SLAM DUNKから学ぶ「ヒト」で勝つチームのヒント

1980年代中盤から1990年代中頃の『週刊少年ジャンプ』誌は、黄金時代と言われています。代表する作品としては、北斗の拳、ドラゴンボール、SLAM DUNK、キャプテン翼、幽☆遊☆白書などがヒット作品としても有名です。
 
その中でも、1990年から連載がスタートしたSLAM DUNKは、バスケ部に入部する学生を増やすという一大ブームを起こしました。安西先生の「あきらめたらそこで試合終了ですよ」は名言として今でも色々なところで流用されています。
 
今回は「 SLAM DUNKから学ぶ「ヒト」で勝つチームのヒント」と題して、心理学者アルバート・バンデューラ(Albert Bandura)氏の「自己効力感」などを中心に解説していきます。
 
※本資料には、『SLAM DUNK』の内容に関する具体的な記述が含まれております。作品をご覧になっていない方にとっては、ストーリーの重要な要素が明らかになる可能性がございます。
そのため、これから作品をお楽しみいただく予定の方は、閲覧に際して十分にご注意ください。

SLAM DUNKとはどのような漫画か?

「SLAM DUNK(スラムダンク)」は、井上雄彦(いのうえたけひこ)先生によって描かれた高校生のバスケットボール漫画です。週刊少年ジャンプ(集英社)で1990年から1996年まで連載され、コミックスは全31巻(完全版は全24巻)にまとめられています。アニメ化もされ、国内外で大ヒットした作品です。2022年には映画「THE FIRST SLAM DUNK」が公開され、新たな世代にも感動を与えました。

登場人物としては、桜木花道(さくらぎ はなみち)、流川楓(るかわ かえで)、赤木剛憲(あかぎ たけのり)、三井寿(みつい ひさし)、宮城リョータ(みやぎ りょーた)、そして安西先生(あんざいせんせい)がメインのメンバーとなります。主人公の桜木花道は、高校1年生で、赤木剛の妹、赤木晴子(あかぎ はるこ)の勧めでバスケ部に入部します。当初はバスケ未経験で「リバウンド王」を目指すなど荒削りな才能を見せますが、次第にバスケットボールの魅力に目覚め、仲間とともに成長していきます。

桜木花道が入学して夏の全国大会までの半年程度の物語です。陵南の練習試合、三浦台、翔陽、海南、陵南、豊玉、山王との試合、計7試合が描かれています。

【図1】スラムダンク

リバウンドを制する者は試合(ゲーム)を制す

「リバウンドを制する者は試合を制す!」という言葉があります。これは、試合の中でリバウンドを取ることの重要性を示しており、バスケットボールにおいて、シュートを決めることと同じくらい、リバウンドを取ることが勝敗を分けるという考え方です。この言葉をきっかけに、桜木花道はリバウンドの役割の重要性を理解し、それを自らの武器として磨き上げていきます。
これは、「自己効力感(Self-Efficacy)」と密接に関係しています。自己効力感とは、心理学者アルバート・バンデューラ(Albert Bandura)が提唱した概念で、「自分が特定の状況で目標を達成できる」と信じる力を指します。自己効力感が高い人ほど、困難に直面しても諦めずに挑戦し続け、成長し続けることができるのです。
バンデューラは、自己効力感を高めるための4つの要素を示しています。

1. 成功体験(Mastery Experience)

  • 実際に成功した経験を積むことで、自信を深める。
  • 桜木も最初は未経験者でしたが、リバウンドで活躍する経験を積み重ねることで、試合の中での役割を確立していきました。

2. 代理経験(Vicarious Experience)

  • 他者の成功を見ることで、「自分にもできるかもしれない」と感じる。
  • チーム内で努力して成長する仲間の姿を見て、自分も挑戦しようと思う気持ちが生まれます。

3. 言語的説得(Verbal Persuasion)

  • 周囲からの励ましやポジティブな言葉が、自信を強化する。
  • 安西先生の「私だけかね…まだ勝てると思っているのは…」という言葉は、試合の流れが悪くなっている状況で、選手たちに可能性を信じさせるものでした。

4. 生理的・感情的状態(Physiological & Emotional States)

  • 過度なストレスや疲労は自己効力感を低下させる。
  • 精神的な安定や適度な休息が、より良いパフォーマンスにつながる。

メンバーの自己効力感を高めることがまずは重要となります。

【図2】リバウンドを制する者は試合(ゲーム)を制す

天上天下唯我独尊男がパスを!!

山王戦残り4分半で流川が赤木にパスを出します。流川を知っているメンバーは驚きます。山王の沢北も「こいつがパスを・・・いい判断だ・・・」と敵ながらに喜び笑みを浮かべます。

流川がパスを出したことは、彼の自己中心的なプレースタイル(「唯我独尊男」)からの大きな変化を象徴しています。この行動は、個人からチームプレイヤーへと意識が移行した重要な瞬間であり、組織行動学の観点からも、社会的アイデンティティ理論(Social Identity Theory)、トランスフォーメーショナルリーダーシップ(Transformational Leadership)、チーム効果性モデル(Team Effectiveness Model)などで説明ができます。

例えば、この変化をチーム効果性モデル(Team Effectiveness Model)の観点から見ると、流川の行動は「チームの相互依存性」と「状況適応力」の重要性を示しています。
流川は当初、自身の得点力で試合を決めることにこだわっていましたが、勝利のために最善の選択をするという視点へとシフトしました。これは、「集団の目標が個人の選択を方向づける」というチームの成熟度を表しています。さらに、流川が仲間を信頼しパスを選択したことで、「役割の最適化」と「協働によるシナジー効果」が生まれ、チーム全体のパフォーマンスが向上しました。
このように、個々の強みを活かしながら、チーム全体の勝利に向けて意思決定することが、真のチームワークの鍵となります。

【図3】天上天下唯我独尊

俺たちならできる

山王戦、背中を痛めた桜木が交代してしまいます。残り1分強のところで桜木が再度コートの中へ。2022年に公開された映画「THE FIRST SLAM DUNK」では少しシーンが変わります。宮城が5人を集め、山王対策を伝えたあと、言います。「俺たちならできる」と。スタンフォード大学の心理学者アルバート・バンデューラ氏はこれを「集団的効力感」(Collective Efficacy)としています。「集団的効力感」とは、組織全体で共有される「私たちならできる」という信念を指します。 達成できるという信念は、個人の能力の総和ではなく、チーム全体として持つ力への前向きな確信を表しています。

ここまでお読みいただき、ありがとうございます。この「俺たちならできる」という「集団的効力感(Collective Efficacy)」が持つ力をより具体的に感じ取っていただきたく、SLAM DUNKを例に書いてまいりました。

スポーツの世界だけでなく、私たちの仕事や日常生活においても、チームが一体となり「自分たちならできる」と信じることは、非常に大きな意味を持ちます。バンデューラ氏の研究によれば、「集団的効力感が高いチームは、挑戦的な目標に取り組む意欲が増し、困難に直面しても諦めずに努力し続ける」とされています。まさに、湘北が山王に挑み、逆境の中でも最後まで戦い抜いた姿勢と重なるものがあります。集団的効力感は、単なる楽観的な気持ちではなく、メンバー同士の信頼や、共通の目標を持つことで生まれる、根拠のある確信なのです。

「俺たちならできる」という言葉には、リーダーの鼓舞だけではなく、仲間同士が支え合い、信じ合うことで生まれる強さが込められています。SLAM DUNKの物語を通じて、皆さんにもこの力を改めて感じていただけたなら、筆者としてこれ以上嬉しいことはありません。

【図4】集団的効力感

日本企業に足らないもの

「SLAM DUNK」は、個々のキャラクターが自己効力感を高めながらチームとして成長し、組織行動学的な理論を実感させる作品です。特に山王戦では、安西先生が選手一人ひとりに役割を明確にし、自己効力感や集団的効力感を引き出しました。このようなチームの中での個人の成長や貢献意識の形成は、アルバート・バンデューラの「自己効力感」や「集団的効力感」、エドガー・シャインの「組織文化論」に通じる要素が随所に見られます。

「SLAM DUNK」は「ヒト」で勝つチーム作りの本質を伝える作品として、多くの読者に感動を与え続けています。「俺たちならできる」という信念が、個々の能力を超えたチームの力を生むという集団的効力感の重要性を示しています。このメッセージは、現実の組織やチーム運営にも応用できる普遍的な教訓と言えるでしょう。

今、日本の大企業に足りていないのがこの集団的効力感ではないかと筆者は考えます。この会社にいて、このメンバーなら、達成できる!と感じられない組織が多いのではないでしょうか。挑戦する組織となり、学習し続ける組織になっていく必要があります。AIがコモディティ化していく中で、ある程度の判断はAIが代替してくれます。今後求められるのは実行力。各現場でやりきる力が求められます。その時に「集団的効力感」「俺たちならできる」という信念が重要となります。

是非とも「組織風土改革」についてディスカッションをさせていただければと思います。

実は、この記事を最初に書いた際にはSLAM DUNKへの熱い思いから中身について書きすぎてしまい、著作権の観点から法務部門から大幅に削除するようにと要請があり、今回の形となりました。SLAM DUNKについても熱く議論できればと思いますのでお打ち合せの機会を賜れれば幸いです。

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