肥大化するバリエーション情報を効率的に管理するPLM活用

この記事の要約

製造業で増加する製品バリエーションは、個別仕様対応によるコスト増加や納期長期化、間接業務増大を招き、収益悪化の要因となっています。本記事では、バリエーション増加による経営課題を整理したうえで、150%BOMとPLMを活用したバリエーション管理の効率化、さらに150%BOMを用いた実践的な構築手法まで解説します。

この記事を読むとわかること

  • 個別仕様対応による「設計・試作検証・品目登録・設備調整」の増加が、コスト増加・納期長期化・収益圧迫を引き起こす背景を説明
  • 市場調査を通じて顧客ニーズを標準仕様化し、バリエーション肥大化を抑制する考え方を解説
  • 150%BOMによる「構成情報+仕様条件+制約ロジック」の一元管理と、PLMによる100%BOM動的生成の仕組みを紹介
  • マトリクスBOM、条件式管理、“つけごろし”など、150%BOM導入時の実務ハードルと乗り越え方を具体的に解説
市場のグローバル化に伴う規制やニーズ対応、競合製品との差別化競争の激化などを背景に、製品のバリエーションは増加傾向にあります。
 
しかしバリエーション増加は、設計・製造・調達の管理工数や生産準備工数を膨らませ、コスト増加、リソース不足を招く一方で、抜本的な差別化につながらず、結果として利益を圧迫するといった経営課題を引き起こしているケースも少なくありません。
 
本記事ではこういった経営課題を解決するために、競争力を失わずに肥大化するバリエーションの適正化をいかに図っていくか、そしてPLMを活用してバリエーション管理をどのように効率化するかについて解説いたします。

バリエーション増加による経営課題

近年、製造業においては、顧客ニーズの多様化や技術進化、競合企業との競争激化を背景に、製品仕様が複雑化している企業は少なくありません。さらに、グローバル展開が進むことで、各地域の規制や商習慣への対応も求められ、製品仕様のバリエーションは増え続ける傾向にあります。

加えて、営業現場では受注獲得を優先し、特定の顧客要望に応じた個別仕様で案件を獲得するケースも多くあります。
こうした対応は短期的には売上拡大に寄与する一方で、現場では、個別仕様の設計、試作検証、生産準備、設備調整等の間接業務を発生させ、コスト増加や納期長期化を招いています。加えて上市後も、トレーサビリティ対応や設計変更時の影響確認、変更漏れなどの業務が増大し、売上は維持できても利益が圧迫されるリスクが高まっています。

また、多くの企業では膨大なバリエーションを成立させるために、仕様の組み合わせ表やバリエーションごとの指示書を紙帳票で管理しており、部門間連携も帳票ベースで行われています。そのため、後工程では帳票を読み解きながらカタログやM-BOMを作成する必要があり、設計部門への問い合わせ、生産部門での情報の再構成といった、余計な工数が恒常的に発生しています。

この状態は、現在の人員の中で開発・生産準備の余力を生み出し、新たな製品開発へ積極的にリソースを投下していく必要があります。しかし実際には、バリエーション対応や間接業務に工数が割かれ、新製品をなかなか生み出せないといった負のサイクルに陥っているといえるでしょう。今後、人口減少により人的リソースの制約が強まる中では、従来の属人的な業務運用は困難となります。こうした背景から、肥大化する製品バリエーションの抑制と部門間連携を見据えたバリエーション情報のデジタル化が求められています。

【図1】バリエーションの拡大が収益悪化を招いている

肥大化する製品バリエーションの抑止策

顧客要望への個別対応は、バリエーションの肥大化とそれに伴うコスト増・納期長期化を招き、結果として利益を圧迫しています。こうした状況を打開するためには、顧客要望に応じて闇雲にバリエーションを増やすのではなく、顧客要望を見越して必要なバリエーションを標準仕様として定義することが必要です。

具体的には、徹底した市場調査を通じて顧客ニーズをパターン化し、その大半をカバーできるバリエーションをあらかじめ標準仕様として定義します。これにより、個別仕様の乱立を防ぎつつ、受注機会を損なう心配もなくすことができます。

キーエンスは、FA機器メーカーでありながら、特注品・カスタム対応を原則として受け付けない、という徹底した方針を持つことで知られています。顧客の要件が既製品では完全に満たせない場合、特注は行わず、営業が既製品で出せる効果とコストパフォーマンスを顧客と合意したうえで受注に結びつけます。

その代わりに、代理店ではなく、コンサルティング営業が現場に出向き、吸い上げた評価やニーズを企画・開発にフィードバックし、汎用性の高い標準品を開発しています。こういった方針により、粗利益率80%超・営業利益率50%超という高収益体質を実現しています。

さらに近年では、自動車メーカーを中心に機能・性能の差異をソフトウェアで吸収する前提のもと、機構側の構造をシンプルにし、ソフトで柔軟性を担保することで、バリエーション増加の抑制と顧客価値提供を両立する動きも出てきています。

適正化されたバリエーションを効率的に管理する手法

従来の紙帳票でバリエーション情報を管理する方法では、以下の課題を招く場合があります。

  1. 類似データを重複して登録することによる情報の肥大化
  2. 設計変更時に影響範囲を人手で確認することによる変更漏れの発生
  3. 組み合わせ不可能な仕様を誤ってシステム登録することによる実現不可能な受注の発生

これらを解消するためにはバリエーション情報をデジタル化したうえで「部門横断で同一データを使える状態(=公開)」と「誰もが同じ構造で参照できる状態(=標準化)」を実現することが必要となります。

この考え方を実現する手段が150%BOMです。
150%BOMでは、従来のように仕様ごとにBOMを分けるのではなく、製品が持ち得るすべての部品・オプションを一つのBOMに統合して管理します。その際、各部品や構成要素に対して「どの仕様・オプションが選択されたときにどの部品が有効となるか」といった適用条件を属性として紐づけて管理する点に特徴があります。さらに、この適用条件は仕様間の依存関係・排他関係を制約ロジックとして管理し、指定された仕様に対して成立する構成のみを抽出する仕組みとなっています。

このように150%BOMは、構成情報(BOM)+仕様条件(属性)+制約ロジックを一体のデータモデルとして管理する仕組みであり、単なる個別仕様の部品表の統合ではなく、製品バリエーションそのものを制御する基盤として機能します。

この150%BOMの仕組みによって、以下のような効果が得られます。

  1. BOMの重複削減(=情報肥大化の抑制):
    共通部品・共通構造を一本化できるため、バリエーション追加時も差分のみ管理すればよくなる。
     
  2. 設計変更時の影響把握(=変更漏れ防止):
    仕様と部品構成の関係が1つのデータモデルで管理されるため、ある部品の設計変更がどのバリエーションに波及するか、影響範囲を迅速に分析できる。
     
  3. 実現可能な仕様のみの担保(=手戻り防止):
    オプション間の禁止組み合わせをルール化できるため、見積もり/受注段階で誤ったオプションの組み合わせを選択することによる手戻りを未然に防ぐ。

昨今のPLMパッケージでは、この150%BOMとコンフィグレーション管理が標準機能として提供されており、顧客ごとの仕様選択に応じて、実現可能な製品構成(=100%BOM)を動的に生成することが可能となっています。

【図2】150%BOMのイメージ

150%BOMを構築するうえでのハードルと乗り越え方

しかし多くの企業では、バリエーション情報は紙帳票で管理されており、150%BOM上での情報のデジタル化されていません。その理由は下記にあると考えます。

  1. 紙帳票と比べ、バリエーション情報の視認性が悪く、関連部門に受け入れられない。
  2. 仕様やオプションとユニット・部品の関係性や、仕様間の組み合わせ制約が複雑で、150%BOMに登録しきれない。
  3. 組み合わせ制約を条件式で定義するのに時間がかかり、設計者に受け入れられない。
  4. 完全モジュール化がなされていない場合、モジュールの組み合わせごとにコネクタ等のI/F部品を登録しなければならず、煩雑。

【1.バリエーション情報の視認性が悪く、関連部門に受け入れられない】
紙帳票ではバリエーション情報はマトリクス表で表現されているのに対して、外資系PLMパッケージシステムを中心に多くの150%BOMはツリー構造で表現されています。自動車のように仕様が多岐にわたる場合、ツリー構造では仕様と部品の対応関係(仕様間の共通部品は何か、差異は何か)を把握しづらく、紙帳票に比べ視認性が悪いのです。

よって、複数仕様を構えるメーカーでは「マトリクスBOM」をカスタマイズして構築するケースが多くあります。マトリクスBOMとは仕様とユニット・部品の関係性を2軸で可視化したものであり、仕様に対応する部品を一目で把握することができます。

【図3】マトリクスBOMのイメージ

【2.仕様やオプションとユニット・部品の紐づき、仕様間の組み合わせ組み合わせ制約が複雑】
そもそも150%BOMはモジュラー化された製品ほど効果が出やすいといえます。バリエーションごとに個別設計された製品では、150%BOMを成立させるためのBOM構造や個別条件が複雑化することに陥ってしまいます。

150%BOMの導入にあたっては、単に150%BOMの仕組みを入れるだけでなく、先述したような市場ニーズに応じた製品仕様・オプションの再定義やバリエーションの削減、バリエーション展開とモジュール戦略を考慮した開発プロセスの整備等を併せて行う必要があります。

【3.条件式の入力に時間がかかる】
条件式とは仕様間の関係性をExcelの関数のように“IF”や“OR”等で定義したものです。条件式での制約の登録は表形式での情報入力に比べ時間がかかることや、仕様間の関係性が一目で分かりづらく、入力結果の確認が困難、入力ミスを誘発する、といったデメリットがあります。

ある企業では、仕様間の組み合わせ制約を登録するマトリクステーブルをPLMシステムの外側に構築、登録した情報をPLMに連携して条件式に変換することで、入力の簡素化とミスの防止を同時に実現しています。ただし、テーブルを構築するにあたっては、どの仕様とどの仕様で組み合わせ制約が生じるかを、あらかじめ標準化しておくことが求められます。

【4.ユニットの組み合わせごとにI/F部品が発生】
ユニット間で発生するI/F部品として、例えば取付ブラケットや、ハーネス、コネクタ等が挙げられます。これらの部品は安価なため、モジュールの中に内包し、必要な場合のみ使用する、“つけごろし”といった対応を取っている企業もあります。内包することで、「仕様Aと仕様Bの組み合わせ時には部品Cが必要」といった、仕様の組み合わせに応じた対応が不要となり、150%BOM自体がシンプルな構造となります。

【図4】BOMへの“つけごろし”登録イメージ

最後に

ここまで、間接業務削減に向けた肥大化する製品バリエーションの抑止策と適正化されたバリエーションのデジタル化について解説してきましたが、これらだけでは収益性の向上には限界があります。

根本的なコスト構造を改善するためには、「既存バリエーションの統合・シンプル化」と、「部品の共用化」を並行して進めることが必要です。

類似仕様を統廃合しながら共通部品で構成できる製品構造へと転換することで、部品管理工数の抑制や生産リードタイムの短縮といった、サプライチェーン全体での業務効率化、収益改善が見込まれます。

レイヤーズ・コンサルティングでは、さまざまな業態の製造業のクライアントに対して、バリエーション管理・PLM活用の豊富な支援実績がございます。
本記事に関してご興味を持たれた方は、ぜひお気軽にお問い合わせください。

この記事の執筆者

  • 佐藤 航
    佐藤 航
    SCM事業部
    マネージャー
  • 立木 隆介
    立木 隆介
    SCM事業部
    マネージャー
  • 丹羽 圭之介
    丹羽 圭之介
    SCM事業部
    シニアコンサルタント

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