疲弊感を生む“多様なユーザーニーズへの対応”
~真のニーズに応える売り方改革~

多様化・複雑化するユーザーニーズへ対応するため、設計者は次々に新しい製品を設計しなければならず、様々な観点から多角的に検討することとなり、手が回らず疲れ切っています。
当然製品の種類が増えれば、設計部門のみならず、調達や製造部門など関連部門の業務量も増加することとなり、混乱を招き疲弊感を生んでいます。
今回は、モジュール化、アーキテクチャー分析、売り方改革といった手法を用いて、現場の疲弊原因を解消しながら、多様化するユーザーニーズに応える方法を紹介いたします。

多様なユーザーニーズへの対応が現場を疲弊させる

グローバル化、技術進歩、環境問題への対応など様々な要因を背景としてユーザーニーズは日々多様化、複雑化しています。
また、デジタル化により、ユーザーにとっては製品/サービスを容易に比較できる環境が整っています。
ニーズが多様化し比較が容易になるなかで、製品/サービスを提供する企業にとってより多くのニーズに対応可能な選択肢を提供することは、付加価値の源泉となり、競合との差別化を図る際の有効な手段となります。

一方で、製品を生産するものづくりの観点においては、個別のニーズに合わせて求められる仕様・機能を盛り込んだ都度設計が発生し、また、増加した製品ラインナップに対応するための製造ライン検討、製品ごとに発生する原材料や部品の調達、多岐に渡る製品に対する納期管理、個別特徴を持つ製品それぞれに対する品質管理などで工数が増加します。
このように、多様化するユーザーニーズに対応した製品を提供するための活動を行う度に、それぞれの部門で業務量が増加し、現場の疲弊感が増大しています

さらに、工数の増加に伴って開発や生産における遅延の発生や、製品ラインナップが拡大するなかで情報連携に問題が発生し品質の低下に至ってしまうなどのケースも多々あります。
そのため、多様化するユーザーニーズへの対応はものづくりにおける影響を考慮したうえで行う必要があります。

【図1】ユーザーニーズへの盲目的な対応はQCDを阻害する

製品アーキテクチャー分析によるニーズの整理

ユーザーニーズに的確に対応するためには、お客様の真の要求を正確に理解することが重要です。
要求を真に理解するためには、VOC※1でユーザーニーズを把握し、ユーザーが求めていることを正確に体系的且つ構造的に理解する必要があります。ユーザーの表現では、使っている言葉の曖昧さや認識の違いなどから、意図を正確に把握することが困難な場合もあります。必要に応じて詳細な質問を行いながらニーズを整理し、さらに要求仕様という形で整理していくことが重要です。

要求仕様の整理ができたら、それを実現するために必要となる機能を確認し、その機能を実現するために必要となる構造を明確にする形で、ユーザーニーズを機能・構造へと落とし込んで整理していきます。
製品アーキテクチャーとは

要求仕様の整理、機能・構造への落とし込みにあたっては、DSM※2という手法が有効です。DSMは、製品設計における意思決定プロセスの手戻り改善やモジュール単位の決定などにおいて最もよく活用される手法です。
DSMを要求仕様、機能・構造の整理に活用する場合、製品を構成する要素や部品の関係性を行列で表現し、各要素間の依存関係や相互作用を分析することができます。
こういった手法を用いることで、それぞれの要求仕様に対する機能・構造の関連性、結びつきの強さを俯瞰した形で確認できます。

※1 VOC:Voice Of Customer
※2 DSM:Design Structure Matrix

【図2】集約した機能で多くのニーズへの対応を実現

【図3】顧客の声からモジュール化までをアーキテクチャ分析とDSMで実現

モジュール化によるニーズ対応とコスト低減の両立

モジュール化のポイント

DSMによって製品構成における各仕様・機能の依存関係の確認を行ったのちに、モジュール化の検討が可能となります。
モジュール化の検討においては、部品間の依存関係をより少なくするようにクラスタリング(グループ化)を繰り返し、グループごとの影響を最小限に抑えた単位にモジュールを分割する必要があります。つまり、各モジュールが独立した機能を持つようにし、モジュール間の依存度を低くすることで、変更の際の影響範囲を可能な限り狭めることができます。

モジュール化のメリット

モジュール化においては、機能・構造単位で部品を分割し、インターフェースを整えます。
モジュール間のインターフェースが決まっていることにより、モジュール間の個別の摺り合わせを回避でき、担当者は個々の機能モジュール開発に注力できます。また、複数の開発者がそれぞれのモジュールの開発作業を同時に進めることが可能なため、開発期間短縮、バリエーション増加に繋がります。修正や改良の際にも、各モジュールが独立しているため、全体を再度組み立て直すことなく対応可能となり、テストもモジュール単体で実施することが可能です。

それぞれのモジュールにおいてバリエーションを容易に追加できるようになることで、より多様なユーザーニーズへの対応が可能となります。
特にユーザーニーズが多岐にわたる機能においては、ニーズへの対応を実現しながら開発を効率化することでコスト低減を実現できます。

【図4】モジュール化のポイントとメリット

真のニーズを明らかにして応える売り方改革

ニーズを整理して集約した機能を取り決めても、販売において抽象的なニーズをただ単に受けるだけでは仕様が増加してしまいます。
ニーズをしっかりと聞きながら、同時に自社で取り決めた機能モジュールの組み合わせによってニーズに応えることが必要となります。具体的には、正確に把握した真の要求をもとに集約した機能が、個々のユーザーニーズを満たしていることを明らかにすることによって、それぞれのユーザーに合わせた仕様を用意したかのように感じてもらいながら、実際の個別対応は最小限に抑える必要があります。
これができなければ、ユーザーからの曖昧なニーズに対応することとなってしまい、モジュール化の効果を十分得られなくなってしまいます。

実際の販売の場面においては、セールスコンフィギュレーション(CPQ※3)ツールの活用が有効です。
ニーズをもとに適切なモジュールを選択することで、容易に製品をカスタマイズすることが可能です。加えて、モジュールの組み合わせによって変化する見積金額を正確かつ自動的に算出することができ、見積もり回答やスペックシートをその場で提示することができます。
取り決めた構成でオーダーをかけると製造指示が半自動的に行われ納期も迅速に回答できるなどの仕掛けを構築することも可能になります。

以上のような機能を活用することで、販売オーダーと製造オーダーが連動した無駄のない生産計画や必要以上の個別対応回避が可能となります。

※3CPQ:Configure, Price, Quoteの頭文字から取った言葉

【図5】売り方を改革することで後工程のQCDが向上する

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この記事の執筆者

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