ROICは段階的アプローチでアジャイルに実現せよ!

近年、ROICに関する当社への問い合わせ内容が変化してきています。
従来は「ROICを導入することでどのような利点があるのか」「ROICを現場でどのように活用するべきか」といった業務関連の問い合わせが主だった一方、ここ最近は「ROIC経営管理システムを導入する際はどのような手順を踏めばいいのか」「ROIC経営管理システムはどれを導入すべきか」といったシステム関連の問い合わせが増えています。
 
今回は、ROIC経営管理システムの導入フローを、システムの全体像を踏まえて説明します。

ROIC経営管理システムの全体イメージ

ROIC(投下資本利益率)を活用し、効果的な経営判断を下すためには、適切に設計されたROIC経営管理システムの構築が必要です。
その全体イメージは一見シンプルに見えますが、実際には複雑な要素が数多く絡んでいます。

【図1】ROIC経営管理システムの全体イメージ

このシステムの主な役割は、複数のデータソースから情報を収集し、それを一元的に管理・処理することです。
例えば、各社や部門から提供されるP/L(損益計算書)やB/S(貸借対照表)などの主要な財務データを、インターフェース(I/F)を通じて取り込み、システム内に保持します。
保持された明細データは、複数の処理ステップを経て、最終的にROICレポートや計画・見込シミュレーション、KPI計算などに利用されます。

このシステムは、財務連結システムとも連携し、企業全体のデータ統合を図ります。予算や見込入力は、担当者が基礎情報を手動でインプットしたり、意思入れを行う必要があります。
また、Excelでのデータ管理が一般的であるため、それをインポートする機能も備えており、既存データの活用を促進します。こうした取り組みによって、包括的なROIC経営管理システムのデータ基盤が形成されます。

ROIC経営管理システムの中核となる処理として、「換算」「積上」「配賦」「消去」「予算作成」「見込計算」「KPI計算」などがあります。これらの処理を通じて、経営陣は最新かつ正確なデータに基づき、迅速で的確な意思決定を行えるようになります。特に、計画・見込シミュレーション機能は、ROIC改善策のシナリオ分析や事業戦略の検討を支援します。

システムを構築する際には、情報の正確性と整合性を保つために、各データの整備と統合プロセスが重要です。
さらに、予算の入力や基礎データの管理には多くのリソースが必要となりますが、自動化やデータの一元管理を導入することで負担軽減を図ることができます。
こうして描かれるROIC経営管理システムの概要は、視覚的には簡単に見えるかもしれません。
しかし、これを現実的に設計し、企業に実装するためには多岐にわたる課題をクリアしなければなりません。
適切な設計、必要な機能の選定、データ連携の整備といった要素をしっかりと考慮し、確実に実現できるかどうかが成否を分けるポイントです。

段階的アプローチによるシステム構築

【図2】ウォーターフォールの限界

先述したようなROIC経営管理システムの構築には、従来のウォーターフォール型の開発では非常に高い難易度を伴います。このようなシステムでは、グローバルな全事業で必要とされる全機能・全データを事前に洗い出し、その上で業務プロセスを詳細に明確化し、To-Beの最終形を見据えた構想を立案する必要があります。
これによって、後から「これも作っておくべきだった」といった問題を避けることができますが、構想や要件が膨らむにつれて、プロジェクトの規模や予算も増大します。

この結果、システム構築が途中で頓挫するリスクが高まり、「失敗プロジェクト」として社内に認知されてしまうと、再スタートを切ることは極めて難しい状況に陥ります。そこで求められるのが、段階的アプローチによる構築です。システムの機能を徐々に拡張し、ROICの導入や活用と並行して進めることで、企業はプロジェクトの途中で成果を実感しながら、最終的に本格的な運用を実現できます。

【図3】段階的アプローチによるシステム構築

製造業A社の事例を見てみましょう。
A社では、まず「セグメント別ROICの視える化」から着手しました。セグメントごとのB/S収集やP/L情報の統合を行い、全体の見える化を実現。その後、SBU(戦略事業単位)別に展開を広げ、P/L、B/S作成や予算の詳細な管理、ROIC改善施策のモニタリングを導入しました。
このステップを通じて、ROIC改善施策の効果が見えるようになった段階で、次に「明細収集」へと進みました。主要科目の日別データ収集や、各種KPIの精緻な管理、投資マネジメントが可能となり、システムはさらに高度化しました。
最後に、「シミュレーション」機能を追加。これによりROICのシナリオ分析やWhat-If分析が可能となり、経営判断の迅速化が実現しました。
この段階的なアプローチを取ることで、A社はシステム構築を段階的に進めながらも、プロジェクトの途中でROIを実感でき、最終的な成功につなげました。

このように、ROIC経営管理システムの構築は、段階的に徐々に成果を確認しつつ進めるアプローチが最適です。システムの全貌が複雑であればあるほど、慎重に設計し、各フェーズで明確な成果を出し続けることが、成功への道筋をつくるカギとなります。

Excelを活用したROIC経営管理システムの導入検討

ROIC経営管理システムの導入において段階的アプローチの重要性を述べてきましたが、多くの企業にとっては、システム構築への不安や手戻りへの懸念が伴います。
そこでまず、Excelを活用した小規模な運用を試み、実務に基づいた改善を経て要件を固めたうえで、システム化を進める方法も検討に入れてみてはいかがでしょうか。
これは、いきなり大規模なシステム開発に飛び込むのではなく、Excelで業務プロセスを繰り返し回しながら改善し、その成果を反映させることでシステム構築の失敗を避けるアプローチです。

【図4】Excelを活用したシステム導入準備

この段階的プロセスは、ROIC経営の導入においても非常に効果的です。最初にExcelを用いることで、データの収集・分析、KPI管理、見込計算など、基本的な業務を柔軟に試行することができます。
Excelは、軽量で導入が容易であり、事業部門や現場でのフィードバックを反映しやすいという利点を持っています。この繰り返しのプロセスで得た知見をシステム要件に落とし込むことで、最初の要件定義をより実践的なものにし、システム化の成功率を高めることができます。

前章の製造業の事例でも見られるように、Excelを用いた初期の段階では、データの収集や視える化を試みながら、業務のイメージを具体化していきます。これにより、初期のシステム構築では把握しにくかった業務上の細部や要件の抜け漏れを防ぐことができます。
次に、Excelを通じて蓄積されたノウハウを元に、システム化するべき機能やプロセスを選定し、段階的に拡張していくのです。このアプローチでは、業務プロセスがExcelで安定して回ることを確認した後に、システム化を行うため、手戻りや無駄なコストを抑えることができます。

システム化の際には、Excelでの実証済みのプロセスを基にするため、システム設計時点で要件がはっきりとし、開発の精度が向上します。また、このような段階的な導入プロセスでは、システム構築後も新たな要件や改善が発見された場合にスムーズに対応することができます。これは企業が環境の変化に柔軟に対応し、ROIC経営の実践を持続的に進化させるうえで非常に重要です。

このように、Excelを活用した段階的アプローチによって、ROIC経営管理システムの導入は、効果を確認しながら進めることができます。最終的に、企業全体としてROICの視える化や分析能力が強化され、戦略的な意思決定の基盤を築くことができるのです。

ROIC経営管理システムの必要機能

ROIC経営管理システムを構築する際、これまでの章で述べてきたように段階的アプローチやExcelを活用した試行錯誤が有効です。これらを踏まえ、最終的にシステムに求められる機能を整理すると、以下のような6つのポイントが浮かび上がります。

【図5】システム要求事項

1. 高度な分析とレポーティング
事業別ROICを複数シナリオでシミュレーションし、ポートフォリオマネジメントを行うための高度な分析機能が必須です。これにより、経営陣はリアルタイムでROICの見える化と比較を行い、ダッシュボードで重要な情報を可視化できます。

2. データ統合と一元管理
各事業部門や子会社からのデータを統合し、財務・非財務情報やKPIを含む詳細データを一元管理することは、精緻な分析の基盤となります。この機能により、意思決定に必要なすべてのデータをシステム内で一貫して管理できます。

3. 自動化された配賦と連結機能
ROICを事業別やSBU単位で見る際、P/Lデータの取り込みは現実的ですが、B/Sの計算は現場に任せることは非現実的です。システム内で自動的に配賦パラメータを設定し、柔軟な配賦ロジックを適用することで、効率的かつ正確な連結処理を実現します。

4. コラボレーションした計画機能
予算や計画の作成・見込管理には、部門横断的なコラボレーションが求められます。システムにはExcelなどの既存ツールとの連携が不可欠であり、事業部門間でのデータ共有がシームレスに行えるように設計されるべきです。

5. 柔軟性・カスタマイズと拡張性
組織変更や新たなKPI設定に対応できる柔軟な設計は、ROIC管理の長期的な成功に不可欠です。企業の成長に伴う機能追加やマスタの詳細化に対応する拡張性のあるモジュール式の設計が求められます。一度設定したマスタを細かく修正・拡張できるかも重要な選定ポイントです。

6. セキュリティとクラウド基盤
データの安全性を確保し、クラウド環境での可用性と拡張性を備えた基盤を提供することも必要です。クラウド化により、柔軟にアクセスし、システムの安定性と効率性を維持することができます。

 

これらのポイントを十分に考慮し、ROIC経営管理システムを選定・構築することで、持続的な企業成長と効率的な経営戦略の実現が可能となるでしょう。

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