「なら何も言いません」症候群になっていませんか

当社では多くの企業風土改革のコンサルティングを実施しています。プロジェクトスタート時にまず我々がお伝えすることは、『トップマネジメントの想い』と『従業員の声』の両輪が不可欠であることです。すると多くの企業で言われるのが、「我が社の従業員には想いがあるのか」「意見を言ってくれないのではないか」といったことです。
これは、従業員の意識の問題なのでしょうか。それともそのような企業風土を作ってきた上司の方々の責任なのでしょうか。
今回は、日本企業に根深く巣食う「なら何も言いません」症候群とその処方箋をご紹介します。

しゃべりすぎ上司が招いた文化

私も含めてですが、どうしても1on1などを実施していると上司側がしゃべりすぎてしまうということが多いと思います。様々な調査結果を見ても、上司と部下のどちらがしゃべっているのかというと、上司のほうが多くしゃべっているという結果になります。学校が先生から生徒に知識を伝えるという一方通行の形のため、会社でも上司から部下へという一方通行になりがちなのではないしょうか。
このように日本社会において、チームとして一体となってディスカッションをして作り上げていくという風土が徐々に不足してきているように思えます。

VUCA時代でスピードが速く成果を求められている中で、上司は部下に多くの指示を出して仕事を進めています。そしてもし失敗をすると、「どうしてこんな失敗をしたのか」と取り調べ型の追求が始まります。部下の育成のつもりでも、上司がしゃべりすぎて、自分の考えを押し付け、結局部下が思考停止の状態になってしまうのです。
例えば「ミスが起こった理由として、どんなことが考えられますか」という聞き方であれば、部下も思考停止にならずに原因と再発防止策を検討できるようになるかもしれません。

しゃべりすぎる上司、取り調べ型質問、これが繰り返されると部下は思考停止となり、何も言えなくなります。すると、何も言えない部下を見て今度は上司が、「うちの社員は意見がない、考えていない、変えていこうという意思がない」といった発言につながっていきます。

【図1】しゃべりすぎる上司、何も言えない部下

「言わないのではない、言えないのだ」従業員の本音

従業員は本当に、何も意見がない、考えていない、変えていこうという意思がないのでしょうか。
我々は各企業でワークショップを実施していくと、従業員の皆様には、本当はいろいろな意見があり、考えもあり、変えていきたいという想いがあります。我々の実施するワークショップは上司の方を含めずに当社メンバーと選抜したメンバーで実施します。現状把握で2時間×2回~3回、改革の方向性検討で2時間×2回~3回、合計8時間から12時間かけて実施していきます。最初は愚痴のような発言が多い中で、深掘りをしていくと、しっかりとした意思があり、意見があり、会社を変えていきたいという想いがあります。

その意思や意見、想いが素晴らしいことをお伝えし、何故それを会社に伝えないかを聞いていくと、

  • 昔は言っていたが、ほとんどがすぐに否定された
  • 提案しても、それは昔やってダメだったと言われた
  • 上司のやりたいように結局方向転換させられてしまう
  • やってもみないのに、リスクばかり挙げられて前に進ませてくれない

といった声が上がってきます。

そして最後に口にするのは

  • 『ならもう何も言わないよ!となってしまう』とのことでした。

つまり、何も言わないのではなく、言えないのが実態で、その状況にしてしまったのは会社の風土、しゃべりすぎる上司の対応が原因です。
各企業で「なら何も言いません」症候群が根深く発生してしまっています。

【図2】「なら何も言いません」症候群

魔法の言葉化した「心理的安全性」

心理的安全性はハーバード・ビジネス・スクールのエイミー・エドモンドソン教授によって提唱されました。実際にGoogleのアリストテレスというプロジェクトで実証実験が行われ、「成果の出るチームの共通点」「生産性の高いチームの共通点」として最重要項目として位置づけられたのがこの「心理的安全性」です。

心理的安全性とは、『チームの中で、ほかのメンバーの反応への懸念、つまり、こんなことを言って非難されるのでは!?変なことを言って恥ずかしい思いをするのでは!?といった懸念がなく、誰でもそのチームの中では安心して能力や個性を発揮できる、自分の考えや気持ちを素直に発言できる状態』を言います。

ところが最近、魔法の言葉のように使われてしまっている状況が見受けられます。「このチームは心理的安全性が高いから何でも言っていいよ」と上司が言って、実際、部下がついてこない事象が起きています。いくら口頭でこのチームは心理的安全性が保たれているから!と言っても実態が異なっていては何も変わりません。誰も何も言えない状況です。ましてしゃべりすぎる上司が変わらず、否定から始まる話をしていたら、結局「なら何も言いません」状態になってしまいます。

心理的安全性が高いチームを作るのに、それこそ魔法の杖はありません。しっかりとリーダーが率先して変わり、そしてチームメンバーと一緒になって、心理的安全性を高めていく必要があります。

【図3】心理的安全性が高いチームへ

1on1で心理的安全性を高める

1on1を取り入れる企業は多く、当社でも実施しております。1on1はあくまでもメンバーのための時間であることを強く意識することが大切になります。しゃべりすぎる上司の場合には大半が自分の話をしている状態になってしまいます。しっかりと相手の話に傾聴することが大切になります。
コロナ禍のためWeb会議ツールを使った1on1を実施している企業も多いと思います。Web会議の場合には、対面よりももっと本音を言いづらいため、雰囲気作りが非常に大切になります。最初のアイスブレイクなどはしっかりと準備しておくことが重要となります。

1on1を定期的にやりましょう!といろんな本にも書いてありますが、週に一度、予定を入れて、会議室を抑えて、実施している1on1は真の1on1ではありません。それはまだ1on1を習慣化させるための途中過程です。人事部などが旗を振り、制度化・ルール化して、やっている、やっていないをモニタリングして、やっていない上司にやってくださいと依頼している「やらされ型の1on1」は一番よくありません。それでは心理的安全性は高まりません。また、しゃべりすぎる上司の時間になっている1on1や取り調べ型1on1では、もちろん心理的安全性は高まりません。

真の1on1は必要な時に、必要に応じて実施するものです。部下から上司に対して、「ちょっと1on1してもらえますか」とか、上司が部下の状況を見ていて、「ちょっと1on1しようか」といった適時適切なタイミングで、その場でやっていく1on1が真の1on1です。その状態は心理的安全性が非常に高い状態です。
定期的にやるということで週1回などとルールを決めた「やらされ型1on1」ではなく、適時適切なタイミングでのスポット的に実施していく「真の1on1」ができるように目指していくことが重要です。

【図4】やらされ型1on1から脱却

妥協案ではなく第三の案をつくれるか

そもそも心理的安全性を高める目的は、組織として、成果を高めるため、生産性を高めるためです。心理的安全性を高めて、みんなが素直に意見を言えるようになり、新しいアイデアが生まれる状態にしていくことが重要です。
しゃべりすぎる上司と何も言えない部下で生まれた「妥協案」では成果は生まれません。心理的安全性が高いチームで生まれた互いの案の延長線上にある「第三の案」によって初めて成果は生まれます。

【図5】妥協案から第三の案へ

心理的安全性を高めていくために重要なポイントを最後にご紹介します。

■パーパス(存在意義)
企業としてのパーパスとそのパーパスからブレイクダウンされた各組織、チームのパーパスが重要となります。どこを目指している企業で何を大切にしているのかをしっかりとメンバーと共有することが重要です。
決して間違ってはいけないのが心理的安全性を高めることは、ぬるま湯職場を作ることではありません。高い目標を実現するために成果の出せるチームを作っていくことが狙いとなります。

■DE&I(Diversity:多様性、Equity:公平性、Inclusion:受容性)
多様な考えについて、公平に受け入れる文化が重要となります。「もしかしたら、ありかも」と受け入れることで新たな発見、気づきが生まれます。

■リスペクト
メンバー一人ひとりに対して感謝の気持ちを持ち、相手をリスペクトする気持ちが非常に重要となります。リソースではなく、一人の人間として対応していきます。「ありがとう」の感謝の気持ちを伝えることが重要です。当たり前と思わないことが大切です。

 

他にも重要なポイントなどもありますし、企業風土改革の事例などもご紹介できますので、是非ともご興味があればお問い合わせいただければ幸いです。

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この記事の執筆者

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