【第29回】Fit to Standardで要件を決める秘訣は何か
◆この記事の要約
会計システム刷新において、精緻なRFPを作っても要件定義でギャップが露見し、アドオン開発が増えるリスクがあります。そこで本記事では、ERP/会計パッケージの標準機能を前提に、Fit to Standard検証を前倒しして要件を決める秘訣を整理します。
- RFPは提案品質の均一化・客観評価に有効だが、工数が膨大で、選定後のシステム要件定義で想定外のギャップが多発し得る。
- Fit to Standardの早期検証として、要件定義で行う実機検証(POC、CRP)を前倒しし、標準プロセスで業務が遂行できるかを深掘りする。
- RFIで候補ERPを2社~3社に絞り込み、Fit to Standard検証で適合性と導入ベンダーの実力値(製品知識、Q&A対応等)を把握したうえで意思決定する。
- 従来の「製品・ベンダー選定のためのRFP」から、「導入計画・見積もりの依頼としてのRFP」へ位置付けを変え、導入後の見積もりのブレのリスクを低減する。
このようなリスクを減らすために、企業が取り得る手段は何でしょうか?
例えば、全体構想策定段階から製品候補を調査し、システム要件定義の前に標準機能とGAPになりそうな業務について、Fit to Standardで導入できるか否かを検証することが一つの方法として挙げられます。
そこで今回は、ERPや会計システムパッケージによる「会計システム刷新」のキホンのキとして、会計システム刷新におけるFit to Standardによる要件定義の進め方をご紹介します。
オーソドックスな製品・ベンダー選定プロセスとは
「会計システム刷新」では、ERPや会計パッケージの選定として、下記のプロセスをご紹介しました。
【図1】従来型のベンダー選定
全体構想策定では、業務・システムの現状概要分析や、経理財務部門の目指す姿や取り組みテーマ検討などを行い、全体ロードマップとプロジェクト計画を策定します。業務要件定義では、目指す姿を具体化し、業務改革施策の立案や新業務プロセス設計を行ったうえで、システム化方針を策定します。
そしてこの段階で、導入するERPや会計パッケージと導入ベンダーの評価・選定を行います。
製品・ベンダーの評価・選定を精緻に行い、自社にとって最適なERPを選定するため、RFP(Request for Proposal:提案依頼書)が作成されます。RFPは初期調査で選定された数社~10数社の候補に対して発行されます。導入ベンダーからの提案内容は事前に決められた評価基準によって評価され、その後のプレゼンテーションやデモなどを経て、最終的な製品と導入ベンダーが決定されるという流れが一般的です。
製品と導入ベンダーの決定後、提案された導入作業やスケジュール、体制などを精査し、ベンダーとも協議のうえで導入にむけたプロジェクト計画を策定することになります。これらは、スクラッチ開発(自社の独自開発)におけるウォーターフォール型の開発方法論に近い方法です。スクラッチ開発では、事前にソフトウェアがないため、業務要件が固まるまで提案依頼できないのが通常です。しかし、ERPや会計パッケージは、すでに操作可能なソフトウェアがあるところが、スクラッチ開発との大きな違いです。
RFPを作成しても、なぜ蹉くのか
RFPは、現状の課題や次期会計システムの位置付けを明確にし、システム刷新の意図を各社に伝えて適切な提案をしてもらうために作成します。RFPは各社からの提案品質を均一化するツールでもあり、各社の提案内容を客観的に評価するためのフレームワークになります。
そういう意味ではRFPは非常に重要な役割を持っています。一方で、RFPを作成するまでの工数や、多くの候補ベンダーからの提案内容を理解し、比較検討を行う工数は膨大となり、非常にエネルギーのいる作業になります。
【図2】RFPによる評価選定
また、製品と導入ベンダーを決定した後は、実際の導入作業としてシステム要件定義に移ります。
しかし、システム要件定義の段階でユーザー部門である経理財務部門も交えて、ERPや会計パッケージの持つ標準機能や標準プロセスを評価した結果、RFP作成段階やベンダー選定段階では想定していなかったギャップが多く発見され、最悪の場合にはプロジェクトが頓挫するケースもあります。
【図3】よくある失敗例
つまり一生懸命RFPを作っても、ERPやベンダーの見極めが正しくできるとは限らないということです。
Fit to Standardの早期検証
RFPは各社からの提案内容を一定レベルに保ち、客観的に評価を行ううえで重要なドキュメントであり、不要とは言い切れません。ただ、ERPや会計パッケージの選定でより重要なことは、検討候補となるERPや会計パッケージの思想を理解し、それらを使って業務が遂行できるかどうかの見極めを行うことです。
特に、昨今ではERPや会計パッケージの持つ業務プロセスに自社の業務を合わせるべきという考え方(Fit to Standard)が広まってきました。会計システム刷新をFit to Standardの考え方で実現するためには、それらの持つ標準機能やプロセスを最大限活用することが成功要因の1つとなります。したがって、Fit to Standardで実現できるか否かの見極めを早い段階から行うことが重要です。
Fit to Standard検証では、検討企業側とベンダー側双方で、それなりの時間とメンバーが必要になります。機能とプロセスに関する詳細な説明を受けながら、想定する業務をERPや会計パッケージの標準機能で可能かどうかの議論をするため、一日二日ではできません。具体的には、システム要件定義で行う実機検証(POC、CRP)を前倒しして、限定的に行うイメージです。
【図4】Fit to Standard検証
このような作業を行う対象となる候補ベンダーは自ずと絞られ、少数の候補に対して深い議論を行うことになります。Fit to Standard検証を行うことで、検討メンバーがFit to Standardの考え方に慣れ、製品選定前にERPや会計パッケージでの業務をイメージできるようになり、新システムのスムーズな導入を期待することができます。
Fit to Standard検証の進め方
ERPや会計パッケージの導入プロセスにFit to Standard検証を組み込む場合、一般的に下記のような進め方になります。
【図5】Fit to Standard検証によるプロジェクトの進め方
Fit to Standard検証を行うためには、その前にある程度候補となるERPを絞り込んでおくことが必要です。Fit to Standard検証は、検討企業側にもベンダー側にも工数がかかるため、多くの候補を検証することは現実的ではありません。場合によっては有料となる可能性もあります。できれば2社~3社に絞り込んでおくことを推奨します。
この絞り込みを行うために、RFI(Request For Information:情報提供依頼書)を作成し、製品概要・導入実績・特有要件への対応事例・導入体制・サポート内容・製品提供形態・価格などの情報をERP各社から収集します。書面だけで判断できない場合は個別の説明会やデモ等で確認することも必要です。
その後、絞り込まれたERPや会計パッケージについてFit to Standard検証を行い、各製品の標準機能での実現範囲や導入ベンダーの実力値(製品知識、Q&A対応等)を把握し、製品・ベンダーを決定します。
この段階ではまだ導入に関するスケジュールや費用は見えていないため、決定したベンダーに対してRFPを発行し、詳細な導入計画の提案を依頼します。
こう見ると結局RFPを作成するように見えますが、従来のRFPが製品・ベンダーの選定を目的としているのに対し、ここでのRFPは導入に対する提案と見積もりの依頼がメインとなります。また、Fit to Standard検証により適合性が評価された状態での見積もりとなるため、導入後の見積もりのブレのリスクを低減することができます。Fit to Standard検証は、システム要件定義以降も引き続き実施していくことで、ERPや会計パッケージの標準機能を使い倒すことが期待できます。
全体構想策定の前にFit to Standard実現性検証
全体構想を描く前に、その全体構想を実現するITやDXの現在地点を理解しなければ、全体構想が絵に描いた餅になりかねません。レイヤーズ・コンサルティングでは、全体構想を描く前にFit to Standard実現性検証フェーズを推奨しています。
【図6】全体構想策定前のFit to Standard実現性検証
Fit to Standard実現性検証フェーズでは、ERPや会計パッケージの標準機能を想定しながら、自社で大きく違うところはどこか、その違いをどう解決していくのか、解決するための利害関係者への対応はどうするかといった方向性を見極めます。
また、Fit to Standard実現性検証により、経理財務部門を中心としたユーザー部門がERPや会計パッケージの標準機能を事前に理解するため、全体構想策定フェーズにおいて「標準機能に無い自社都合の理想論の検討」にならず、自社の業務改革ポイントに集中した検討が可能になります。
まとめ
今回は、ERPや会計システムパッケージによる「会計システム刷新」のキホンのキとして、会計システム刷新におけるFit to Standardによるプロジェクトの進め方をご紹介しました。
Fit to Standard検証を前倒ししたプロジェクトの進め方は、今後のERPや会計パッケージの導入において主流となる進め方です。詳細については、是非レイヤーズ・コンサルティングにお問い合わせください。


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この記事の執筆者
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村井 泰三経営管理事業部
バイスマネージングディレクター -
山本 晶代経営管理事業部
ディレクター -
飯田 稜大経営管理事業部
シニアマネージャー
職種別ソリューション





