不正会計と経営改革シリーズ 【第2回】
不正を生む組織風土 ボスマネジメントの危険性

◆この記事の要約

不正会計は、内部通報制度をはじめとする制度や、監査の有無だけでは防げません。本記事では、組織風土、ボスマネジメント、忖度、未達報告の遅れがどう結びつき、現場の沈黙から不正が進行するのかを解説し、行動を歪めない経営設計の重要性を示します。

  • 不正会計は「やった瞬間」ではなく、「言えなかった瞬間」から始まる
  • 内部通報制度や監査があっても、組織風土と心理的ハードルが沈黙を生む
  • 強いリーダーシップやボスマネジメントは、忖度を通じて悪い知らせが上がらない構造をつくる
  • 不正防止の鍵は、統制の追加ではなく、未達報告や異論を評価できる経営設計にある
不正会計の調査報告書には、必ずと言ってよいほど同じ言葉が現れます。
「相談できる雰囲気ではなかった」「組織風土の問題です」。

 
制度も存在し、内部通報窓口もあり、監査も実施されていました。それでも現場は沈黙。問題は制度ではありません。「組織の空気」です。「組織風土」です。

強いリーダーシップは企業成長の原動力になる一方で、時として「悪い知らせが上がらない組織」を生み出します。

 
不正会計と経営改革シリーズ 【第2回】では、不正会計の背後にある心理的・組織的メカニズムを解き明かします。

なぜ現場は沈黙するのか

上記でも触れましたが、不正会計の調査報告書を読むと、必ず出てくる言葉があります。
「相談できる雰囲気ではなかった」「言い出せなかった」。
制度はあったのです。それでも、誰も声を上げなかったのです。

不正は“やった瞬間”ではなく、“言えなかった瞬間”から始まります。

多くの企業では、内部通報制度や監査機能が整備されています。形式的には、不正を防ぐための仕組みは十分に存在しています。しかし、それでも問題が発生する背景には、「制度があるかどうか」ではなく、「使われるかどうか」という本質的な問題があります。つまり、従業員が実際に声を上げられる状態にあるのかどうかです。

現場にいる人間は、問題の兆しを最も早く認識しています。数値の違和感、進捗の遅れ、説明のつかない処理。そうした小さな異変は、日常業務の中で確実に把握されています。それにもかかわらず、それが共有されないのはなぜか。それは、「言った後にどうなるか」という心理的な不安が存在するためです。評価への影響、人間関係の悪化、組織内での立場の変化。こうしたリスクを考えたとき、多くの人は沈黙を選択します。

この沈黙は、一度生まれると組織内で連鎖します。「あの人も言わなかった」「この程度なら問題にしなくてよい」という空気が形成され、やがてそれが組織の前提になります。結果として、不正は突発的に起きるのではなく、「言えない状態」が継続する中で、徐々に進行していきます。

重要なのは、この現象が個人の性格や倫理観の問題ではないという点です。むしろ、組織がどのような行動を許容し、どのような行動にリスクを感じさせるかという組織風土の問題です。沈黙が生まれる組織では、不正もまた自然に生まれます。この関係性を正しく理解することが、次の打ち手を考える出発点になります。

【図1】不正=沈黙のプロセス

ボスマネジメントの功罪

強いリーダーは、組織を成長させます。しかし同時に、「悪い知らせが上がらない組織」を生むことがあります。
強いリーダーによる「ボスマネジメント」は、意思決定のスピードを高め、組織の方向性を明確にするという点で大きな強みを持っています。特に変革期や成長局面においては、トップの強い意思が組織を前に進める原動力になります。しかし、その強さが一定の閾値を超えたとき、別の力学が働き始めます。それが「期待への同調」です。

トップが明確な目標や高い期待を示すほど、現場はそれに応えようとします。このとき重要なのは、「達成しろ」という直接的な指示がなくても、組織は自律的に動き出すという点です。現場は期待を読み取り、「この水準は外せない」と判断し、行動を調整します。その過程で、未達の可能性が見えたときに何が起きるか。多くの場合、「まずは何とかする」という思考が働きます。
ここで問題になるのは、忖度という現象です。忖度とは単なる配慮ではなく、「言われていない期待に応えようとする行動」です。この行動は、表面的には主体的で前向きに見えますが、結果として事実の報告を歪める方向に働くことがあります。特に数値に関しては、「まだ調整できる」「次で取り戻せる」という判断が積み重なり、報告のタイミングや内容が変化していきます。

重要なのは、このプロセスにおいて誰も不正を命じていないという点です。トップは結果を求めただけであり、現場はそれに応えようとしただけです。しかし、その相互作用の中で、「悪い知らせが上がらない構造」が自然に形成されていきます。ボスマネジメントは強力な経営手法である一方、その副作用としてリスクを内包していることを理解する必要があります。

【図2】リーダーの強さと組織パフォーマンスの関係

未達を言えない組織構造

未達は、ある日突然大きくなるわけではありません。最初は「少し遅れている」という小さなズレから始まります。そしてそのズレは、報告されないまま積み重なっていきます。不正は大きな嘘で発生するのではなく、小さな未報告の積み重ねで発生します。

多くの企業において、不正は一気に発生するのではなく、段階的に進行するプロセスの中で発生します。最初の段階では、単なる進捗の遅れや見込み違いに過ぎません。この時点で正確に報告され、適切な対応が取られれば問題にはなりません。しかし、ボスマネジメントの影響下では、「この程度ならまだ挽回できる」という判断が働き、報告が先送りされることがあります。

次に起きるのは、「時間で解決しようとする行動」です。例えば、来月で取り戻す、別案件で補填する、といった調整思考です。この段階ではまだ不正という認識はなく、あくまで業務上の工夫として扱われます。しかし、状況が改善しないまま時間が経過すると、次第に帳尻を合わせるための具体的な調整が必要になります。ここで初めて、会計上の判断に影響が及び始めます。

さらに重要なのは、このプロセスが個人の意思ではなく、組織の構造によって支えられている点です。未達を報告した際の評価、上司の反応、過去の経験といった要素が積み重なり、「言わない方が合理的」という判断が形成されます。つまり、未達が報告されないのは偶然ではなく、組織がそうした行動を選びやすくしている結果なのです。

結果として、不正は「やるかやらないか」の選択ではなく、「どの時点で戻れなくなるか」の問題に変わります。だからこそ重要なのは、不正の発生点を探すことではなく、その前段階にある未達報告の仕組みと心理的ハードルを見直すことです。ここに手を打たなければ、不正は形を変えて繰り返されます。

【図3】滑り台モデル(不可逆プロセス)

責任感の強い人ほど不正に近づく理由

不正は、能力の低い人が起こすものではありません。むしろ、責任感が強く、成果にこだわる人ほど近づいていきます。その理由は、悪意ではなく“善意”にあります。不正は、会社を守ろうとした人から始まるのです。

多くの不正事案を丁寧に見ていくと、「最初から不正をしよう」と考えていたケースは決して多くありません。むしろ、「このままでは迷惑をかけてしまう」「何とか目標に近づけたい」といった責任感から、判断が少しずつ変わっていくケースが目立ちます。特に成果へのコミットメントが強い人ほど、自分の担当領域で問題を止めようとし、結果として事実の共有を遅らせてしまいます。
ここで働くのが「正当化」の心理です。「一時的な調整に過ぎない」「次で取り戻せる」「今は会社のために必要だ」。こうした考え方は、本人にとっては合理的であり、むしろ前向きな判断に見えます。しかし、その小さな判断の積み重ねが、やがて元に戻れない状態を生み出します。

さらに、組織内では同調圧力も作用します。周囲が同じように行動している中で、自分だけが異なる判断をすることは難しくなります。問題を指摘することが「空気を読まない行動」と受け取られる環境では、正しい判断ほど実行されにくくなります。結果として、善意と同調が組み合わさり、不正が自然に進行していきます。
重要なのは、この現象を個人の資質の問題として片づけないことです。優秀で責任感のある人が同じように行動してしまうのであれば、それは個人ではなく、組織の設計に原因があります。不正を防ぐためには、人を選ぶのではなく、行動を歪めない環境を設計することが不可欠です。

参考:組織学習論で知られるクリス・アージリス(Chris Argyris)氏の「Defensive Routine(防衛的ルーティン)」
人は自分や組織にとって不都合な情報に直面したとき、それを正面から扱うのではなく、回避したり、問題を見えにくくしたりする行動をとる傾向がある。組織においては、未達やリスクといった言いにくい情報が共有されなくなり、その結果、実態よりも「辻褄が合っているように見える状態」が優先されてしまう。

【図4】「善意 × 同調圧力」掛け算

組織風土は設計できる

「組織風土は変えられないもの」と言われることがあります。しかし実際には、それは自然にできたものではなく、経営が積み重ねてきた結果です。

不正会計を防ぐために「風土を変える」と聞くと、抽象的で実行が難しいテーマに感じられるかもしれません。しかし、組織風土は偶然に形成されるものではなく、評価制度、報告プロセス、意思決定のあり方、そしてトップのメッセージによって日々つくられているものです。つまり、設計の対象として捉えることができます。

例えば、「未達をどう扱うか」は風土に直結します。未達が厳しく評価される環境では、現場は問題を早期に共有しにくくなります。一方で、早期の報告やリスクの顕在化を評価する仕組みがあれば、行動は変わります。同様に、意思決定の場で異論が歓迎されるのか、それとも避けられるのかによっても、組織の空気は大きく変わります。重要なのは、「何を言うか」だけでなく、「どのような行動が評価されるか」です。トップが透明性や誠実さを重視すると発信していても、実際の評価が短期成果に偏っていれば、現場はそちらに従います。風土は言葉ではなく、仕組みと行動によって定着します。

もし、自社において「言いにくいことが上がらない」「数字の前提が共有されていない」といった兆候があるのであれば、それは風土の問題であると同時に、設計の問題でもあります。不正を防ぐためには、統制を積み上げるのではなく、行動を歪めない経営設計に立ち返る必要があります。自社の状況を客観的に見直し、どこに構造的な歪みがあるのかを整理することが第一歩です。必要に応じて、第三者の視点を取り入れた検討やご相談もぜひご検討ください。

まとめ

不正会計と経営改革シリーズ 【第2回】では、不正会計の根底にある組織風土の問題と「ボスマネジメント」の危険性を解説しました。制度が整っていても、現場が声を上げられない「沈黙の組織」が不正を助長します。強いリーダーシップは成長を促す一方で、期待への同調や忖度が事実の歪曲を生み、未達報告の心理的ハードルが不正の温床となります。責任感の強い人ほど善意から不正に近づくため、個人の問題ではなく組織設計・組織風土の課題です。

レイヤーズ・コンサルティングでは、組織風土の設計と経営管理の改革を通じて、不正リスクの低減と持続的成長を支援いたします。ぜひご相談ください。

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