数多くの企業と接してきましたが、「守り」を最優先で求められる社内システム部門の自助努力・内部努力だけではベンダーロックインからの解放はなかなか難しいのではないでしょうか。解放を進めるためには、次のような新たな人材が必要となります。まず経営トップの特命を受けた解放プロジェクトのリーダーと、その片腕となるようなプロジェクトマネジャー。さらに新しい技術の信奉者ともいえるような社内の技術者です。必ずしも最初から高いスキルを持っていなくても、問題意識と意欲さえあれば学びながらでも構わないし、初めは数名しかいなくても計画的に増やしていくことは可能です。いまのデジタル技術は、技術自体がオープンなだけでなく、技術情報も習得機会もオープンになっています。モチベーションと機会さえあればいくらでも最新のスキルを身に着けていくことができます。

数年前のデータになりますが、日本にはIT技術者が100万人いると言われています。アメリカには400万人います。GDPで見た経済規模は日本の約4倍なので概ね同じような比率だとも言えますが、日本のIT技術者の70%以上がITベンダーに所属しているのに対し、アメリカでは35%しかいません。残りの65%はいわゆるユーザ企業等に所属しています。人数でみたら日本の約9倍となります。最先端の技術をベンダーでの挑戦的な仕事を通じて習得した技術者達が、先進的なユーザ企業でDX化を進める強力な原動力になっています。

3.外部活用:オーナーズコンサルティングとPMO

ロックインを解放し、DX化を加速したい企業、経営者にとって、外部活用、特にオーナーズコンサルティングは有効な対処法のひとつと言えます。オーナーズコンサルティングというのは、「特定のベンダーの紐付きではなく、オーナー、すなわちロックインから解放されたい経営者と解放リーダーを直接サポートする」コンサルティング形態です。特定ベンダー製品を導入するための前捌きや、決められた目次の報告書を作るといったコンサルティングとは異なり、経験・知見のあるコンサルタントが、検討や意思決定、推進作業を一緒になって進めていきます。初めて登る山に、同行して案内をしていくガイドのようなものと言えます。具体的には将来の自社システムに求められる要件、構想を一緒にまとめ、投資計画も作ります。個々の案件をRFP化し、最適なベンダーやソリューションの選定も一緒に行います。DX推進には、技術導入の内製化も重要なテーマとなりますが、不足する人材の採用検討も手伝うし、要請されれば評価、面接にも加わることもあります。こうしたコンサルティングを通して、ロックインから脱するとともに、この先10年にかかるIT費用を40%以上削減し、新たなデジタル技術・DX化への集中的な再投資が可能となったような弊社支援事例もあります。

解放に向けて自走できるようになった後は、プロジェクトマネジメントが重要になります。ロックインからの解放をきっかけとして、長らく封じ込めてきた案件が、一気に持ち上がり、いくつものプロジェクトやタスクが動き出します。各プロジェクトの推進もさることながら、最も重要なのは、プロジェクト間での整合性と統合化を図ることです。この役割を担うのがPMO(プロジェクト・マネジメント・オフィス)です。PMOというと、プロジェクト会議をアレンジする事務局的な機能と理解されている方も多いと思いますが、その役割は「統合化」でなくてはいけません。決して雑務係ではなく、極めて重要なプロジェクト機関のひとつと言えます。このように、当社が提供しているオーナーズコンサルティングとPMOの外部活用も、ロックインから解放されるための有効な対処法のひとつと言えるでしょう。

【図2】オーナーズコンサルティングとPMOの業務例

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この記事の執筆者

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