経路依存性の罠から抜け出す
~悪しき日本的経営との決別~

経路依存性の罠にはまり、変われない企業が多く見られます。どのように日本型経営が生まれ成功してきたのか、何故その日本型経営がうまくいかなくなってしまったのか、どうすれば経路依存性の罠から抜け出せるのか、具体的に製造業A社様の事例も併せて、ご紹介していきたいと思います。

衝撃の記事 2022年1月1日日経新聞7面

皆様は2022年1月1日の日経新聞7面の記事をご覧になりましたか。「成長の未来図」という特集の「成長・満足度 両輪で活力 閉塞感打破 北欧にヒント」という記事で、経済・社会指標を先進国平均/日本/米国/英国/フランス/ドイツ/デンマーク/フィンランド/スウェーデンを並べたものでした。経済・社会指標としては、経済の成長率/賃金の伸び/労働生産性/所得格差/貧困世帯の割合/教育への投資/男女の平等/社会の腐敗度/他者への信頼度/健康寿命/治安/失業率/幸福度が並んでおりました。

日本においては先進国平均よりも良いのは健康寿命/治安/失業率の3点だけでした。他の指標はすべて平均より下で、例えば経済の成長率であれば、先進国平均が2.24%に対して日本は0.73%と低い数字でした。また労働生産性は、先進国平均が58に対して日本は48であり、米国74、ドイツ66、と大きく差を付けられている状況です。その原因とも思える、「教育への投資」や「男女の平等」「他者への信頼度」も先進国平均よりも非常に低い点数となっておりました。1979年(昭和54年)には「Japan as No.1」が出版され、1989年(平成元年)には世界の時価総額ランキングトップ10のうち7社が日本企業で占められて、「経済大国」として世界から称賛された日本でしたが、今では「オワコン日本」とまで揶揄されるまでになってしまいました。

原因は『経路依存性の罠』

日本は戦後復興で海外から学び、まずは真似をして、そして日本人ならではの繊細さ・丁寧さを加えて日本経済を復興してきました。当時の日本の先人には本当に頭が下がります。そして熟練労働者が若手を育成していくことで匠の技を継承していきました。熟練労働者を作るためにも、熟練労働者を失わないためにも『長期雇用』が必要になり、『終身雇用』となっていきました。長期雇用にするためには、退職したら「損だ!」と思わせる制度が良いわけで、最初は働きに対して給与を少なく設定しておいて、その貯めていた分を使って、人生においてお金のかかる40代50代の働きに対して給与が多くなるようにし、そして最後の退職のときには大きな額の退職金を支払う仕組みにしていきました。そうすることで熟練労働者の囲い込みを行ったわけです。それを実現させるために『年功序列』という人事制度を導入していきました。

『年功序列』が正常に機能するには企業が成長して規模拡大していることが前提です。規模が拡大し、組織が大きくなりポストがどんどん増えている状況では、能力に関係なく年齢や勤続年数に応じてどんどん配置していくことで、順番に役職が上がって給料も上がっていく状態となります。しかし、企業の成長が止まると、『年功序列』は一気に機能しなくなります。そこで組織の階層を増やしたり、無意味に部署をつくったり、新しい役職をつくったりして凌いでいったのが多くの日本企業となります。

このように昔は上手くいっていた仕組みが時代の変化、環境の変化によって機能しなくなっているにもかかわらず、一部だけを修正しようとしても、全体に影響してしまうため修正できず、そのままの仕組みでやり続けている状態を『経路依存性』と言います。過去の経緯や歴史によって決められた仕組みや出来事にしばられる現象です。この『経路依存性の罠』から抜け出せずにいるのが今の多くの日本企業になります。

図表①:経路依存性によるアンマッチ

おかしなことは一つ一つ、やめていけばいいだけ

『経路依存税の罠』から抜け出すことは実はシンプルで、おかしいと思うことを皆でやめていけばいいだけです。そのためにも経営層がリーダーシップを発揮して、やめる判断をしていくことが重要となります。おかしなことと皆が気付いていることであれば、すぐに判断しやめていきます。例えば従業員の多くが単身赴任を望んでいないのであれば「やめる」判断をしていきます。直近では、NTTも転勤、単身赴任廃止検討とニュースになりました。

問題は、一見すると悪くなさそうで、実は最良ではないものです。例えば滅私奉公の流れから会社に対して文句を言わない人財を採用するために、採用基準で大きなウエイトを占めている「協調性」なども、一見すると悪くなさそうに見えてしまい、「おかしなこと!」と気づきにくいものです。
そのために、前例踏襲や、前任から引き継いだので、と何の疑いもなくそのままやり続けるのではなく、目指すべき姿、目的、戦略、施策などをしっかりと確認し、『整合性』があるかどうかを一つ一つ丁寧に確認していくことが重要となります。当たり前と思わず、これは戦略に合致する制度、ルールなのか、そもそも必要なのか、といった視点からメンバーで議論しチェックしていくことが重要となります。

製造業メーカーA社における業務改革・風土改革

製造業メーカーA社では、業績も低迷し社内には閉塞感が漂っていたため、業務改革で余力を生み出していくというプロジェクトの立ち上げの際にご支援をさせていただきました。
業務量調査などを実施し、業務課題を確認していく中で、目的不明な業務、今の環境にそぐわない制度、複雑化しすぎたルールによる負荷の高い業務、過去の出来事に引っ張られてできてしまった悪しき習慣など、「おかしなこと」が多く見つかりました。

やはり、業界や自社の常識にどっぷりつかってしまった社員の方々では気づきにくいこと、言いづらいことでも、多くの業界、多くの企業を知っている我々が入ることで、我々が「違和感」を感じ、その違和感を社員の皆様にもぶつけてみると、実は「おかしい」と最初は思っていた、とか、確かに「おかしい」ですね!と気づいてくれます。

業務改革を推進しながらも、企業風土改革そのものの取り組みとして、再度企業の存在意義、ビジョン、ミッション、事業としてのバリューを確認し、目指す姿、戦略から各種制度、ルール、業務の総点検を実施し、おかしなこと、あわないことは廃止していくことを実施しました。

図表②:パーパス、ミッション、ビジョンとあわない「おかしなこと」

やめた「おかしなこと」

具体的な項目を一部ご紹介します。
●人事制度:海外勤務手当/出張手当
【背景】
プロジェクト推進のために、多くの社員に海外のいろいろな国で勤務、もしくは出張してもらうことが多いが、皆あまり行きたがらないために、その都度当該社員の言い分を聞いてしまい、手当を付け加えていってしまった。
【実態】
複雑怪奇の海外勤務制度、海外出張制度になってしまい、社員も人事部も、今回はどのルールが適用になるのか、解読できず、手続きに多くの時間と工数をかけてしまっている状態になってしまっていた。
【解決】
とにかく一度シンプルに戻す!という経営判断を貰い制度見直しを実現

●品質管理
【背景】
製品トラブルによるお客様からのクレームに対して、自社側の責任の場合には補償をすることとなっていた。
【実態】
クレームについては、「自責」「他責」の分類を実施し、お客様側の使い方などの理由の場合には「他責」分類。自責か他責かが『グレー』の場合には、自社責任ではないことを証明するために、多くの実験を実施し、説明のため大量の資料を作成し、補償をしなくてもいいところまで持っていくことをカスタマーサポート部が実施していた。カスタマーサポート部の社員は、仕事に誇りが持てずに、モチベーションも部署別で下位となっていた。
【解決】
・クレームにおける「他責」という言葉を使うことをやめた。他責文化の醸成の原因にもなっていたためすぐに変更。
・品質管理という名の、クレーム対応業務を減らし、フロントローディングで絶対的な品質の作り込みに工数シフト。
そのために開発部門と生産部門との連携を強化。

このような形で「おかしなこと」はやめていくことを推進し、業務改革にとどまらず企業風土改革にまで踏み込んで支援をさせていただきました。

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