ユーザー主導のERP導入

【第15回】移行・展開フェーズの秘訣は何か

◆この記事の要約

本記事では、基幹システム刷新で既存システムからERPへ切り替える「移行・展開フェーズ」を解説します。
移行計画策定〜移行リハーサル/本番移行、展開と本番運用までを、ユーザー部門主導・Fit to Standardの視点で整理します。

  • 移行計画策定:取引データ(発注残・受注残・請求・入金・支払・仕訳等)と、マスタデータの移行方式・タイミング・ツール要件を定義し、業務移行/システム移行の観点で計画を最終化。
  • 移行手順書作成:全体フロー、役割分担、チェックポイント、トラブル対応を明文化。特に、ロールバック(切り戻し)手順、関連システムのインターフェース変更、本番移行前のデータ移行を具体化。
  • 移行ツール開発〜移行リハーサル:データ抽出・変換・登録、移行検証、ログ管理をテストし、本番環境との差分を確認。本番に近いデータで複数回リハーサルし、データ整合性と処理時間、ロールバックの実行可能性を担保。
  • 本番移行・展開・本番運用:業務停止時間を最小化しつつ、進捗監視と意思決定者参画で移行監視体制を確立。
    グループ展開は展開計画と基幹システム統一プロジェクトで標準化を推進し、移行後は監視体制とヘルプデスクで安定稼働を支える。
基幹システム刷新における移行・展開フェーズは、既存システムからERPへシステムを切り替え、新業務での運用を開始する最終段階のフェーズです。
 
システムテストや業務運用テストで検証されたERPを本番環境に移し、実際にユーザーが利用を開始する重要なフェーズです。特に、基幹システムは関連システムが多いため、テスト環境ではテストしきれないケースもあります。主管部門である経理財務部門は、移行・展開を情報システム部門に任せきりにせず、自らイニシアティブをもって推進していくことが重要です。
 
そこで今回は、「クラウド時代!ユーザー主導のERP導入とは」として、基幹システム刷新における移行・展開フェーズの秘訣をご紹介します。

移行・展開フェーズとは

移行・展開フェーズは、ERPの導入企業・拠点において、既存システムからERPへシステムを切り替え、新業務での運用を開始する最終段階のフェーズです。

【図1】移行・展開フェーズの位置付け

移行・展開フェーズとしては、新しい業務(ルール・プロセス・組織)と、システムに移行を方針や計画を策定する移行計画策定、既存システムからERPへの切り替え手順をまとめた移行手順書作成、既存システムからERPへのデータ移行等を効率的に進めるための移行ツール開発、ERPへの移行を模擬的に試行する移行リハーサル、新しい業務(ルール・プロセス・組織)とシステムへ実際に移行する本番移行、複数拠点で導入する場合の展開があります。

【図2】移行・展開フェーズの内容

移行計画策定とは

移行の対象とするデータを定義したうえで、各データに対して移行方式や移行のタイミング、移行に必要となるツールに係る要件等を整理し、業務移行およびシステム移行の観点から移行計画案を策定します。

基幹システムには、各種の取引データ(発注、発注残、検収、入出庫、生産実績、受注、受注残、出荷、請求、入金、支払、仕訳等)があります。これらを既存システムからERPにどう移行するかが問題になります。例えば、基幹システムの特定期間のすべてのデータを移行する場合や、今後の取引にかかわる発注残データ、受注残データだけ移行する場合があるからです。

また、マスタデータの移行も問題となります。例えば、ERP導入に合わせBOM(部品表)の品目マスタと品目構成の考え方や組織の考え方などを大きく変える場合もあるからです。移行方法等は選定したERPによって条件や制約がことなるため、確認が必要です。したがって、移行計画の最終化は、ERPが選定されたシステム要件定義フェーズと同タイミングで検討することが一般的です。

移行手順書作成とは

移行対象データ別に移行手順書の作成を行います。移行手順書とは、システム開発における既存システムからERPへの移行作業を円滑かつ確実に実施するために、具体的な作業手順や役割分担、注意点を詳細に記載したドキュメントです。移行作業の標準化と再現性を確保し、トラブルを防止するためのガイドラインとなります。

移行手順書の内容

移行手順書には、下記の内容を一般的に記載します。

  • 移行作業の全体フローとスケジュール
  • 各作業ステップの詳細手順(作業内容、実施方法、使用ツールなど)
  • 作業担当者・役割分担
  • 事前準備事項(バックアップ取得、環境確認など)
  • 移行中のチェックポイント・確認項目
  • トラブル発生時の対応手順(ロールバック方法など)
  • 移行完了後の検証・報告方法
  • 関連ドキュメントや連絡先一覧

移行手順書作成のポイント

ロールバック(切り戻し)手順の具体化
システム移行作業中または移行後に問題や障害が発生した場合に、新システムへの切り替えを中止し、既存システムの状態に復旧させる作業をロールバック(切り戻し)といいます。ロールバックを確実に行うためには、移行前に既存システムのデータや設定の完全なバックアップを取得したり、ロールバックに必要な具体的手順(データ復元、システム再起動など)を事前に移行手順書として整理したりすることが必要です。

インターフェースの変更
関連システムからのインターフェースが複雑な場合や、既存システムから新システムへの移行時にインターフェースデータの粒度やタイミングを大きく変更する場合には、関連システムごとに移行作業手順を具体化しておくことが重要です。

本番移行前のデータ移行
移行データのうち、本番移行前に移行可能なデータ(マスタや過去のトランザクションなど)は、本番移行前に移行していきます。本番移行とは別に、これらの移行手順を具体化することも必要です。
特に、既存システムとERPでマスタ体系が大きく異なる場合、その違いの検証を含めて移行する必要があります。なお、マスタ移行については、システムテストや業務運用テストにおいてもその適正性を検証していきます。

移行ツール開発とは

システム移行においては、既存システムからERPへデータや機能を移すための移行ツールを利用します。
移行ツールは、移行作業を効率的かつ正確に行うためのソフトウェアやスクリプトです。

移行ツールの内容

移行ツールには、下記のようなものがあります。

  • データ抽出ツール
    既存システムから必要なデータを抽出するツール
  • データ変換ツール
    既存システムのデータをERPのデータフォーマットや仕様に合わせてデータを変換するツール
  • データ登録ツール
    ERPへデータを登録・投入するツール
  • 移行検証ツール
    移行後のデータが正しく移されているか確認するツール
  • ログ管理ツール
    上記の処理状況やエラーを記録ツール

移行ツールは、ERPの提供ベンダーまたは導入ベンダーが用意しているものもあるので、導入時に確認が必要です。

移行ツールの開発・テスト

移行ツールの開発
移行ツールの開発は、通常のシステム開発手法と同様の手順が必要です。移行要件を明確化し、移行ツールの仕様書や設計書を準備したうえで、ソフトウェアやスクリプトなどを開発します。

移行ツールのテスト
開発された移行ツールは、それぞれの要件を満たしているかのテストを実施します。具体的には、移行ツールごとにテスト計画を立案し、テストデータを準備したうえで、テスト(既存システムからのデータ抽出、データ変換、ERPへのデータ登録等)を実施し、移行結果を検証します。移行結果に問題がある場合には、仕様を見直し、再度検証を行います。

移行リハーサルとは

移行リハーサルは、本番のシステム移行を模擬的に実施する移行手順を検証する作業です。

移行リハーサルの目的

移行リハーサルは、下記の目的のために行います。

  • 移行手順の検証
    実際の移行作業手順やツールの動作を事前に確認し、問題点を洗い出す
  • 作業時間の把握
    移行にかかる時間を正確に見積もり、業務影響を最小化する計画を立てる
  • 関係者の習熟
    移行作業に関わるメンバーの役割や手順の理解を深め、連携を強化する
  • データ整合性の確認
    移行後のデータが正しく移されているかを検証し、品質を担保する
  • 移行リスクの低減
    本番移行時のトラブルや想定外の事象を未然に防ぐ

移行リハーサルの内容

移行リハーサルの内容には、下記のようなものがあります。

  • 移行ツールの動作確認
  • データ抽出・変換・ロードの一連処理の実施
  • 移行手順書に基づく作業の実践
  • 移行後のデータ検証(整合性チェック、業務観点での確認)
  • 移行作業にかかる時間の計測
  • 問題発生時の対応手順の確認
  • ログの取得と分析

移行リハーサルの具体的な手順

移行リハーサルは、下記の手順で実施します。

【図3】移行リハーサルにおける主な手順

移行リハーサルにおけるポイント

ユーザー部門の参画
移行リハーサルは、システム部門が主導しますが、ユーザー部門も参加し、実務観点での確認を行ってください。

本番移行との差分の確認
移行リハーサルを行う環境は、テスト環境であるため、テスト環境と本番環境が異なる場合、環境差異による問題が発生しないか確認する必要があります。例えば、関連システムからのインターフェースに関して、関連システム側で本番と同様のテスト環境が用意できないなどのケースがあります。このような場合、移行リハーサルと本番移行時の手順等の違いを明確化して、移行リハーサルを行うことが重要です。

本番に近いデータの準備
移行リハーサルは、基本的に本番時に近い全データで行うようにします。実際の手順や処理時間などを本番移行時と同じくするためです。

移行手順の習熟
移行リハーサルは、 1回だけでなく複数回リハーサルを行い、確実性を高めることも重要です。特に、関連システムが多い場合、システム切り替えの手順やタイミング等に習熟するためにも、確実に本番切り替えができるまで実施することが重要です。

ロールバックの確認
移行リハーサルにおいては、想定されるトラブル発生時の対応手順もリハーサルに含めて、実施することが重要です。特に、ロールバックについては、必ずリハーサルし、戻すことができるか確認を行う必要があります。

本番移行とは

本番移行は、既存システムからERPへ実際に業務データや機能を切り替える最終段階です。

本番移行の内容

本番移行には、下記のようなものがあります。

  • 移行前の最終バックアップ取得
  • 移行ツールやスクリプトによるデータ抽出・変換・ロードの実行
  • 移行中の進捗監視とログ管理
  • 移行後のデータ整合性・動作確認
  • 移行にともなうシステム停止・再起動作業
  • トラブル発生時の対応・復旧作業
  • 移行完了報告と関係者への通知

本番移行の具体的な手順

移行リハーサルは、下記の手順で実施します。

【図4】本番移行における主な手順

本番移行のポイント

本番移行のタイミング
本番移行作業は業務時間外や影響の少ない時間帯に実施し、業務停止時間を最小限に抑えます。また、本番移行は一般的に休日の期間が長い、年末年始、ゴールデンウイーク、お盆時期などに行います。

本番移行手順の順守
移行リハーサルで習熟した移行手順に基づき本番移行を行います。特に、テスト環境が本番環境と異なり環境差異がある場合には、移行リハーサルで実施できない移行手順となるため、関係者間で手順等を十分共有して行ってください。

移行監視体制の確立
移行中・移行後の問題発生に備え、担当者や連絡手段を明確にしておくことも重要です。特に、本番移行し中止し、ロールバックする判断を行ったり、本番稼働を判定したりしますので、プロジェクトの意思決定者の参画は不可欠です。また、新システム稼働直後は特に監視を強化し、異常を早期発見・対応することが重要です。

展開とは

グループ全体での業務の標準化や統一化を行い、グループ全体としての業務の効率化やグループガバナンスの強化を図るためには、基幹システムとして同じERPをグループ会社に導入していくことが必要になります。こうしたグループ展開は、グループ各社に対してどのように展開して行くかを展開計画として策定し、展開計画に応じて順次基幹システムを導入していきます。

【図5】展開における主な手順 ①

また、基幹システムをグループ各社に導入するうえでは、通常グループ横断での「基幹システム統一プロジェクト」などを組織化する必要があります。

グループ展開の具体的な手順

グループ会社に基幹システムを導入は、以下の手順で実施します。

【図6】展開における主な手順 ②

グループ展開は、各社ごとに展開準備、展開実施、展開フォーを繰り返し実施していきます。

グループ展開のポイント

トップマネジメントによる必要性の明確な発信
グループ全体で業務を標準化し、各社の業務を変更するため、通常は各社からの反発が出ます。この反発に折れてしまい、標準化の御旗が後退してしまったケースも少なくありません。したがって、グループ全体としての生産性の向上やガバナンスの強化のために、統一したERPを展開する必要性があることを、トップマネジメント自らが発信することが重要です。そのためには、トップマネジメントの直下に基幹システム統一プロジェクトのステアリングコミッティを位置付けるのも一つです。

適切なプロジェクトチームを組成
基幹システム統一プロジェクトには、社内の業務やシステムの専門家と外部コンサルタントを組み合わせ、クロスファンクショナルなチームを組成することが重要です。特に、グループ業務の標準化のためには、子会社からの代表を早期に巻き込み、共有プロセス(例:マスターデータ管理)などを検討することが重要です。

グループとしてのビジネスルール・プロセスの標準化
グループ会社にERPを導入する場合、グループとしてビジネスルールやビジネスプロセスを標準化し、標準化された業務に合わせてERPを設定・チューニングする必要があります。特に、様々な事業をグローバルで展開している場合には、標準業務の定義において多様な事業形態や地域差を考慮したアプローチが重要です。

グループ各社の状況を考慮したグループ展開計画の策定
グループ各社の業務の実態やシステムの現状は、各社ごとに異なることが一般的です。したがって、各社の現状を踏まえたグループ展開計画を策定することが重要です。特に、各社のコスト負担やリソース負担などについては、グループ本社としての明確な方針と各社との丁寧な調整が必要になります。また、実行過程をモニタリングするために、グループ展開計画においてKPIを定義することも重要です。

本番運用

本番運用フェーズは、既存システムからERPへの移行が完了し、ユーザーが実際にERPを使って業務を行うフェーズです。移行後数か月は様々な問題が発生するため、これに対処するため手厚い監視体制が不可欠です。また、ユーザーからの問い合わせに対応するためのヘルプデスクも必要です。

さらに、ユーザーの運用が一定期間経過した段階で、運用状況の評価を行うことが重要です。ここで、様々な課題と対応を棚卸ししたうえで、当初の目的がどれだけ達成したかを評価します。また、今後解決しなければいけない課題については、今後の改善事項としてフィードバックしていきます。

まとめ

今回は、「クラウド時代!ユーザー主導のERP導入とは」として、基幹システム刷新における移行・展開フェーズの秘訣をご紹介しました。今後の基幹システム刷新は、情報システム部門やベンダーへ丸投げはできません。ユーザー部門が主導して、ERPを Fit to Standardで導入していくことが成功の秘訣といえます。詳細な Fit to Standard でのERP導入のポイントについては、是非レイヤーズ・コンサルティングにお問い合わせください。

ソリューションに関するオンライン相談ソリューションに関するオンライン相談 最新情報をお届け!メルマガ登録最新情報をお届け!メルマガ登録

お仕事のご相談や、ご不明な点など、お気軽にお問い合わせください。
セミナー開催予定など最新ニュースをご希望の方はメルマガ登録をお願いいたします。